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2010年7月20日 ビジネスコンサルティング部 菊地 徳芳
当社が明治大学と共同で実施した「公共サービス改革に関するアンケート調査」(2010年3月実施、*1)において、「コスト削減よりもサービス品質向上に重きをおきたい」とする自治体が増えつつあることが明らかになった。懐が厳しい自治体にあっても、サービス品質の向上は常に課されている命題なのだ。
とはいえ、この結果に違和感を覚える方も多いかも知れない。経済が低迷し税収が落ち込むなかにあって、「何はともあれ、歳出削減が最優先されるべきではないか」と。確かに、今後「サービス品質を現状維持しながら、コストをさらに削減する」とした自治体は、これまでの7割から5割へと減ったとはいえ、依然、コスト削減意識は根強い。
しかしながら、これまでは一部であった「コストを現状維持しながら、サービス品質をさらに高める」とする自治体が、今後は大幅に増えて、全体の3分の1を占めるまでになる。これだけの割合の自治体が品質志向に舵を切ろうとしていることは、今後の行政改革にも大きなインパクトを与えるだろう。自治体がコスト削減から品質向上への転換を図ろうとする背景は何か。これには、コスト削減に偏重しがちであったこれまでの行政改革で生じた、サービス品質の停滞・低下への危機感や反省、さらには、その過程でサービス提供組織として自治体が抱えてきたツケやひずみへの問題意識があると思われる。
実際、自治体が自らの行政改革の成果と今後の課題に対して下した評価は、意外なほど明確だ。これまでの行政改革の成果については、9割もの自治体が「職員の人件費の削減」や「事業費の削減」といったコスト削減効果を挙げている。一方、今後の課題として「職員の人件費の削減」を挙げる自治体が2割であるのに対し、7割の自治体は「職員の意識改革・取組意欲の向上」を課題としている。また、「事業費の削減」を課題とする自治体は4割に留まり、5〜6割の自治体では「サービスの品質向上」や「住民ニーズに適った新規施策の展開」の方を課題と考えていることがわかった。
さらに、別の設問への回答では、「職員の事務作業(時間外勤務、休日出勤等)の増加」や「職員の取組意欲の低下・やらされ感の広まり」といった職員の働きやすさの低下を問題と感じている自治体が半数以上であった。これは、「サービスの利用しやすさ、提供のすばやさ等の低下」や「利用者一人ひとりにあわせたサービス等の縮小」といった住民に対するサービス品質の低下を問題としている自治体が1〜2割であるのと比べると、際立って多い結果である。
まさに、自治体におけるこれまでの行政改革は、サービス提供にかかるコストの切り詰めに重きをおき、その影響がサービスの品質低下に極力転嫁されないよう、その多くを自治体内部、特に各職員の側でやりくりしてきた、という意識が浮き彫りになったかたちだ。それでは、今後自治体は、住民ニーズに適ったサービスを展開し、その品質を維持・向上していくためにどのように取り組んでいけばよいのか。前述の調査結果から、「品質志向の新しい経営モデル」のヒントを探ってみたい。
サービス品質を維持・向上していくために、行政組織として今後自ら伸ばしていきたい能力として、7割の自治体が「課題・ニーズを踏まえた政策の形成能力」や「職員の意識改革・取組意欲の向上」を挙げた。今後重視していきたい具体的な取り組みとしても、6割の自治体が「各部署における自律的な業務改善運動」を挙げている。「品質志向の新しい経営モデル」のイメージとして、今後は、職員の意識改革・取組意欲の向上をベースとしながら、地域や住民の課題・ニーズを的確に捉えた政策を形成し、各部署における自律的な業務改善運動を通じて、品質の高いサービスを提供していきたい、というわけだ。
これは、民間企業におけるサービス・プロフィット・チェーンの考えとも類似している。民間企業では、職務満足度の高い従業員は、顧客への対応向上意欲や作業効率も高く、その結果、サービスの品質は向上し顧客も満足し、そうした対応を通じて従業員のモチベーション等も向上する。満足した顧客は再購買・関連購買によってその企業業績(利益)が長期的に向上し、それもまた従業員の職場環境に還元される。
しかし、公共サービスにおいては、いくつか注意が必要である。まず、民間企業では、顧客は数あるサービスの中から、あるサービスを選択し、個々のサービスの購入・支払いを通じて、当該サービスを評価することができる。一方、自治体が提供する公共サービスでは、住民が納める税金と個々のサービスの利用に直接的なリンクはなく、サービスの選択余地もあまりない場合が多い。民間企業での連鎖の中心となる利益の概念もないのだ。つまり、行政が提供する公共サービスでは、市場が存在する民間サービスとは異なり、サービスの品質が適正に調整されていく仕組みが乏しいのだ。だからこそ、民間にもまして、行政と利用者(住民)との間で、サービスの品質を適切に設定・評価することに十分な関心を払う必要がある。
さらに、民間企業に比べると、自治体の現場や個々の職員は、自らが提供するサービスに対して利用者(住民)から直接評価される機会、特に「プラスの評価」を感じる機会が少ないように思われる。これでは、より良い政策開発や業務改善のきっかけもつかめず、モチベーション向上にもつながりにくい。また、公共サービス改革、地域主権改革や公務員制度改革が進められているものの、各自治体で提供されるサービスは画一的な内容・水準のものが多く、民間に比べれば、人事や給与体系も未だ硬直的である。一方、住民側も、その多くは普段、公共サービスへの関心は低く、どちらかといえば時折生じる問題にのみ目が向きがちで、行政のサービスの良さを体感する機会が少ない。
今後、自治体がイメージするような「品質志向の新しい経営モデル」を進めるには、行政と住民との間でのコミュニケーションの仕組みを改善し、住民がサービスの品質を実感でき、自治体職員はサービスに対する評価を実感できることが重要だ。サービスの良し悪しに関わらず、行政は日ごろから住民に「評価される組織」へと変革することが求められるだろう。
「サービスの品質向上とコスト削減のバランス」に関する回答結果

(注)有効回答数:[これまで]265、[今後]261
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