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企業情報ポータルの本質に迫れ ワークスタイル変革こそ焦点

  • *本稿は、『日本工業新聞』2003年9月8日に掲載されたものです。

富士総合研究所 ナレッジソリューション部 シニアシステムコンサルタント 吉川 日出行

昨今、多くの企業やベンダーの間で「企業情報ポータル」の必要性が叫ばれ、実際にいくつかの企業で構築事例も出てきている。しかし、効果をきちんと上げているケースは少ない。筆者は、多くの企業情報ポータルが作りっぱなしで使われていない現状について、そもそも企業情報ポータルというものに対する誤解があると思っている。ここでは、その役割と位置付けを再確認し、構築上の留意点や今後の方向性を示す。

<ポイント>

  • 国内企業でも企業情報ポータルを導入する事例が増えてきたが、導入効果を上げているプロジェクトは、まだまだ少ない状況である。
  • 企業情報ポータル構築の本質は、従業員のワークスタイルを変革することである。それを実現するためには「コンテンツアグリゲーション」と「パーソナライゼーション」がキーワードとなる。
  • 今後は、企業情報ポータルを使ったアプリケーション統合やITガバナンスの実現が予想され、ますますその戦略的重要性は高まる。

効果の実態

情報化の進展に伴う企業内システムの乱立によって、業務を遂行するために朝から複数のシステムや端末に順次ログインを行い、さまざまなデータを入力させられた記憶はないだろうか。

このような情報の洪水に悩まされた多くの企業では、社内に企業情報ポータル構築プロジェクトを設置しつつある。表1に示したとおり、既に多くの米国企業で導入が進み、国内でもいくつかの企業では構築作業が終了し、導入・運用フェーズに入ったという。

表1 すでに企業ポータルを設置済みあるいは1年以内に設置すると回答

従業員向けポータル 80%
顧客向けポータル 49%
チャネル・パートナー向け 29%
サプライヤー向け 25%

(出典)米ジュピターの調査結果発表 企業向けアンケートの回答(2003年2月17日)

しかし、これまで構築されてきた企業情報ポータルの多くは、現実にはあまり役に立っていないように思う。実際、各企業で話を聞く限り、鳴り物入りで始まった企業情報ポータル構築プロジェクトのいくつかは、導入後の一時期は使われたものの、その後は衰退するばかりという「たなざらし」状態となっている。

なぜこういった状況が起きるのか。筆者は、企業情報ポータルというものの捉え方にその原因があると考えている。

企業情報ポータルは、「社内のさまざまな情報を集約または統合して従業員に提供する」ツールだと定義されている。集約または統合する目的は何か。それは、従業員の業務のやり方をより効率化させるためであろう。業務のやり方を変えさせる、つまり「従業員のワークスタイルを変える効果」がなければ、企業情報ポータルとは呼べないのである。

社内システムや分散する各種コンテンツのリンク集をまとめた企業内ネットワークシステムのトップページの整備を行っただけのものや、従来のグループウエアのインターフェースをウェブ化しただけのものは、企業情報ポータルとはなり得ない。毎朝、最初にリンク集を閲覧するようになったとして、従業員の業務のやり方は変わるだろうか。答えは否である。

従業員は各業務を遂行するにあたり、最終的には従来と同じように個別システムを順番に呼び出して処理を行うという、システムに合わせる従来どおりのワークスタイルからは脱却できないからである。

集約と柔軟な変更

では、ワークスタイルを変えることのできる企業情報ポータルとは、一体どのような機能を持つのか。

業務の遂行に不可欠なものは、システムへの入り口ではなく情報そのものである。したがってポータルに求められる最初の機能は、社内の各システム内に分散している情報内容をひとつに集約して表示することである。このコンテンツアグリゲーションによって、従業員は個別システムへアクセスすることなく必要な情報を入手することが可能となる。

もちろん、デザインの統一性といった制約などのために、ポータル画面上に表示できる情報内容には限界がある。したがって、各システムから取得し画面表示する情報内容の選別が必須になるが、このためには業務に対する深い知識と、情報内容を狭い画面に的確に配置する設計デザインという両方のスキルが必要になる。

次に、業務遂行上必要な情報というのは業務毎・担当者ごとに異なる。同じ業務を行っている担当者間でも、業務の進め方の違いによって、必要な情報というものは異なってくるものである。この利用者の属性に応じて提供する情報内容を柔軟に変更することをパーソナライゼーションといい、この機能は企業情報ポータルにとって重要だ。

ただし、実際にパーソナライズ機能を提供する場合には注意が必要である。自分の欲しい情報を、ポータル上の膨大な情報から自分の手で取捨選択し、自分用に最適化されたデスクトップ画面を自ら作成できるだけの情報リテラシーを持った従業員というのはそうそう存在するものではないからである。

さらに、ポータル画面の設定作業は余計な作業の増加ととらえられてしまうこともあり、こうなるとポータルの利用自体に拒絶反応を示されることも十分に予想される。この問題を解決するためには、あらかじめ業務・所属・役職といったいくつかの属性ごとにひな形となるユーザーフレンドリーなポータル画面を提供し、情報リテラシーの高い従業員にはそれをベースにさらなるパーソナライズできる権限を与えることである。

こうしてできあがったパーソナライズ画面のうち、優秀なものを広く紹介することで優れたワークスタイルの普及と伝導が行える。また、情報の提供者側から従業員に半強制的に情報を見せるプッシュ機能についても、全従業員に画一的に情報を垂れ流す方式よりは、個人属性に合わせたきめ細かな情報提供のほうが効果的である。

