スマートグリッド普及に向けた課題と解決の方向性
- *本稿は、2011年6月9日付の日刊工業新聞に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 情報・コミュニケーション部 シニアマネジャー 紀伊 智顕
求められる背景
近年、地球温暖化対策(化石燃料使用増大に伴う温室効果ガス増大の懸念)や新興国の著しい経済発展に伴うエネルギー価格高騰、需給関係のタイト化への懸念が高まっている。欧米などの先進国では老朽化が目立つエネルギー関連設備の抜本的な更新が求められる時期にあたっていたことから、スマートグリッドの導入・普及に向けた取り組みが積極的に推進されている。
これまで、わが国では欧米に比べて電力会社の発電・送配電網の品質と効率性が高かったことから、スマートグリッドは研究開発が主であり、導入・普及については必ずしも積極的には推進されてこなかった。
しかし、東日本大震災の影響によって、特に首都圏においては需要に見合った安定的な電力の供給が難しい状況となっている。
そこで、わが国においてもスマートグリッドの研究開発の一層の促進とその早急な普及が求められるようになった。加えて、産業政策および地球温暖化対策の観点から、わが国が開発した技術やシステムを経済発展の著しい新興国にインフラとして輸出することへの期待も高い。
スマートグリッドのイメージ

スマートグリッドの定義
スマートグリッドとは情報通信技術(ICT)を用いることで太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを電力系統の安定性を保ちつつ取り込むとともに、電力系統における需要と供給のバランスを図るための技術である。
具体的には(1)太陽光パネルなどの再生可能エネルギー発電機器(2)変動するエネルギーを制御・調整する送配電網技術(3)通信機能を持ち、細かい電力消費実態がリアルタイムで分かるスマートメーター(4)住宅やビル内で電力系統を総合的に統制するエネルギー・マネジメント・システム(EMS)(5)余剰電力を利活用する蓄電池などの蓄電デバイス―などで構成され、エネルギー企業、重電・家電・住宅・自動車メーカーなど、さまざまな企業で研究開発が進められている。
東京電力管内の2010年夏の最大ピーク需要の内訳

出所:資源エネルギー庁の資料から作成
普及に向けた課題および解決の方向性
エネルギー、充電、家電などの分野で高い技術力を持つ国内企業は多数存在し、冒頭で示した背景もあることから、わが国においてもスマートグリッドの導入・普及が順調に推移するとの見方がある。その一方で、わが国の電力消費の約3分の2を占める小口需要家(契約電力500キロワット未満の製造業・卸小売業・オフィスビル・病院・ホテル・飲食店・学校など)と家庭(以下合わせて「小規模需要家」とする)への普及が懸念されている。
過去の環境対策からの類推では、電力の大口需要家(契約電力500キロワット以上)である大規模な製造業・オフィスビルなどでは、資金力(体力)、補助金(アメ)、規制(ムチ)などによって普及が進むと考えられる。しかし、小規模需要家は数の多さやその多様性のために補助金などによる行政コストがかさむだけでなく、対策に対応する効果の見積もりが難しいと考えられるからだ。
小規模需要家がスマートグリッドに接続するためには、(1)スマートグリッド関連機器の購入(2)家庭やオフィス・工場への設置(3)ネットワークへの接続(4)サービス登録―といった一連の作業が必要になる。しかしながら、これら全てを自ら行える小規模需要家は多くなく、また上記のような全ての機器・サービス・インフラを一括提供できる企業もほとんどない。
そのため、小規模需要家へのスマートグリッドの普及に向けては家電販売店、ハウスメーカーなど“身近なプレーヤー”が窓口になり、故障した場合も責任を持って対応するといった「スマートグリッド関連機器・サービス提供体制の構築」や、安心・安全を目的とした機器の遠隔監視のような「ほかの魅力的なサービスとの組み合わせ」、リース方式の活用など「初期費用を抑えることのできる仕組みの提供」などが必要となる。
さらに、政府は日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)傘下のスマートハウス情報活用基盤整備フォーラム(eSHIPS)による取り組み(*1)など、小規模需要家をターゲットとした研究開発を行っている。またスマートグリッド関連機器購入者への節電ポイントの提供などの支援策の提供が期待される。
eSHIPSで検討中のスマートハウスのシステム概要

(eSHIPSの資料から作成)
- *1マルチベンダーで家庭エネルギー情報を活用する新事業を創出できるオープンな仕組みの実現に向けた取り組み。家電や住宅設備機器、創エネルギー機器(太陽光発電機、燃料電池)、蓄エネルギー機器(定置用蓄電池、電気自動車を含む)などを賢くマネジメントするシステム基盤の検討。
関連情報
この執筆者はこちらも執筆しています
- 2011年2月
- ICTによるグリーン社会の実現に向けて
- 2010年5月18日
- 日本がリードするスマートグリッドの未来に向けて
- ―動き始めたトレーサビリティーシステムとの連携―


