(2011年3月期第1四半期)(1/2)
資産除去債務会計基準の適用事例分析
- *本稿は、『週刊経営財務』 No.2984 (税務研究会、2010年9月27日発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 環境・資源エネルギー部 チーフコンサルタント 光成 美樹
はじめに
2008年3月に企業会計基準委員会から公表された企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」は2010年4月から始まる会計年度から適用が義務付けられ、上場企業を中心に2010年第1四半期より開示が始まっている。本会計基準は有形固定資産を除去する際に、法令や契約等で求められる除去にかかわる費用をあらかじめ債務として認識することを求めるものであり、投資判断へ有効な情報提供という観点から国際会計基準とのコンバージェンスプロジェクトにおいて基準化されたものである。
有形固定資産の除去時には、法令等で求められる環境関連法に基づく処理が求められるほか、借地や賃貸借資産の返却時には契約条件に基づき原状回復義務を負うことが多いことから、これらの費用が資産除去債務に該当する。
本稿では、日経225株価指数に採用されている大手企業を対象に、2011年3月期第1四半期における開示状況を分析した。なお、各社の四半期開示情報は、数値の重要性の判断等により項目別開示の状況等が異なっていることから、開示情報のみでの分析には各社の数値情報を完全に分析できないため、開示情報にもとづく概要として紹介するものである。
1 日本企業の適用事例分析
1)全体
日経225採用企業のうち、3月期決算以外の企業及び米国会計基準適用企業を除いた、176社(25頁参照)を対象としている。米国会計基準適用企業については、後述するように2009年度よりASCサブトピックとして資産除去債務の個別項目開示がなくなっており、一部の企業を除いては、個別数値が開示されていないためである。
(1) 開示・非開示の割合
176社のうち、131社は数値を開示しており、全体の約7割強となっている。数値を開示していない企業は38社であり、また、純利益への影響のみの開示企業が7社で、計45社、全体の26%となっている。開示していない企業を業種別にみると、倉庫・運輸関連、海運、鉄鋼業、不動産、化学、機械、鉄道・バスなどであり、重厚系の製造業等が比較的多く、一方でサービス業に関しては開示していない企業の割合が少なくなっている(図表1)。
図表1 資産除去債務計上額の記載がない企業の割合(軽微,損益への影響のみ,開示なし)
| 業種 | 開示無 | 企業数 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 倉庫・運輸関連 | 1 | 1 | 100% |
| 2 | 海運 | 2 | 3 | 67% |
| 3 | 鉄鋼業 | 3 | 6 | 50% |
| 3 | 医薬品 | 3 | 6 | 50% |
| 5 | 不動産 | 2 | 5 | 40% |
| 6 | 機械 | 5 | 13 | 38% |
| 6 | 化学 | 5 | 13 | 38% |
| 6 | 鉄道・バス | 5 | 13 | 38% |
| 9 | 証券 | 1 | 3 | 33% |
| 9 | その他製造業 | 1 | 3 | 33% |
| 9 | 窯業 | 2 | 6 | 33% |
| 9 | 銀行 | 4 | 12 | 33% |
(2) 総額と傾向等
176社のうち、数値を開示している131社の資産除去債務の総額は、1兆7,183億円であり、特別損失の金額は、2,694億円となっている。単純に平均すると一社当たりの債務額は、約131億円、特別損失は約2億円となるが、業種等によって相違がある。(*開示情報が統一されていないため、特別損失のみ開示の企業はその金額を資産除去債務として計上しているほか、一定のルールに沿って計算したものである。)
具体的には、電力業界の金額が大きく、資産除去債務は、全体の82%を、特別損失は38%を占めている(図表2)。これらは原子力発電施設解体引当金からの振替額が中心となっている。
総資産比率は、全体で0.18%、初年度特別損失の営業利益比率は、全体では9%となっている。
営業利益比率は四半期利益であるため、年度では2%程度と少ない割合であるといえる。
資産除去債務の総額が電力業界に次いで多いのは、石油、銀行、建設、通信の順となっている(図表4)。これらの業界別の総資産比率でみると、石油は一社のみであるが、全体の2.9%、銀行は、全体の2.4%となっている。資産除去債務の総資産に対する割合をみると、電力では、5.46%、石油は0.83%、鉱業が0.75%、陸運が0.61%となっている(図表5)。
