情報検索行動からのファインダビリティ向上 (1/3)
- *本稿は、『情報の科学と技術』 2008年12月号 (発行:情報科学技術協会)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 コンサルティング部 シニアマネジャー 吉川 日出行
情報爆発時代に即したファインダビリティとはなにか。そもそもユーザが情報をさがす際にはどのようなシーンがありどのような行動を取っているのだろうか?本稿ではユーザの情報検索行動に注目し、検索シーンをいくつかに分類して各シーンの特徴を考察する。次に各シーンにおけるファインダビリティを向上させるための手段(ツール)について検討を行う。また、検索エンジンの利用時のプロセスとその際の支援ポイントについても分析している。ユーザの情報検索行動は常に変化するものであり、ファインダビリティ向上のためには、シーン毎の特徴やプロセス毎のニーズに合わせた支援方法を検討することが肝要である。
キーワード:情報検索行動、ファインダビリティ、検索シーン、検索プロセス、情報爆発、検索エンジン
1.はじめに
情報爆発時代といわれて久しい。会社や組織での情報洪水に悩まされている人は少なくないだろう。
IDCの調査によると、2007年に生み出された情報量は281エクサバイト(1エクサバイトは1テラバイトの10の6乗倍)もの量になっており、これを地球上の全人口に当てはめると1人あたり約45GB となる。さらに情報量は年間平均約60%で成長しており、2011年には1.8ゼッタバイト(≒1、800EB)近くに達すると予想されている1)。世の中は空前の情報過多時代になったのだ。
ところが、こうして増えた情報の活用や再利用については、あまりうまくいってないといわれる。ある調査によると、組織内で作られた情報の大半は二度と使われることなく捨てられているとされる。
なぜこういうことが起きるのだろうか?筆者はその原因を、「デジタル化された情報を上手にさがすことができていないため」だと考えている。当然ながら情報を利用するにはその情報を入手する必要がある。さがすというのは情報を入手するための手段である。さがせないから利用できないというのが筆者の仮説である。
こうした問題を解決するにはどうすれば良いだろうか?筆者達はこれまでも数々のコンサルティングや調査を通じて、情報を探しやすくするファインダビリティ向上のための施策を考えてきた。本稿では以下にそれらから得られた知見を紹介していく。
2.検索シーンの分類
人が何かをさがすシーンには、いったいどのような種類があるのだろうか?われわれはこれまでの様々な企業へのコンサルティングやアンケート調査を通じて、ビジネスシーンにおける検索のシーンを、検索目的と検索方法という2つの軸で分けて考えている。
検索目的というのは、「さがす」という行為を行うにあたって、当面の目的としてのゴールイメージ(=答え)を明確に意識できているかという分類である。「さがす」という行為を行うにあたって、当面入手したいものを明確に定義している場合としていない場合がある。
次に、さがす方法を切り口としてみた場合は、「さがす」という行為を始める際に、さがす対象となる手段や場所をある程度特定してから作業を開始する場合と、さがす手段も場所もわからずにさがす場合がある。
この「さがす目的(検索目的)」「さがす方法(検索場所や検索手段)」を軸として、検索シーンとその支援手段(ツール)を分類したのが図1である。
図1 4つの検索シーンとその支援手段(ツール)

図の中の4つのシーンを,われわれはそれぞれ次のようにネーミングしている。
- (1)既知情報検索/再入手=一直線、思い出す
- (2)探求検索=試行錯誤
- (3)巡回/捜索=順に見る、巡回
- (4)散策=ブラブラと散策
この図の4象限のそれぞれの検索シーンと例を含めて順に説明する。
2.1 目的対象に向かって一直線または思い出す[既知情報検索/再入手]
例:旅費規定をさがす(あの規定どこにあったっけ?)
