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進化するWeb技術とエンタープライズの新動向 (1/3)

  • *本稿は、『日立システムジャーナル』 2008年10月27日号に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 コンサルティング部 シニアマネジャー 吉川 日出行

1.産消逆転現象とEnterprise2.0

産消逆転現象といわれて久しい。旧来ICT系の技術はまず大企業が膨大な投資を行い開発し産業向けに活用法を模索し定着させ、その後一般消費者向けに廉価版として提供されていくという流れが常であった。ところが最近では一般消費者のほうが産業界よりも進んだICT技術を活用するシーンが増えてきている。一例を挙げると家庭へのネットワークの多くは光ファイバ化されテレビ放送もデジタル化によるオンデマンド化が進行し、何より携帯電話という最近のICTの粋を集めた機器は消費者主導で発展普及してきたものだ。システムの分野により視点を狭めてみても、たとえば宅配便の荷物の追跡&所在地確認のシステムなどは消費者分野ではすでに当たり前だが、企業内で配送の状況や社内便のありかをリアルタイムに把握するシステムが構築されているケースは少ない。このようにすでに時代は企業が一般消費者向けの最新のICTから学ぶ状況に変わりつつある。

こうしたICTにおける産消逆転現象が起こった原因はいくつかあるだろうが、そのうちのひとつに1990年代に登場したインターネットの普及がある。もともと軍事・学術向けに考えられたインターネットは、いまや多くの一般消費者に支持され社会でも大きな役割を担うようになった。われわれの生活上なくてはならないものだ。そしてその膨大なユーザを対象とした魅力的な市場をめがけて多くの新規企業が参入し今も激しい競争と高速な技術進化が起きている。

そんな動きの激しいインターネットの世界で数年前に大きな変化が起きた。その動きは劇的かつ急速に行われたためにある種のパラダイムシフトをもたらした。この大きな変化において、主に当時の激しい競争と変化に打ち勝ち生き残った新しいものの総称としてつけられた名前がWeb2.0である。

Web2.0の名付け親はティム・オライリーである。彼の手による「What is Web 2.0」のなかではWeb 2.0を特徴付ける7つのポイントが示されている。7つのポイントとは具体的には、「Folksonomy」「Radical Decentralization」「Rich User Experiences」「Radical Trust」「Participation」「Long tail」「User as contributor」である。{Web2.0については中島洋「企業におけるWeb2.0活用」(日立システムジャーナル2007/11月号)に解説があるので参考にして欲しい}

そしてこのインターネットにおけるWeb2.0の成功を見た何人かがこの流れがじきに企業内にも及ぶことを予言した。なかでもハーバード大学のアンドリュー・マカフィー准教授は「BlogやWikiに代表されるWeb 2.0の技術を企業のナレッジマネジメントツールとして利用すること」になると予想し、これをEnterprise2.0と呼んだ。(詳しくは同氏による「Enterprise2.0:The Dawn of Emergent Collaboration」を参照のこと)。

マカフィー准教授は、Enterprise2.0のキーコンセプトを6つにまとめてSLATESというニーモニック(記憶術、簡略化による言い換え)を提唱した。SLATESとは、Search(検索)、Links(リンク)、Authoring(情報発信)、Tags(タグ付け)、Extensions(拡張性)、Singnals(通知)の各々の頭文字を取ったものである。

Search(検索):ここ数年間の電子化の波によって企業内の情報も膨大な量になりつつあり従業員は欲しい情報や必要な情報を上手に入手できなくなってきている。この問題に対処するためのツールとしてインターネットで定評を得たサーチの企業内への展開が期待され、すでに大企業を中心にエンタープライズサーチの実装が始まっている。

Links(リンク):これも同様に膨大な情報を効率的に扱うためには、関連のある情報を繋ぎあわせて閲覧させることが効果的なことがインターネットで実証された。この応用で社内文書もリンクを埋め込んだハイパーリンク構造で取り扱うことの模索が始まっている。WikipediaのベースとなっているWikiというシステムを社内の文書管理系のインフラとして採用し、社内文書やマニュアルなどを相互にリンク構造化していくというものだ。

Authoring(情報発信):社内でもブログやSNSを導入して社員が気軽に簡便な情報発信を行える環境を提供する。こうしたツールを使うことで組織における情報の流通の流れが上から下への一方向から下から上、あるいは横同士といった違う流れに変っていく。

Tags(タグ付け):旧来の組織内情報は階層構造的なツリー形式で整理分類されてきた。これをタグを使うことでよりフラットな分類へ発展させようというのである。ツールとしてはソーシャルブックマークやソーシャルタギングと呼ばれるツールが使われる。

Extensions(拡張性)。このコンセプトはちょっとわかりにくい。インターネット上のツールはその激しい変化についていくために、あらかじめ後から修正や拡張がしやすいように工夫されていることが多い。組織内のシステムも今後はより単機能で軽快なシステムへ分化し、各機能を柔軟に連携させるようになっていくだろう。SOAやマッシュアップという技術の採用がこのコンセプトの具現化に使われる。

Singnals(通知):これもサーチと同じく膨大な情報をハンドリングしやすくしようということである。従来のPull型ではなくPush形式で情報を求めている人に情報を即座(リアルタイム)に送れるような環境は待ち望まれてきた。大企業で構築された企業情報ポータルや現在急速に採用が進んでいるFeeds(RSS)はここにあたる。

Enterprise2.0については、その後もいろいろな専門家が様々な定義や見解を示している。例えばコンサルタントのディオン・ヒンチクリフなどはSLATESの6つのキーワードにFreeform、Social、Network、Emergentという4つのキーワードを加えたFLATNESSESというニーモニックを提唱している。

だがEnterprise2.0を考えるときに果たしてこのニーモニック先行主義は正しいのだろうか。確かにニーモニックにあるキーワードに着目し、それを具現化できるツールを採用し活用していく方法もあるだろう。

実は先に紹介したオライリーの挙げた7つのポイントは、Web2.0に必須の条件というより、激しい競争に生き残ったインターネットの新しいサービスに共通する要素を、後から洗い出して整理した性格が強い。彼自身、「ネットバブル崩壊時に、ネットへの悲観論を唱える人々に対するアンチテーゼとしてWeb2.0というキーワードを提唱した」と語ってもいる。実際に初期段階では、従来のWebを1.0と位置づけ、単純にこれが発展した形式を2.0と呼んでいたようだ。

すなわち2.0の本質は“バージョンアップ”にあるのだ。これまでの企業情報システムをEnterprise1.0と捉えてそれを革新した企業情報システムがEnterprise2.0なのだ。こう考えるとEnterprise2.0を考えるときにニーモニックだけに拘泥するのは危険だ。いったん企業内情報システムの過去と現況に立ち戻って、今までに起きたことややってきたことを踏まえた上で、今企業情報システムに求められることを考えるべきだろう。

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