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英国の若年雇用対策から学ぶこと

2006年3月29日 みずほ情報総研株式会社 主席研究員 藤森 克彦

はじめに

「ニューディール政策によって50万人を超える若年失業者が仕事に就くことができた」――2005年5月の英国総選挙で与党・労働党が発表したマニフェストには、ブレア労働党政権の過去8年間の実績として、若年失業者数の減少が示されていた。

マニフェストに示された通り、近年英国では若者の雇用環境が改善している。労働党政権が樹立した97年春の18~24歳の若年失業者数は489万人(若年失業率13.1%)であったが、2005年春には436万人(同11.1%)に減少した。特に若年失業者に占める失業期間半年以上の長期失業者の割合が、97年の37.4%から2005年には28.9%に減少している。

英国政府によれば、このような若者の雇用状況の改善は、失業者への職業紹介や職業訓練を重視した「ニューディール政策」の成果という。そこで本稿では、「若年失業者ニューディール」の内容とその成果や成功要因を分析し、日本への示唆を考察する。

1. 英国の若年失業率の推移

英国の若年失業率の推移をみると、90年代半ばからの景気拡大にともなって2001年まで低下を続けてきた(図表1)。2004年の若年失業率を国際比較すると、英国は主要先進国の中で日本に次いで低い水準となっている(図表2)。

図表1 英国の若年失業率の推移

図表1 英国の若年失業率の推移

(資料)Labour Force Survey(http://www.statistics.gov.uk/)により作成

図表2 若年失業率の国際比較(15-24歳)(単位:%)

  1993年 2004年
イタリア 30.6 23.5
フランス 24.6 21.3
スウェーデン 18.4 17.0
カナダ 17.8 13.4
米国 13.3 11.8
ドイツ 8.2 11.7
英国 17.3 10.9
日本 5.1 9.5

(注)英国と米国は16歳~24歳の若者を対象にした調査。
(資料)OECD, Employment Outlook, 1994,1995, 2005

もっとも、景気が悪化していた93年当時の英国の若年失業率は17.3%であり、主要先進国の中で高い水準にあった(図表2)。

なお、英国では、就業、就学、訓練といった活動をいずれもしていない「ニート(NEET:Not in Employment, Education or Training)」と呼ばれる若者の割合が高いことが特徴として指摘されている。例えば、22歳の英国男性の中でニートの割合は8.4%(97年)にのぼる。他国の同割合(97年)は、イタリア9.1%、米国は5.2%、ドイツ4.2%、フランス3.3%となっており、イタリアに次いで高い水準にあった。なお、84年の英国における22歳男性ニートの割合は2.3%であった。80年代後半から90年代前半にかけてニートの割合は急激に上昇している。

2.なぜ若年失業者対策を優先するのか

ブレア政権では、97年の政権獲得以来、若年失業者対策に力を入れてきた。興味深いのは、同政権では他の年齢グループよりも若者の雇用問題を優先してきた点である。すなわち、「ニューディール政策」と呼ばれる失業者対策では、18歳から24歳の若年失業者グループ、25歳以上の長期失業者グループ、50歳以上の失業者グループ、一人親世帯グループ、障害者グループなどを対象に各々プログラムが用意されている。これらのプログラムのうち最も多くの資金投入されてきたのが若年失業者ニューディールである。具体的には、97年度以降のプログラム費用(合計)のうち、45%程度(15.3億ポンド、2,960億円、年平均423億円)が若年失業者ニューディールに投入されてきた(図表3)。

図表3 ニューディールの政策プログラム別支出額(注1)(単位:百万ポンド)

図表3 ニューディールの政策プログラム別支出額(注1)(単位:百万ポンド)

(注)

