~金融危機以降の不況を乗り越えるためのCRMとは?~
インターネット時代のCRMを考える
2009年6月19日 ビジネスコンサルティング部 吉川 日出行
情報革命以降、インターネットは若年層を中心に着々と家庭や社会へ普及・浸透し今や企業が自社の商品やサービスを売るときにはインターネットの存在抜きでは考えられません。そして2008年に発生した金融危機以来、日本の各企業は未曾有の大不況時代に突入しています。こうしたモノが売れない時代に、インターネットを活用して効率的にマーケティングやCRMシステムを構築するポイントについて考えてみます。
インターネットの普及に伴い変化する消費者行動
1990年代後半のインターネット革命、そしてつい最近のGoogle主導によるWeb2.0時代の到来は人々の日々の生活を大きく変えつつあります。並行して進んだIT技術の進化とネットワークの充実により、パソコンは1家に1台のものから1人に1台のものとなり、今や日本人の大半が携帯電話を手にし若い世代の中には一日中ネットに接するようなライフスタイルをとるような人さえ現れ始めています。
こうした社会環境の変化により、人々が商品やサービスを購入する際の消費者行動にも変化が見られると言われています。アメリカのローランド・ホールという人が提唱していた昔のAIDMAという消費者行動モデルでは、消費者はAttention(認知)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)の順で購買決定プロセスをとっていくとされていました。しかし最近の消費者は、検索エンジンを使った事前の調査や購買後の体験共有などインターネットを使った行動を消費過程に取り入れていると言われます。日本の大手広告代理店である電通では、新消費者行動プロセスとしてAISASというプロセスAttention(認知)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)を提唱していますし、博報堂ではさらに細かく分類したABCDEEF Attention(認知)->Bookmark(興味)->Comparison(比較)->Decision(決定)->Experience(体験)->Expansion(拡散)->Fan(継続顧客)というモデルを定義しています。
老舗企業やBtoB企業もネット活用を始める
こうした社会へのインターネットの普及と利用の浸透は、今や旧来型のビジネスモデルを持つ企業でも無視が出来ないものとなっています。最近では、こうした老舗企業がインターネットを新しい営業チャネルだと捉えて活用をする動きが増えてきています。
例えば平成19年に民営化されるまでは長年国営企業であった郵便事業株式会社(以下日本郵便)でも、近年伸び並んでいる年賀状の売上回復策として、平成19年(平成20年の年賀状)からインターネットでの年賀はがきの通信販売やインターネット上で年賀状を描く事の出来るサービスを始めました。特に年賀はがきの通信販売では最低5枚から受付けるという利用者の利便性を確保しつつ、インターネット経由で受注した年賀はがきは従来の郵便配達網を使って配達員が自宅まで無料で届けてくれるという従来のビジネスモデルを上手に生かしたやり方を編み出し、目立ったコスト増なく約240万枚を受注する事に成功しました。さらに平成20年(平成21年の年賀状)からは、インターネット上のコミュニティサービス事業者であるmixiと連携して、顔も名前も住所も知らないインターネットでの友人に年賀状を届けるサービスを開始し、約70万通を配送しました。
この240万枚や70万枚という数字は、それまでも年賀状を書いていた顧客層がネットにシフトしたものではなく、従来年賀はがきを購入して年賀状を書くことを面倒だと敬遠して電話や電子メールで済ましていた層を呼び戻したものだと推測されます。郵便事業者から見たこれまでのインターネットは、自社の提供サービスを置き換える敵でしたが、視点を大胆に替えて踏み込んでいった結果、新しい顧客層の掘り興しに成功しています。
他にもこれまでインターネットなど無縁だと思われていたBtoB中心の企業が、従来の発想を打ち破って、あっと驚くような活用をした例があります。大阪に本社をおく東海バネ工業株式会社(以下東海バネ工業)では、ウェブサイトでの技術情報開示等による新規顧客獲得工作を活発に行った結果、5年間で年平均200件の新規顧客を獲得しています。