これはさがすものの対象を検索者がかなり明確にイメージできており、なおかつその答えが確実に存在することを意識したうえで検索をするシーンである。答えの存在が明確に意識できている理由は、以前に一度見たこと(入手したこと)があったり、ほかの人が「どこそこにあったよ」と教えてくれることなどによる。
さがす対象物が情報の場合、この再入手は「既知情報検索(あるいは知っているもの検索)と言い替えてもよい。実際に一度は眼にしたものをさがすケースでは「一直線」というよりは「思い出す」あるいは「再入手」と表現できる。人によっては「さがす」シーンの半分がこれらだという。
このように知っているものを再度手に入れる場合は、基本的にはその情報のある場所さえわかれば良い。したがって、再入手や既知情報検索の場合の検索者のゴールは情報そのものではなく「情報のある場所」であることも多い。この「一直線」または「思い出す」の場合、検索のゴールはまさに目的の情報を手に入れることである。特に「思い出す」(再入手)の場合は、検索行動の過程の段階で目的を果たすことはなく、最後にその願いがすべてかなえられる。すなわち、検索作業の満足度は0%か100%となる。
2.2 試行錯誤しながらさがす[探求検索]
例:新しいビジネスをさがせ
これは、自分が求めている情報をどこからさがせばよいかがわかっていない場合、あるいはどうやってさがせば良いのかがわかっていないという検索シーンである。
この例では目的は明確なのだが、答えが不明確なために検索者は求めているものをどのようにさがせばよいかを悩むことになる。通常こういったケースでの検索者の初期行動は、手近な人に聞いたり、思いつくかぎりのキーワードを検索エンジンに入力して手がかりをさがすといったものになる。手当たり次第的なアプローチなので試行錯誤型、あるいはあちこちとさがし回るので「探求型」と呼ぶ。
探求型の検索では、さがし始めた当初は手がかりが少なく、当面はいろいろな手段を使って検索を行うことになる。
そして、自分がさがしているターゲットが明確になるにつれて、さがす手段や場所も明確化される。時には、検索の過程で徐々に答えの存在が明確になってきて、途中で「既知情報検索」と同じ状態になることがある。
探求型のゴールも「既知情報検索/再入手」と同じで最後の答えを入手することで達成される。しかしながら、最後の答えが入手できなくても途中でさがしているものが明確化され所在場所の手がかりなどが得られれば、検索途中でも満足度が若干上昇する。
2.3 とりあえず入手できる情報を順に見て回る[巡回/捜索]
例:ライバル企業の最近の動きを調べる(内容は明確だが、キリがないのでゴールがない)
これは検索対象となるものの所在やその入手方法は漠然とわかっているものの検索の目的が曖昧な場合である。ライバル企業の最近の動向をさぐる、知らないことを勉強するといった指示を与えられて検索を行うようなシーンである。
こうした場合多くの検索者は、とりあえずそのライバル企業の最近のプレスリリースや関連新聞記事など具体的に入手できる情報を入手し、それらを順に見ながら次に関連する情報をさがしていき、最終的なライバル企業の動向を仮説という形式で浮き彫りにしていくという手順を踏む。目的が曖昧であるので、ゴールは不明確で、検索当初にはどこまでいけば終わりかもわかっていない。
もともと手に入る情報をベースにしてその背後にある最終目的を洗い出していくというのは、捜査に代表される犯人さがし的な要素を持つので「捜索型」とも呼べる。「捜索型」では、とりあえず見て回ってから本当のものをさがすという手順を踏み、実際の検索行動によって得られる1次情報はゴールとはならない。本当のゴールは検索対象空間には存在せず、入手できる情報を組み合わせることでゴールとなることもある。
2.4 ブラブラとながめながらさがす[散策]
例:好きな音楽をさがす。面白いものを目指してなんとなくネットサーフィン
このシーンにおいては、検索者は自分が欲しいという情報を明確にイメージできていない。欲しいものは、ぼんやりとはイメージできているが、どう言い表せば良いのかはわからない場合などもこのシーンに含まれる。さがし始める場所について目処がついていれば、とりあえずそこを見て回るという捜索活動を行うのであろうが、それも不明確なのがこのシーンである。具体的なシーンとしては、自分の好みに合った音楽を求めてさがすシーンが最もイメージしやすいだろう。
「散策」の場合のゴールは非常に主観的で刹那的である。本人が自分のイメージに近い答えを目の前にしても、もともとのイメージが不明確なためにそれを答えとするか、他にもっと良い答えがあると思うかはわからない。その時に「散策」を辞めるか継続するかもその人の主観的な判断による。
実際に答えがあるかは第三者にはわからないし、当の本人にもわからないことが多い。ただし、「散策」が検索行動の過程で「既知情報検索/再入手」や「探求検索」に変化するケースもある。さがしているうちに、自分が欲しがっているものの具体的なイメージが明確になりより具体的な「探求検索」になったり、検索対象の名前がわかってそれを入手するための「既知情報検索/再入手」に移るケースである。
2.5 4つのシーンの割合
さて実際のビジネス等の場面でこれらシーンがそれぞれどれくらい発生するのであろうか。これについてわれわれはビジネスマン約1、000名を対象にアンケート調査を行い、各シーンの割合を問うてみた。その結果、「既知情報検索」「探求検索」「巡回/捜索」が若干の差はあるものの3割程度でほぼ同じ割合、散策が残り1割強という数字になった。
2(3).ボトムアップ型、ニッチ分野での情報流通の見直し
多くの日本企業ではかつてQC活動などと称して、勤務時間後に有志が集まって現場における細かい無駄や無理を、ひとつひとつ取り上げて改善してくような活動があった。こうした活動によって、ベテランのノウハウが若手に委譲されるとともに、活動の結果が現場からボトムアップ的に上がってくる仕組みがあった。
各シーンの割合を質問したところ、(1)わき目も振らず、(2)試行錯誤、(3)とりあえず巡回、がそれぞれ1/3ずつとなった。
図2 4つのシーンのそれぞれの割合

出所:みずほ情報総研「ビジネスシーンにおける情報探索活動に関する調査」(2007)
この最後の散策については、どちらかというと時間に余裕のある際の暇つぶしやちょっとした合間に行われるものと推測される。ブラブラと眺めながらさがす場合、ブラブラしていること自体が目的となっていることも多くわざわざそういった作業を支援して欲しいというニーズは弱い。目的も手段も不明確な検索者に何かを手助けするというのは負担の割には得られる効果も低くあまり期待できない。
調査結果にもあるように検索に際して明確な目的がないケースは目的をもった経済活動であるビジネスシーン等ではあまり発生しない。したがって、ビジネスシーンにおいてコンテンツおよびシステム提供者側からファインダビリティの向上を考える際には、散策シーンの検討については他の3つのシーンより後回しにして良いと考える。
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