  1. 1.表は、ウィンドフォール税を財源に支出されたプログラム費用の内訳。なお、ウィンドフォール税とは、ニューディール政策の財源として、過剰利益を得た民営化企業を対象に課税された一回限りの税金。97年度と98年度に課税され、52億ポンド(1兆400億円)の税収があった。同財源から上記表の「プログラム別費用」(約33億ポンド)のほか、学校施設の改善などに向けた「資本支出」(約18.2億ポンド)もニューディール政策の費用として支出されている。ちなみに、2004年度以降は一般会計からニューディール政策の費用が拠出されている。
  2. 2.「その他」の合計には、2004年度以降に支出された2億3千万ポンド(ウィンドフォール税を財源)を含む。
  3. 3.各年の支出は、1千万ポンド未満を四捨五入(500万ポンド未満を除く)。このため、支出合計と一致しない部分がある。

(資料)HM.Treasury, Budget 2005, March 2005、より作成。

では、なぜブレア政権は若者の失業問題を優先するのだろうか。この背景には、下記の3つの点が考えられる。

第一に、若年失業者や無業者を放置することは「社会的排除」につながるリスクがある点だ。社会的排除とは、「低所得、スキル不足、失業、家族の崩壊、健康の悪化、劣悪な住宅環境、地域の治安の悪化といった問題が絡み合い、個人や地域がそこから抜け出せない状況」をいう。失業しても各自が自力で再就職できるのであれば自助努力に委ねればよいが、社会的排除に陥った場合、自力で脱出することは難しい。特に「低所得」「スキル不足」「無職」といった諸要因が重なると、「低所得」であるがゆえにスキルをつけるだけの資金がなく、スキルがないために「無職」となり、職がないために「低所得」という悪循環に陥りやすい。

若者の場合、就業経験が乏しいために、職業上のスキルが身についていない者が多い。また、資金をもたない者も多いので、学校を退学し、家庭の崩壊といった状況が重なって不就労期間が長期化すると社会的排除に陥りやすい。実際、若年長期失業者では、読み書き計算といった基礎的な学力不足、ホームレス化、アルコールや薬物依存の問題、適応障害などの問題を抱える者がみられる。本人の自助努力だけで社会とのつながりを回復することは難しく、外部からの支援を必要とする。

第二に、若者の失業が「機会の不平等」によってもたらされる側面のあることだ。80年代以降、サッチャー改革や経済のグローバル化などの影響によって、所得格差が拡大した。その結果、親の所得の多寡が、子供の教育に影響を与え、さらに就職にも影響する状況が顕在化してきた。つまり、貧しい親から生まれた若者は、裕福な親から生まれた若者に比べて十分な教育を受けられず、安定的な職を得にくい傾向がみられる。先述した「低所得→スキル不足→無職→低所得」といった社会的排除の悪循環が、世代間にまで連鎖している。親の所得の多寡が若者の将来に影響を与える状況は、競争社会の前提であるスタートラインが揃っていないという点から問題にされている。

第三に、若年長期失業者の増加が国の財政負担を高めるという点である。英国の求職者手当(Jobseeker’s Allowance)には、「拠出制求職者手当(Contribution-based Jobseeker’s Allowance)」と「所得調査制求職者手当(Income-based Jobseeker’s Allowance)」の2種類がある。「拠出制求職者手当」は一定の保険料を拠出していることを要件に、半年間支給される。これは、国民保険への加入が受給要件となっているので、日本の雇用保険と同様に、保険料を納付してこなかった若者は受給できない。

他方「所得調査制求職者手当」では、無拠出であっても一定の資力調査や求職者要件を満たせば、国庫負担によって無期限で手当が支給される。これに相当する制度は、基本的に日本には存在しない。つまり、英国では保険料を拠出したことのない若者であっても、一定要件を満たせば無期限に求職者手当を受給できる。このため若年失業者の増加は、社会保険給付を高めて国の財政負担を重くする。

また、長期的にみても、若年失業者の放置は、スキルを形成すべき若い時期を無為に過ごすことになりかねない。スキルを取得しないまま中高年になると、就職は一層難しくなる。最終的には失業手当や生活保護などに長期依存せざるをえない状況も考えられる。早期に若者を支援していくことが、国の負担軽減につながると考えられている。

