~仮想化、ソーシャル、次世代の芽生え~
2009年 情報システムは新時代へ
2008年12月16日 コンサルティング部 吉川 日出行
年末が押し迫りあわただしくなってきた。例年にならって、IT業界で今年話題となり、かつ来年のITトレンドに影響を与えそうなキーワードを取り上げて分析してみたい。
企業のサーバルームに浸透する仮想化
企業内コンピューティングの分野で、今年業界を賑わせ来年も主役になりそうなキーワードのひとつが“仮想化”だろう。仮想化とは、物理的なハードウェア・リソースを抽象化し論理的(仮想的)なリソースとしてユーザーに提供する技術の総称である。手法自体は古く30年以上前の汎用機時代から活用されてきたが、ここへ来て急速に企業内コンピューティングでの重要性を増している。
今、最も多く使われる仮想化技術は、ひとつのサーバを複数に分割して見せる「サーバ仮想化」と複数の記憶装置(ストレージ)を合成して見せる「ストレージ仮想化」である。どちらも既存のリソースを有効に活用し稼働率を上げるコスト削減効果がある。
特にサーバ仮想化は、サーバの台数を減らし設置場所や消費電力を削減する効果もあることから、グリーンITとの絡みもあって今後しばらく注目を集めそうだ。また、その先にはユーティリティ・コンピューティングのひとつの完成形ともいえる「デスクトップ仮想化」がやってくる。
これら“仮想化”に共通する最大のメリットは、システムの柔軟性や俊敏性の確保である。従来の大きな実物の筐体をセンターに導入する方法は、システム導入までに多くの時間がかかってしまい、これは今日のビジネス環境においては許容できなくなりつつある。
また、仮想化の副次的効果にアプリケーション実行環境の分離がある。仮想化を実現すると、サーバマシン上のOSを含むアプリケーションの実行環境は、基本的には単なるイメージファイルになる。このイメージファイルを他の仮想化環境へコピーすればそのまま実行が可能だ。BCPを検討する際にこれは大きなポイントのひとつであるとともに、古くなったレガシーシステム内のソフトを生きながらえさせることも仮想化技術を使えば実現可能だ。最近話題のクラウド・コンピューティングにおいても、その現実的な実装技術として仮想化技術は来年以降も着実に実績を伸ばすだろう。
企業のサーバルームへの仮想化技術の浸透は2009年も着実に進み、近い将来、企業内の多くのコンピューティング資産は仮想化環境に移行されるだろう。そしてそろそろ、仮想化技術から「仮想化基盤」へと呼び名も変わるはずだ。
ネットによって全てがソーシャル化する
BtoCの分野では“ソーシャル”がブームである。昨年の後半に提唱され始めたソーシャル・グラフというコンセプトが、2008年末になって大手ベンダー各社から現実化・実装されてきた。
12月4日に米Googleと米Facebookがそれぞれ「Google Friend Connect」「Facebook Connect」をリリース、これに先立ちブログソフトの開発者であるシックスアパートが「Type Pad Connect」を11月に発表、マイクロソフトもWindows Liveを大幅に拡張してソーシャル機能を追加すると発表し、12月から着々と実装が始っている。
これらに共通するのは、ホームページやブログ、メッセンジャーといった既存ツールに、SNSが得意としてきたパーソナル情報の提供や、招待、フレンド登録などの機能を付加していることである。かつての“ソーシャル”は誰でも情報発信できることや発信者同士が出会い繋がって交流することを指していたが、ソーシャル・グラフの時代には、その繋がりの情報を情報の海からの選別や抽出に活用する方向へと変わった。
例えば、より多くの人が関心を寄せた情報を大切な情報として可視化し、ランキング化等によって重要性の判断を支援する仕組みが登場している。これらのソーシャル機能を活用すれば、「自分と分野が重なる専門家や同業界のキーマンの関心を常にウォッチしたい」といったニーズへも応えることができる。重要情報や関連情報の可視化だけでなく、群集の叡智を使って未来を予測したり、人の繋がりや相互の影響度合いを可視化することで新しい活用法が生まれる可能性もある。
ソーシャル化は大手新聞社やテレビ局などのコンテンツにも及んでおり、インターネットの全てのサイトとコンテンツは近い将来ソーシャル化するとも言われている。この流れは2009年以降、一般企業の発表するコンテンツや企業内にも確実に訪れるだろう。
不況は技術革新のきっかけ
最後に、今年後半に最も社会へのインパクトが大きかったのは、米国発の金融危機であろう。米国でのバブルが弾けた結果、100年に一度という大混乱のまま年を越すことになりそうだ。金融危機の影響により、世界各国で景気が減速し、企業は投資を控えはじめた。景気減速のIT投資への影響は通常1~2四半期遅れて訪れるとされてきたが、今回は予定していた投資案件が凍結になったり、走っていたプロジェクトが規模を縮小するなど、早くも各所でその影響がみられているようだ。
しかし、その一方で不況期は新しいビジネスモデルを持ったベンチャービジネスが台頭する時期でもある。思い出して頂きたい。2000年にITバブルが崩壊した際にも強い意欲を持ったIT業界の技術者達が根気よく効率の良いサービス作りに取り組んだ結果としてITは劇的に進化し、米国ではGoogleやAmazonといった企業が一流企業入りを果たしたことを。
わが国でも、90年代のバブル崩壊期の不況の時期に、いくつものベンチャー企業が従来のビジネスモデルを打ち破った。まつもとゆきひろ氏が仕事量が減って自由に使える時間が増えたことを生かして、現在多くのWeb技術者から支持されるオブジェクト指向スクリプトRubyの開発を始めたのもこの時期だ。不景気の時代にこそIT業界には革命が起きるのである。
景気減速は雇用にも影響を与え、日本はまた就職難の時代に逆戻りだと言われている。前回の就職難の時代に、大企業の外では積極的にITベンチャーを立ち上げ第一線で活躍した世代が現れた。1976年生まれの「76世代」と呼ばれる彼らは、今も日本のIT産業で重要な一角を占めている。奇しくも来年就職の世代は86年生まれである。この86世代から、将来の日本を動かす人が出てくるかもしれない。
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