東海バネ工業は、多品種微量受注生産に特化したばねメーカーですが、ホームページを大幅に改訂してこれまで門外不出だったばね業界の製造ノウハウを公開しました。例えば設計技術者のために企業秘密としてきたバネの設計方法や応力(バネの力)の計算方法などを公開し、そこからオーダーメードのバネを1個からオーダーできる仕組みを実現しています。
ホームページの作成にあたってのコンセプトは3つ。「顧客が求める性能・機能を持ったばねを、顧客が欲しいときに、1個からでも欲しい量だけ提供する」「自社の持つノウハウを使ってさまざまな形状、素材、性能のばねを設計、製造することで相手の抱える問題を解決をする」「十何年ぶりの再注文でも、前回注文と同じばねを簡単に注文できる」です。この3つのコンセプトをホームページとそのバックヤードのシステムで実現した結果、再オーダー率87%という高い顧客維持率をキープしたまま、ホームページ経由での新規顧客獲得を継続的に実現しています。
新しい時代のCRMは
CRMとは「Customer Relationship Management」の略語です。その名の通り、企業と顧客との取引ややりとりなどの接点に着目して、顧客と長期的・継続的な「親密な信頼関係」を構築し、その結果として顧客の利益と企業の利益を相互に向上させることを目指す総合的な経営手法を指します。CRMは経営手法ですから、別段ITを使ったシステムだけでなく営業や顧客管理全体の仕組みを示します。
受発注の仕組みや顧客からの電話対応の仕組みなどは広い意味ではCRMです。ただ最近ではこのあたりの業務分野は、大抵がIT化されていますのでCRM=システムだと捉える人も多いようです。
先ほど説明したようにインターネットの普及によって顧客の行動が変化してきています。当然企業と顧客との接点もこれにあわせて変化しますから、CRMも変化する事が求められます。
従来のCRMに対して、インターネット時代にあわせたeCRMというソフトウェアやサービスが登場しています。従来のCRMは、業務的には顧客管理業務の延長として営業職が顧客データベースや営業報告管理などに利用する形態が多く、顧客接点としても対面営業以外では、電話問い合わせ窓口による対応業務(コールセンター)を対象にするくらいでした。
それに対して、インターネット時代のeCRMでは、電子メールやメールマガジン、ホームページ、他にはATM端末や携帯電話など、様々に発展した現在の顧客との接点(コンタクトポイント/タッチポイント)を最大限に活用して、より効率良く効果的に顧客へのアプローチを図る仕掛けが取り入れられています。これまでの取引経緯や顧客からの問い合せ内容に合わせて、自動的に送信する宣伝内容や返信するメールを切替えるなど従来の人的な対応では出来なかった対応を実現したり、顧客自身によるホームページによるセルフサービスを充実させるなど、各種の効率化やアップセルやクロスセルの為の仕掛が実装されています。
先ほど例に挙げた日本郵便や東海ゴム工業の仕組みは、まさにeCRMだといえるでしょう。このようにいままでインターネットなんてうちの会社には関係ないと思っていた会社も、そろそろインターネットの活用を検討してみるべき時期がきています。
eCRMについては、今様々なベンダーがいろいろなアイデアを出しながら、新しい仕組みやシステムを発表しています。SaaSと呼ばれるシステムを保有せずにサービス形式で提供するもの、単なるシステム提供ではなくマーケティングのプロセスごとアウトソーシングするようなサービスなど実に様々なものがあります。
未曾有の不況下である今日では、売上予算は拡大傾向にあっても営業の経費予算は縮小傾向にあります。今までと同じ陣容で今まで以上の数字を上げる事を要求されています。ITを上手に活用して、インターネットという新しいチャネルを開拓するとともに、システムによる自動化で人手による営業関連の事務作業を効率化してみては如何でしょうか。
- *文中の日本郵便の事例は、2009年6月2日開催の「宣伝会議Internet Marketing & Creative Forum 2009」における『郵便年賀.jpのデジタルマーケティング』という講演配付資料を参考にみずほ情報総研が作成しました。
東海バネ工業の事例は、一橋ビジネスレビュー2009SPR号の『第8回ポーター賞受賞企業に学ぶ』という記事を元にみずほ情報総研が書き直しました。
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2009年7月15日 水曜日 13時30分~17時00分