図表2 特別損失(金額)
| 業種 | 金額(百万円) | 本調査対象の中の割合 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 電力 | 102,979 | 38% |
| 2 | 銀行 | 35,902 | 13% |
| 3 | 電気機器 | 11,577 | 4% |
| 4 | 自動車・自動車部品 | 11,187 | 4% |
| 5 | 通信 | 9,979 | 4% |
図表3 特別損失(営業利益比率)
| 業種 | 特別損失/営業利益 | |
|---|---|---|
| 1 | 小売業 | 152% |
| 2 | 陸運 | 92% |
| 3 | 空運 | 71% |
| 4 | 電力 | 67% |
| 5 | 窯業 | 50% |
【初年度影響】
初年度の特別損失についても、最も金額が大きいのは電力業界で全体の38%を占めるが、次いで、銀行、電気機器、自動車・自動車部品、通信、化学となっている。銀行業では、数十億円以上の資産除去債務を計上しているケースが多い。これらは、海外ではあまり見られない傾向であるが、後述する賃貸借資産の原状回復義務を計上したことが背景にあると考えられる。
四半期の営業利益に対する特別損失の割合をみると、営業利益に対する割合は平均して9%で、年間の決算においても2-3%と軽微な割合にとどまっている企業が大部分であると考えられる。特別損失が四半期営業利益を上回っているのは小売業のみであり、152%となっている(図表3)。季節影響があるため一概にはいえないが、年間の営業利益に対しても3割程度の特別損失が計上されていると考えられる。そのほか、陸運、電力、窯業などが四半期営業利益の5割を超える特別損失を計上している。
(3) 明細表の対象企業の割合
財務諸表等規則等では、資産除去債務の金額が総資産の1%を超える場合には、別途明細表を作成することとなっている。期首における総資産額でみた場合、本調査対象企業のうち、明細表作成の対象となる企業は、全体の2%にあたる4社のみとなっており、うち3社が電力会社、1社が不動産会社となっている。
図表4 資産除去債務(金額)
| 業種 | 金額(百万円) | 本調査対象の中の割合 | |
|---|---|---|---|
| 1 | 電力 | 1,403,448 | 81.7% |
| 2 | 石油 | 50,440 | 2.9% |
| 3 | 銀行 | 41,427 | 2.4% |
| 4 | 建設 | 30,500 | 1.8% |
| 5 | 通信 | 15,950 | 0.9% |
図表5 資産除去債務(総資産比率)
| 業種 | 資産除去債務合計/総資産 | |
|---|---|---|
| 1 | 電力 | 5.46% |
| 2 | 石油 | 0.83% |
| 3 | 鉱業 | 0.75% |
| 4 | 陸運 | 0.61% |
| 5 | 建設 | 0.35% |
2)業界別の動向
【エネルギー】
電力業界は、原子力発電施設解体引当金からの振替額が多く、本調査対象3社の合計額だけで1兆4,034億円となり、調査対象企業全体の資産除去債務の82%を占める。特別損失額も合計1,029億円となっている。電力会社は、本調査対象だけでなく、業界全体で約2兆円の資産除去債務を計上しており、総資産に対する割合も各社5%前後となっている。
石油業界は1社のみで、500億円強の資産除去債務を計上している。一方、ガス会社の計上額は少なく、2社の合計が40億円となっており、総資産に占める割合も低い。
電力・エネルギー関連業界における資産除去債務の規模を海外企業と比較すると、総資産に対して5%前後の資産除去債務を計上しているケースが多く、国内電力会社においても同等の規模での計上になったことが伺える(図表6)。
【小売り流通、外食】
小売業は2社であり、合計が61億円となっている。賃貸借資産が多い小売業、流通業、外食産業等は、資産除去債務の影響を受けやすい企業であるが、本調査の対象企業数は少なく、また業界内での規模も大きいことから総資産等に占める割合はそれほど高いとはいえない。しかし、営業利益に対する特別損失への影響は大きく、年度決算への一定の影響があると考えられる。
図表6 エネルギー業界の国際比較
| 東京電力 | 東京ガス | シェブロン | コノコフィリップス | パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック | フランス電力 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 本社所在地 | 日本 | 日本 | 米国 | 米国 | 米国 | フランス |
