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逼迫した財政と消費増税

  • *本稿は、2012年1月29日付の信濃毎日新聞 「論」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

「日々苦しい生活を送っている。消費税増税は困る」―。私が講師を務めた講演会で、あるご老人が発言した。聞けば、かつて路上生活を経験し、今は生活困窮者を支援する活動をしているという。爪に火をともすようにして暮らしている方々の思いを代弁されていた。

私はその発言の重みを噛みしめながらも、「それでも消費税の引き上げは必要だ」と話した。2015年の消費税率10%への段階的引き上げを先送りすれば、近い将来、国民がより大きな痛みを被りかねないことを懸念するからである。

国の財政(11年度一般会計3次補正後予算)を家計にたとえると、月収40万円の世帯が毎月84万円を支出している状況だ。不足する44万円はローンで賄っている。しかもこれまで積み上げた借金残高は6,400万円に及ぶ。

膨大な借金を抱えれば、その返済に苦しむことになる。11年度の元利払い(国債費)は約22兆円にのぼり、国の一般会計歳出の20%を占める。これは、社会保障費の28%に次いで高い歳出費目になっている。それでも超低金利のために、膨大な借金の割に利払い費は低く抑えられている。

しかし、もし金利が上昇すれば、借金が膨大なだけに利払い費は一気に高まる。その時、国民生活はかなり深刻な状況に陥るだろう。大規模な増税と歳出カットを同時に行わざるをえなくなる。とりわけ社会保障給付を受給する低所得者への打撃が大きい。

金利がいつ、何をきっかけに上昇するかは、誰にも予測できない。ただ、国や地方の借金残高が、国債を買い支えてきた個人の金融資産残高に近づいており、金利上昇のリスクは潜在的に高まっているとみるべきだ。それを防ぐには、景気の影響を受けずに、安定的に一定規模の税収を確保できる消費税増税が早期に必要になる。

増税を先送りすれば、社会保障を強化する余地もなくなっていく。実際、現在提案されている消費税増加幅5%のうち、実質的に社会保障の強化につながるのは1%分にすぎない。残りの4%は、高齢化に伴う社会保障費の増加分や将来世代の負担減少など主に財政健全化に向けられる。それだけ日本の財政は傷んでいる。

それでも1%分が社会保障の強化に回れば、低所得者などへの給付を増やすことができる。消費税は相対的に低所得者の負担割合が高くなるという欠点があるが、給付を強化することでそれを補える。しかし、増税を先送りすれば財政悪化が進むため、社会保障強化の余地は一層小さくなるだろう。

それにしても民主党は、何を根拠に、09年衆院選マニフェスト(政権公約)で税金の無駄遣いの削減などで16.8兆円もの財源を捻出する(13年度に実現)と記したのだろうか。国民が増税に反発する一因は、この選挙で、無駄を削れば消費税増税は不要との幻想をもたされたことにもある。もちろん無駄の削減は不可欠だが、財政健全化や社会保障のために必要となる費用は、無駄の削減だけで賄える額ではない。

民主党は、当時のマニフェストの作成過程を検証して、問題点と改善策を国民に明らかにする義務がある。放置すれば、誰も政党のマニフェストを信頼しなくなるだろう。一方政府は、逼迫(ひっぱく)した財政状況を国民に率直に伝える努力をすべきだ。政治不信と政局絡みの動きの中で、必要な増税ができず、時間だけが過ぎていく悪循環を続けてはいけない。

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2011年10月
「社会保障・税の一体改革」を考える
2011年6月
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信濃毎日新聞 「論」 (2011年4月13日)
2011年4月
単身急増社会と若者
―若者の20年後、50代男性の4人に1人は一人暮らし―
『現代の理論』 vol.26 2012年新春号

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