海運業界の新たなビジネス展開
最新LNG市場の動向
- *本稿は、『KAIUN』 2010年12月号 (発行:社団法人日本海運集会所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 環境・資源エネルギー部 次長 冨田 哲也
1.天然ガスとLNG需給の概要
優れた環境特性と経済性を背景に、天然ガスの消費量はこれまで堅調に増加してきたが、世界経済の急激な悪化を受け、2009年は減少に転じた。しかしながらLNGの消費量は拡大を続けており、天然ガス供給全体に占めるLNGの比率は、1990年の3.6%から8.1%にまで拡大している(図1)。
表1は、世界の2009年のLNGの貿易量を示したものであるが、全輸出量は1億8,174万トンとなっている。うち、6,520万トンは日本向けで、わが国は世界最大の輸入国を維持しているものの、かつては過半を占めていた世界に占めるシェアは約36%まで減少している。一方、日本のシェア減少とは対照的に、新たにLNGを輸入し始めた国が増えている。
アジアでは、最近中国がLNG輸入を開始しており、その輸入量は急ピッチで増加している。欧州では、天然ガスを輸出していたイギリスが、輸入を再開した。北海での天然ガス生産量が大きく落ち込んでいるためだ。
また、中東でもLNGの輸入が開始された。中東には豊富な天然ガスの埋蔵量を抱える国が多いが、急激な経済成長を背景に天然ガス需要が急増しており、夏場の電力や海水淡水化需要向けに、クウェートがLNG輸入を開始したのを皮切りに、輸入国が増える見通しである。
さらに、LNG輸入は、南半球にも広がっており、ブラジル、アルゼンチン、チリの3カ国が開始した。アルゼンチンは、周辺国に天然ガスを供給する産ガス国でもあるが、ガス田開発が停滞し、同国のみならず周辺国へのガス供給不足を招いてしまった。
一方、輸出する国の顔ぶれにも変化が生じている。現在、世界最大のLNG輸出国は中東のカタールで、2009年の輸出量は3,729万トンであった。カタールではさらに大規模プラントを建設しており、当面世界一の座をキープすると見られる。次いで、輸出量が多い国は、順に、マレーシア、インドネシア、オーストラリア、アルジェリア、トリニダード、ナイジェリアで、これらの国は1千万トン以上のLNGを輸出している。
最近では、日本に最も近いロシアのサハリン2が立ち上がり、同国がLNG輸出国の仲間入りを果たした。また、中東のイエメンでも新たなLNG設備が昨年完成している。
図1 世界の天然ガス消費量とLNG貿易量の推移

出典:Cedigaz
表1 世界のLNG貿易一覧(2009年、百万トン)

(注)GIIGNLでは、上記データをLNGの液体の体積(立方メートル)の単位で発表しているが、上記は輸出各国のLNGの平均密度を使用してトン換算した。
出典:GIIGNL
2.今後のLNG基地建設計画
これまで堅調に拡大してきているが、今後も天然ガス需要は拡大が見込まれ、既存の輸入国による輸入量拡大とともに、新たな輸入国の出現が見込まれる。もちろん、昨今の景気悪化の影響や北米での国産ガスの増産で、地域的みれば延期、中止されたプロジェクトも多いが、世界全体では拡大のペースが続くものと見られる。
ここでは地域別に新たな計画を概観する。
東アジア
アジアで、最も多くの受入基地建設計画が進められているのが中国で、海岸部の各地に計画が進められている。中国は、これらの新たなLNGを確保するため、オーストラリア、パプアニューギニア、カタールの新たなプロジェクトからも輸入する方針だ。
今後のLNG需要が最も拡大する国は、中国と見られているため、新たな液化プロジェクトを実現させるには、中国企業の購入を取り付けることがポイントとなっている。
もちろん、日本国内にも新たにLNG受入基地を建設する動きは続いており、北海道から沖縄県まで複数の計画が進められている。また、韓国でもサムチョクに新たなLNG受入基地の建設が進められている。
一方、ロシアの太平洋側では、ウラジオストックにもLNG液化基地の建設が検討されており、実現すれば周辺の輸入国にとっては、最も近い輸出基地が誕生することになる。
東南アジア・南アジア