| 単位 | 億円 | 億円 | 100万ドル | 100万ドル | 100万ドル | 100万ユーロ |
| 決算期 | 2011年3月 | 2011年3月 | 2009年12月 | 2009年12月 | 2009年12月 | 2009年12月 |
| 売上 | 50,163 | 14,157 | 167,402 | 149,341 | 13,399 | 66,336 |
| 総資産 | 133,452 | 18,116 | 164,621 | 152,588 | 42,945 | 241,914 |
| 資産除去債務 | 7,641 | 33 | 10,175 | 8,295 | 1,593 | 20,353 |
| ARO/総資産 | 5.7% | 0.2% | 6.2% | 5.4% | 3.7% | 8.4% |
| 資産除去債務の概要 | 原子力施設解体引当金からの振替額等。 | N.A. | 原油・天然ガス施設,精製施設,化学工場の除却に係るもの。 | 海洋の石油ガス施設, 石油精製施設, パイプライン,アスベストの除去費用など。 | 原子力施設の解体費用など。規制に基づく計上方法の場合,将来費用で45.6億ドル,2009年で22.6億ドルだが,GAAPに沿い,公正価値で計上。 | 原子力施設の解体費用及び火力発電所の解体費用等。 |
| 備考 | 売上は2010年3月期 | 売上は2010年3月期 | 売上はSales and Other Operating Revenue | 売上はSales and Other Operating Revenue | 売上はOperating Revenue |
図表7 総資産比率が大きい企業(または資産除去債務明細表対象企業)
単位:百万円
| 証券 コード |
企業名 | 売上 | 営業 利益 |
総資産 | 資産除去債務について | 監査法人 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 特別損失 | 流動負債 | 固定負債 | 特損・営業利益比率 | 総資産比率 | ||||||
| 3077 | ホリイフードサービス | 1,521 | 48 | 4,149 | 219 | 396 | 457% | 9.5% | トーマツ | |
| 2901 | 石垣食品 | 144 | 0 | 484 | 0 | 8.3% | 東陽 | |||
| 8255 | 原信ナルスホールディングス | 29,453 | 961 | 53,895 | 1,361 | 2,279 | 142% | 4.2% | トーマツ | |
| 2196 | エスクリ | 1,505 | 61 | 3,830 | 34 | 150 | 56% | 3.9% | トーマツ | |
| 3311 | アップガレージ | 1,266 | 25 | 2,020 | 35 | 76 | 138% | 3.8% | トーマツ | |
| 4319 | TAC | 7,160 | 842 | 21,688 | 518 | 98 | 710 | 62% | 3.7% | 新日本 |
| 7823 | アートネイチャー | 6,739 | 5 | 24,592 | 432 | 889 | 8640% | 3.6% | 新日本 | |
| 8160 | 木曽路 | 9,909 | -615 | 38,167 | 819 | 1,373 | -133% | 3.6% | トーマツ | |
| 8182 | いなげや | 54,047 | 189 | 79,065 | 1,546 | 2,609 | -133% | 3.3% | 日本橋事務所 | |
| 9828 | 元気寿司 | 5,810 | -38 | 10,760 | 294 | 338 | -775% | 3.1% | 新日本 | |
| 4718 | 早稲田アカデミー | 2,945 | -700 | 10,106 | 98 | 284 | -14% | 2.8% | 新日本 | |
| 7513 | コジマ | 92,656 | 374 | 183,428 | 2,682 | 4,822 | 717% | 2.6% | 新日本 | |
| 2165 | メガロス | 3,469 | 19 | 17,284 | 100 | 8 | 445 | 526% | 2.6% | 新日本 |
| 7554 | 幸楽苑 | 8,569 | 361 | 20,320 | 305 | 519 | 85% | 2.6% | 新日本 | |
お問い合わせ
担当:広報室
電話:03-5281-7548
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