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2009年6月30日 社会保障 藤森クラスター 藤森 克彦
「給付つき税額控除」をめぐる議論が活発になってきた。6月23日に政府が発表した「骨太の方針2009」では、2011年度頃までに子育て等に配慮した低所得者支援策として、給付つき税額控除などについて論点整理をするとしている。また、首相が有識者を集めて開催した「安心社会実現会議」の報告書(09年6月15日)でも、11年度までの緊急施策として「子育て世帯、働く低所得世帯を支援する給付つき児童・勤労税額控除の創設」をあげている。
筆者は、ワーキングプア層への生活支援策として、給付つき税額控除を導入することに賛成である。一方で、単一施策としてのみならず、後述する「トランポリン型社会保障」といった中長期的ビジョンの中に位置づけていくことも重要だと考えている。
そもそも、「給付つき税額控除」とは何か。これは、通常の税額控除に給付金を組み合わせて、低所得の子育て世帯や就労世帯(ワーキングプア層)を支援する仕組みである。通常の税額控除では、課税所得に税率を掛けて算出された税額から、税額控除分を減税できる。当然のことながら、所得が課税最低限以下であれば税金を納めていないので、税額控除の恩恵を受けられない。これに対して、給付つき税額控除では、課税最低限以下の子育て世帯や就労世帯には、税額控除相当分を給付金として支給する。低所得世帯はマイナスの税を支払う―つまり給付を受ける―ことになるので、「負の所得税」と呼ばれている。
給付つき税額控除のメリットは、低所得世帯の就労意欲を損なうことなく、生活支援できることにある。すなわち生活保護制度では、稼働所得があればその分給付が減らされ、最終所得は一定水準に設計されている。これに対して給付つき税額控除では、最終所得は生活保護給付よりも高い水準に設定されるとともに、働けばその分最終所得が増える仕組みになっている。また、生活保護制度で行われる「資力調査」がないので、受給者は屈辱感をもたずにすむ。
一方、低所得者への支援策としては、最低賃金の引き上げも考えられる。しかし、最低賃金の引き上げは零細企業などの経営を圧迫して、低所得者の雇用が減少する恐れがある。この点、最低賃金と給付つき税額控除を組み合わせれば、こうした企業負担を軽減できる。
既にいくつかの先進国では、給付つき税額控除を導入している。英国では、03年からワーキングプアを対象に「勤労税額控除(Working Tax Credit)」を導入した。例えば、週30時間就労し、最低賃金に相当する年収8,940ポンド(約134万円、1ポンド=150円で換算)の25歳以上の単身世帯には、年間1,685ポンド(約25万3千円)が給付金として支給される。50歳以上の就労者や障害のある就労者などであれば、給付金は加算される。ただし、年収増加に応じて給付金は一定割合で減少し、上記単身世帯では年収1万4千ポンド(約210万円)以上になると給付金は停止される。なお、英国では、勤労税額控除以外に、低所得の子育て世帯を対象にした「子供税額控除(ChildTax Credit)」も導入されている。
注目すべきは、英国の勤労税額控除は、「トランポリン型社会保障」という新たな社会保障ビジョンの中で導入された点である。従来の社会保障は、福祉手当の支給などによる最低限の生活保障に重点を置いたのに対して、「トランポリン型社会保障」は人々の就労支援に重点を置く。具体的な施策としては、(1)職業安定所などを通じた失業者などに対する就職活動支援と職業訓練の強化、(2)賃金を魅力的にする施策の導入、(3)ワークライフバランスや保育所整備などの働く環境の整備、があげられる。そして勤労税額控除は、上記の「賃金を魅力的にする施策」として最低賃金制とともに導入された。
「トランポリン型社会保障」の背景には、働くことが何よりもの生活防衛になるという考え方がある。また、勤労税額控除の導入や職業訓練の強化には、短期的には資金を要するが、長期的には福祉手当受給者が納税者に変わることで、財政負担の軽減も期待できる。さらに、職業訓練等は「経済の担い手」の育成にもなる。つまり、こうした施策への支出は、「将来への投資」と考えられている。
翻って日本をみると、高齢化とともに、労働力人口の減少も進んでいく。社会保障を拡充する必要がある一方で、働ける人には「トランポリン型社会保障」によって労働市場に戻す仕組みも求められる。低所得者の生活防衛と「経済の担い手」の育成の双方に資するビジョンを構築して、その中に給付つき税額控除を位置づけることが重要になろう。
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