天然ガス資源の少ない国に新たな輸入計画が出現しているが、既存のLNG輸出国にも地域的にはガスが不足する国があり、LNGを輸入しようとする動きが相次いでいる。
新たな輸入国としては、タイで受入基地の建設が行われており、2012年から輸入を行う予定になっている。また、シンガポール、フィリピン、ベトナム、パキスタン、バングラデシュ、スリランカでもLNGの輸入が検討されている。
さらに、これまで日本等にLNGを輸出してきたインドネシア、マレーシアでも地域的に天然ガスの供給が不足する地域があり、LNGの輸入計画が急ピッチで進められている。インドネシアではジャワ島とスマトラ島でLNGの受入基地建設計画が進められている一方で、スラウェシ島等では新たな輸出計画も進められている。
マレーシアでも、マレー半島で将来ガスが不足する可能性が出てきたことから、LNGの輸入が検討されている。
豪州
オーストラリアは、世界で最も多くの輸出プロジェクトが検討されている国であり、その計画は西豪州北部とクイーンズランド州に集中している。
西豪州では、相次いで沖合に大規模ガス田が発見されており、これらを利用する計画が増えている。 現在プラント建設中のプロジェクトとしては、Gorgon LNG、Pluto LNGがあり、これに続いてWheatstone LNG、Ichthys LNG、Prelude LNG、Sunrise LNG、Browse LNG、Bonaparte LNG等、多くの計画が進められている。これらの中には、日本のLNG調達会社自らがガス田開発から出資を行っているプロジェクトも多い。
一方、クイーンズランド州では、石炭層のガス開発が急ピッチで進められており、多くの輸出計画がある。既存のLNGに比較すると熱量が低いことから、日本企業による購入や資本参加は今のところ限定的であるが、数多くの計画が進められており、間もなく建設に入る予定のものもある。これらの計画は、現地の企業が中心となって計画を始めたものが多いが、ガスの埋蔵量が期待以上に多いことが判明したことから、後にShell、ConocoPhillips、BG Groupといった海外大手が買収によって進出した。
中東
カタールでは、液化基地の建設が続けられており、これらが完成すると、同国の生産能力は年産7,700万トンになる。同国は、地理的条件から、アジアと欧米の両方に輸出が可能で、北米にも多くのLNGを輸出する計画であった。しかし、北米では天然ガスの生産量が拡大していることからガス価格が低迷しており、これに代わって需要の拡大している中国等への販売拡大が模索されている。
中東のその他の国では、イランで多くの建設計画が進められているが、経済制裁によって先進国の企業が参加できない状況が続いており、具体的な進捗は見られない。また、イラクで油ガス田の復興に合わせてLNGの輸出も再検討されている。
クウェートが需要の高まる夏場にLNGを輸入しているが、ドバイでも同様の計画が進められ、バーレーンでも検討されている。
欧州・ロシア
イギリスでは、ここ数年で複数のLNG受入基地が完成し、北海での天然ガス生産量の減少を埋める役割を果たしている。その他の国でも多くの受入基地の計画が進められているが、景気後退による天然ガス消費量の減少、風力発電など代替電源の急速な進展、ロシアやカスピ海地域からのパイプライン輸入計画との競合もあって、最近では中止される計画も出てきている。
欧州では、最大の天然ガス供給国であるロシアが、欧州への通過国であるウクライナへの供給を停止したことを契機に、新たなガス調達ルートを求める動きが広がった。ポーランドのように新たにLNG受入基地建設を模索する国もあるが、一方で、ロシアの供給力は魅力的であり、ウクライナを通過しない新たなパイプラインを建設する計画を進める国も多い。そのロシアでは、北極圏に大規模ガス田が存在し、Shtokman LNGやYamal LNG等の新規液化プロジェクトがGazpromらによって進められている。
北米
米国では、天然ガスをめぐる情勢が一転している。これは、シェールガスと呼ばれる頁岩層の天然ガスを取り出す技術が進展したために、これまで減少していくと見られていた生産量が拡大しており、今後も増加する見通しである。
これらの開発は、地場の独立系企業が中心となって手がけてきたが、最近では石油メジャーや海外大手企業も参入し、日本の商社も複数の事業に参画を決めた。