3. 若年失業者ニューディールの内容

(1)「福祉から就業へ(Welfare to Work)」という考え方

では、ニューディール政策とはどのような特徴をもつ政策であろうか。この政策は、雇用対策の重点を、失業手当の支給といった受動的雇用政策から、教育技能訓練などを行って失業者のエンプロイアビリティ(就業能力)を高める積極的雇用政策に移した点に特徴がある。いわば、社会的排除の悪循環を断ち切る方法として、従来は失業手当を給付して「低所得」を改善することに力を入れたが、ブレア政権では教育・技能訓練を行って「スキル不足」の克服に重点を置く(図表 4)。 失業者のスキル向上に重点をおいた政策は、「経済の担い手」を育てることでもあり、最終的には経済成長につながると考えられている。つまり、将来への「投資」とみなすことができる。また、失業手当というキャッシュを提供するのではなく、職業教育訓練というサービスを提供するので、福祉依存が生じにくくなる。

図表4 「社会的排除の悪循環」の断ち切り方―新旧福祉政策の比較―

図表4 「社会的排除の悪循環」の断ち切り方―新旧福祉政策の比較―

(資料)社会保障省, Opportunity for all, The Stationary Office, Sep. 1999などにより作成。

このような考え方に基づく福祉政策は、従来の「セーフティネット」型福祉ではなく、「トランポリン」型福祉として注目されている。すなわち、「セーフティネット」はサーカスの綱渡りの下に張られる安全網にたとえられ、綱から落ちても転落死せずに最低限の生活は守られることを重視する。しかし「トランポリン」であれば、綱から落ちても死亡しないという機能のみならず、綱を踏み外した人々を再び綱に戻すことができる。失業者の職業能力を開発することによって、再び経済の担い手として経済成長に寄与していける。

なお、若年失業者に対して職業紹介や職業訓練などを重視する政策は80年代以降の保守党政権でも採られていた。例えば、保守党政権は1986年に「再出発プログラム(Restart Program)」を導入し、求職活動を失業手当の受給要件として、長期失業者に職業安定所における定期的な面談を義務付けた。この主たる狙いは、失業手当の支給を引き締めることにあった。その後、再出発プログラムには、アドバイザーによるカウンセリング機能や雇用訓練事業も組み込まれていたが、予算規模が小さく「ムチ」の側面が強かった。

これに対して、ブレア政権では「ムチ」だけでなく、職業紹介・職業訓練といった「アメ」も用意している。職業紹介などカウンセリング機能の充実、教育技能訓練、事業主に補助金を出して就業の場を提供することなど、失業者への支援メニューが大規模に組み込まれたのである。

(2)若年失業者ニューディールの内容

では、若年失業者ニューディールは、具体的にどのような内容であろうか。

若年失業者ニューディールは、失業期間6ヶ月間以上の18歳から24歳の失業者が対象になっている。若者が半年間、求職者手当を受給しつづけると、ジョブセンタープラスから来訪を求める通知書が郵送される。なお、ジョブセンタープラスとは、各地に事務所を構える公共職業紹介機関であり、日本のハローワークに似た役割を果たす。そこでは、求人情報サービスのみならず、求職者手当など各種行政サービスに関する情報などを総合的に提供している。

若年失業者がジョブセンタープラスを訪問すると、同プログラムへの参加手続きが進められる。具体的には、最長4ヶ月間の「ゲートウェイ」、6ヶ月間の「オプション」、「フォロースルー」の三つの段階に分けられるので、以下、各段階についてみていこう(図表5)。

図表5 若年失業者ニューディールの全体的な流れ

図表5 若年失業者ニューディールの全体的な流れ

(資料)雇用年金省ホームページ(www.newdeal.gov.uk)により作成。

A.ゲートウェイ

「ゲートウェイ」と呼ばれる第一段階では、各失業者に個人アドバイザーが一人つき、定期的に面談をしながら、最長4ヶ月間就職活動を行う。失業者が同プログラムに参加している間、個人アドバイザーの変更はなく、同一のスタッフが対応する。なお、個人アドバイザーは、研修などを受けたジョブセンタープラスのスタッフが担当する。

