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みずほ情報総研 ビジネスコンサルティング部 マネジャー 隆島 省吾
新型インフルエンザの感染者数が高水準で推移している。多くの企業では事業継続が問題になる事態にはなっていないようである。しかし、それは感染者の多くが学齢期以下の若年層であり、職員本人の感染が少ないという特徴に助けられている面が大きい。1年前には、新型インフルエンザ発生の可能性を指摘しても、本気にする人はほとんどいなかった。だが、この1年で危機意識は大きく変わった。今回の感染拡大による影響が現在の水準から悪化することなく終息したとしても、「新型インフルエンザをはじめとする病原性の強い感染症は起こりうる」ことを証明した点は非常に重要である。
これまで新型のインフルエンザは、数十年周期で発生している。今回流行したからといって、今後数十年の間発生しない保証があるわけではないだろう。交通の発達と地球規模の人的交流の拡大などにより、従来ならば地域に封じ込められていた「新型」がたちどころに世界に蔓延(まんえん)しやすい構造になっていることは、間違いない。
「H1N1型」の流行の陰に隠れて、すっかり話題にならなくなったのが「H5N1型」のいわゆる「高病原性鳥インフルエンザ」である。今回のH1N1型の流行とは関係なく、H5N1型の脅威はいささかも減少してはいないことを忘れてはならない。
新型インフルエンザの蔓延が、「実践的な練習になった」という企業は多い。しかし、その「練習」は本当に、今後発生が予想される高病原性の新型インフルエンザの「本番」の備えになったのだろうか。発生当初は厳しい対応をしたが、その後病原性が低いということがわかってきて、対策を緩めたところがほとんどのようである。
しかし、あくまでインフルエンザの病原性が低かったから被害が少なく済んでいるのであり、「新型インフルエンザはたいしたことはない」と認識してしまったのであれば、それは間違った練習であると言わざるを得ない。
新型インフルエンザ対策は、感染防止対策と業務継続対策の2つに大きく分類できる。
感染防止対策は文字通り、職員や顧客などに感染者が発生・拡大しないようにする疫学的な対策であり、業務継続対策は、組織内や取引先などに感染者が拡大あるいは拡大が懸念される際にどのようにして業務を継続するかという対策である。
さらにこれらは、今回のようないわゆる病原性の低いケースでも適用する「基本対策」と、高病原性で致死率が高い場合などに適用する「強化対策」に分類される(表1)。
新型インフルエンザで今回、企業が実地で学習したのは、この「基本対策」のうちの「感染防止対策」であろう。今後発生が予想される新たなインフルエンザなどに備えて、この「強化対策」や「業務継続対策」について有効性や実運用性などを検証しておくことが求められる。
表1 企業の感染症対策
| 感染防止対策 | 業務継続対策 | |
|---|---|---|
| 基本対策 |
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| 強化対策 |
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厚生労働省の「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」では、欠勤率を40%以上と想定している。実際の欠勤率は、職員の年齢構成や家族構成などによって大きく異なるだろう。
欠勤率によって企業の業務継続対策の内容は大きく異なることから、個々の企業の状況を考慮して欠勤率を予測しておくことは重要である。欠勤率の検討では、本人罹患(りかん)時だけではなく、家族感染時の介護や感染拡大防止のための自宅待機、学校や保育園などの閉鎖に伴う子供の養育のためというケースも、十分考慮すべきである。
インフルエンザワクチンの生産体制も問題になった。日本では、インフルエンザワクチンの学校での集団接種をやめてしまっている。そのため、国内の医薬品メーカーの多くはインフルエンザワクチンの生産から撤退してしまい、新型インフルエンザが発生しても十分なワクチン生産能力がなかった。市場がなければ、生産ラインは維持できない。緊急時に備えた生産能力の確保は、民間企業の努力ではどうにもならないのだ。
インフルエンザワクチンの集団接種は、まれに起こる副作用が大きく取りざたされたことや行政の方針の変更によって中止されてしまった。ワクチンの副作用をゼロにすることは困難であるが、ワクチンによって助かる命があることも事実だろう。ワクチン接種による副作用のリスクと、接種しないことによる重症化のリスクについて、再度きちんと議論する必要があるだろう。
家族が新型インフルエンザを発症した場合に当該職員を自宅に待機させているある企業の例では、本人発症による休暇取得者の5〜10倍程度の職員が家族発症による休暇を取得しているようである。その「発症した家族」の多くが学齢者であることから、学校におけるワクチンの集団接種が企業における欠勤率に大きな影響を及ぼすことがわかる。
企業単独でできる新型インフルエンザ対策には限りがある。今回の新型インフルエンザへの対応を教訓に、企業はもちろん、社会全体で新型インフルエンザなどの感染症にどのようにして立ち向かうのか、議論を深め、準備しておく必要がある。
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