このコンテンツアグリゲーションとパーソナライゼーションが可能な機能を実装した企業情報ポータルを持って、初めて従業員は従来のシステムの束縛から離脱することが可能になり、自分自身の業務内容に基づいたオリジナルのワークスタイルを確立することが可能となる。

目的を明確化

表2に企業情報ポータル構築時の問題をいくつか挙げておく。この中で最も重要なのが、構築の目的と戦略の立案である。前述した「たなざらし」状態のポータルが出来上がる原因の多くは、導入の目的が不明確なことによる。

表2 日本の評価・認証制度で認証取得済みを公開する製品

全体構想

  • ポータル構築・導入の目的が不明確
  • どの部署・どの業務から導入するのが効果的かわからない

ポータル上のコンテンツの定義

  • 何を共有すればよいのかがわからない
  • コンテンツの維持管理方法や体制の整備
  • 社外のコンテンツの有効活用方法がわからない

ポータル連携先システムの抽出

  • シングルサインオンの実現方法
  • 既存システムへの影響範囲や修正点が不明

ユーザ登録管理の方法

  • 複数箇所でのユーザ管理やメンテナンス体制の整備
  • ロールの定義やアクセス権管理をどうすればよいかわからない

パーソナライゼーション

  • 個別業務におけるクリティカルな情報がわからない
  • どの単位でパーソナライゼーションするべきか?

スケーラビリティ

  • 既存ネットワークやゲートウェイマシンへの負荷影響やその対策
  • システムの利用規模の想定ができないためにハードウェア構成が見積もれない

セキュリティポリシー

  • アクセス範囲が拡大することによるリスクへの対応
  • 著作権法などコンプライアンス対応

ポータル構築プロジェクトは案外手軽に始めることができる。そのため、システム開発担当者が、自身の興味を満たすためにポータルを構築・導入してしまうことがまれにある。こういったポータルは安易な発想のもとに、手近ないくつかの関係の薄いシステム同士のみをつなげたり、現実の業務の手順や流れを知らないシステム開発担当者の思いこみのもとでデザイン設計されるため、非常に使いづらいものとなってしまう。

中には「ポータル」という名前を冠しただけのグループウエア製品を導入してしまうケースさえある。企業情報ポータルは、社内のコンテンツの統合を行うための基盤であるから、当然導入前には社内コンテンツの棚卸しをきちんと行う必要がある。同時に、個別システムを、そのライフサイクルに合わせて、将来的にどのように接続していくのかを構想として策定しなければならない。

そして、実際のポータル構築プロジェクトは、短いサイクルでポータルページや画面をスクラップ・アンド・ビルドしていく。この全体構想と短サイクルの開発の組み合わせこそが、成功のカギである。

もうひとつ、企業情報ポータル構築時に見落とされがちなのが、企業情報ポータルの先にあるコンテンツ群の運営・更新といった管理体制である。従業員はポータルが使いたくてアクセスしてくるのではなく、そこにある情報が必要だからアクセスしてくるのである。

したがって、情報が従業員にとって役に立たないものであれば、以降アクセスされなくなる。例えば、社内の有志による草の根サイト的なものでも、ポータル上にコンテンツが載ったものは、社内の準公式サイトとして認めるような体制的なフォローが必要である。作成者側から登録・申請させる仕組みなどを提供すれば、ポータルの運営側がコンテンツを探し出す作業コストを削減するとともにコンテンツの質の確保も可能となろう。

ITガバナンス

企業情報ポータル上のアプリケーションにおいて、システム間でデータ連携を行うことが可能となってきている。このポートレット間連携と呼ばれる機能では、 ERP(統合業務パッケージ)やEAI(企業アプリケーション間連携)が提供する処理能力や安定性は望めない。しかし、一つのアプリケーションへの入力情報をきっかけにしてポータル画面上の他の表示情報を自動的に変更したり、同じ情報内容を他のアプリケーションへも同時に反映させるといったシステムの疎結合を実現することは可能だ。

従来のERPなどによるシステムの密結合では、多大なコスト負担ならびにシステムの複雑化といったデメリットがあった。企業情報ポータルを使ったシステムの疎結合では、既存システムに大幅に手を加えたリプレース作業の必要はなく、比較的小規模な情報取得アプリケーションと連携ロジックの組み込みだけですむために、導入にかかるコストが下がることが期待されている。

また、昨今IT(情報技術)ガバナンスの重要性が叫ばれてきているが、その実現のためのツールとしても企業情報ポータルの適用が検討され始めている。従来、情報システム部門が共通的なインフラとして提供してきた端末やネットワークといった共通インフラを、インターフェースとセキュリティー基盤まで拡張して提供するという考え方である。

個別のシステムでこの部分を毎回開発するのではなく、統制された基盤上での開発と運用を行うことで、トータルコストの削減とセキュリティーの向上を実現しようというのである。この際の基盤として企業情報ポータルの利用が期待されている(図)。

図 ITガバナンスとしてのポータル基盤の提供

図 ITガバナンスとしてのポータル基盤の提供

企業情報ポータルの構築のためには、流行に踊らされるのではなく、その本質と管理面までを見据えた導入手順を選択することが望まれる。今後、企業情報ポータルは、企業内のIT基盤のなかで中心的な役割を果たすポテンシャルを有していることは間違いないのだから。

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