このシェールガスの増産は、北米のLNG情勢も激変させた。これまで米国とカナダには、太平洋側にも大西洋側にも数多くの受入基地建設計画が出現していたが、これらの多くで実現の目途が立っていない。代わって、LNG受入基地を液化基地建設計画に変更したKitimat LNG(カナダ)や、完成したばかりの受入基地に液化設備を併設することによって、輸出入の双方ができる基地への転換を目指しているSabine Pass LNG(米国)などが出現している。
米国のエネルギー省は、過去5年で、将来のLNG輸入量の見通しを1億トン/年ほど下方修正しており、この将来需要の減少が、世界各地の輸出プロジェクトや天然ガスの需給バランスに大きな影響を与えた。
中南米
ブラジルでは、Petrobrasによって新たな受入基地と液化基地の双方の建設計画が進められている。沖合では深部の海底油田開発が進められており、ここで産出される随伴ガスを洋上で液化し、国内の受入基地に供給することが検討されている。
また、中南米では、ジャマイカ、ホンジュラス、アルゼンチン、ウルグアイ等で新たな輸入計画が進められている。
一方、ペルーでは液化基地が建設されており、メキシコ等に輸出される予定になっている。ベネズエラでも液化基地建設の計画はあるが、米国のガス価格低迷もあり、具体的な進展は見られない。
アフリカ
アフリカでは、既存の輸出国ナイジェリアで、複数の新規計画が進められているが、欧米の需要減の影響もあり、投資決定などの具体的な進展は見られない。ナイジェリア以外では、アンゴラで液化基地の建設工事が行われており、カメルーンでも基地建設の検討が行われている。
一方、南アフリカでは、ガス不足が懸念されており、LNGの輸入が検討されている。
3.新たなLNGビジネスと海運業界の展望
再ガス化船とLNGタンカーの基地転換
LNGタンカーに気化装置を搭載する技術が実用化されており、米国、イギリス、アルゼンチンなどでは、タンカーから直接パイプライン網に天然ガスが供給されている基地がある。これらは船上で気化するため、係留時間が増える分、タンカーの回転率は悪化するが、建設に時間のかかる地上タンクを建設する必要がないことから、いち早く天然ガス輸入を実現するメリットがある。
また、最近では、既存のタンカーを改造して受入基地に転用する計画も増えてきており、ブラジルで実用化された。前項でみたように、需要の急増を背景に、LNGを急いで輸入したいケースが増えている。このような地域では、運転開始までの時間を短縮できる浮体式のLNG受入基地の導入に注目が集まっており、インドネシア、バングラデシュ、ドバイなど、多くの国で採用が検討されている。
浮体式LNG液化基地
オーストラリアなど、陸地から遠く離れた地域で大規模ガス田の発見が相次いでいるが、これらのガス田では、長距離海底パイプラインを建設するよりも、洋上の構築物上で液化したほうが、経済性が高くなる場合がある。
例えば、Shellは、オーストラリアのPreludeガス田を利用したプロジェクトなど、複数の浮体式液化基地建設計画を進めるほか、INPEXのAbadiLNG(インドネシア)やGDF SuezのBonaparteLNG(オーストラリア)など、世界各地に計画が見られるようになってきた。
これらの浮体式のLNG事業は、海運会社にとっても、新たなビジネスチャンスであり、注目が集まる。例えば川崎汽船が出資したFLEX LNGも浮体式事業を計画するベンチャー企業であり、GolarLNGやHoegh LNGも、浮体式のLNG事業の実現に向けた取り組みを強化している海運会社の例である。
前述のように、地域によってLNGを巡る将来展望は異なっているが、アジアを中心にLNG需要は今後も拡大することが見込まれ、LNGビジネスは拡大していくことが確実視される。浮体式のLNG基地を始め、これまでにない技術やサービスが増えてきており、これらは海運業界にとっても、ビジネス拡大のチャンスになろう。
図2 アジア中東地域のLNG基地建設計画一覧

(注)日本の基地は省略している。
出典:みずほ情報総研
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