具体的な活動としては、まず若年失業者は希望職種や保有技能、職歴などを個人アドバイザーに伝え、個人アドバイザーはそれに対して様々な助言を与えながら、一緒に就職活動計画を立てていく。失業者の中には自信を失っている者もいるので、精神的なケアもしながら相談に乗る。さらに読み書きの訓練が足りない者や、履歴書の作成の仕方がわからない者に対しては、その指導・訓練が行なわれる。

そして就職活動計画が固まれば、若年失業者は就職活動に入っていく。交通費など就職活動を行う上で必要な費用は、一定額まで政府から若年失業者に支給されるという。

B.オプション--職業訓練の四つの選択肢--

4ヶ月間のゲートウェイの期間を過ぎても就職先が見つからない若年失業者に対しては、職業・教育訓練の機会が与えられる。具体的には、四つの選択肢-(1)民間部門での就労、(2)ボランティア部門での就労、(3)フルタイムの職業・教育訓練、(4)環境保護団体での活動-の中から、若年失業者が一つを選んで、半年間の職業訓練を受ける(図表6、次頁)。もし若年失業者がこれら四つの選択肢のいずれも拒否したのならば、失業手当の減額・停止となる。
2005年5月までの選択状況をみると、(1)民間部門での就労:29%、(2)ボランティア部門での就労:21%、(3)フルタイムの職業・教育訓練:32%、(4)環境保護団体での活動:18%となっていた。「フルタイムの職業・教育訓練」を選択する若者の割合が高かった。

なお、近年若年失業者各自のニーズに合わせる方向で、選択肢の変更が行われている。具体的には、(1)民間部門やボランティア部門での就労経験、(2)特別な仕事に向けられた訓練、(3)雇用主が望むスキルを伸ばすコース、(4)求職活動の実践的な支援、(5)面接の訓練、となっている。

具体的な訓練の仕組みについて「民間部門での就労」を例にみると、訓練生は給与を得ながら、実地の職業訓練を積むことができる。また、週に一度以上、国家認定職業資格(National Vocational Qualification:NVQ)の取得に結びつく訓練も受けられる。

図表6 若年失業者ニューディールにおける4つの選択肢の内容

選択肢 内容
  1. (1)民間部門での就労
  • 雇用主から賃金を得ることができ、少なくとも、週に1回、国家認定職業資格の取得に結びつく職業訓練を受けられる。
  • 雇用主は、政府から週60ポンドの助成金を受給。また雇用主は、国家認定資格に向けた教育訓練費用として750ポンドを一括受給。
  1. (2)ボランティア部門での活動
  • 地域のニーズに合わせて、障害者の支援、老人や子供の世話などを行う。
  • 訓練生は、賃金あるいは失業手当相当額を受給。さらに400ポンド(一括)の奨学金を受給。少なくとも週に1回、国家認定職業資格の取得に結びつく職業訓練を受けられる。
  • 雇用主が参加者に賃金を与えていれば、雇用主に対して、求職者手当に週15ポンド強を加えた助成金を付与。訓練費用として雇用主に750ポンドを一括支給。
  1. (3)フルタイムの教育・技能訓練
  • 1年間の教育・訓練を受け、国家認定職業資格を取得。コースは、社会人大学や民間訓練機関など、地域の団体によって提供
  • 訓練生は、求職者手当と同額の手当てを受けられる。また、訓練機関の費用は国が負担。
  1. (4)環境保護団体での就業
  • 地域コミュニティの環境の改善活動。荒廃した家屋の修繕や、エネルギーの節約、リサイクル活動などを行う。
  • その他は、ボランティア部門と同様。

(注)上記4つが基本的な選択肢であるが、その後、「自営業者のためのニューディール」と「音楽家のためのニューディール」が付け加えられた。詳細は、拙著『構造改革ブレア流』参照。
(資料)Employment Service, “What is New Deal?”, 1998年などにより作成。

他方、若年失業者を雇った雇用主は、政府より助成金が支給される。具体的には、週30時間以上働くことを条件に雇った場合は、半年間、週60ポンド(約1万2千円)の助成金が雇用主に支給される。また、国家認定職業資格に結びつく職業訓練の費用として、政府から雇用主に750ポンド(約15万円)が一括支給される。

雇用主は、助成金と同等以上の賃金を支払うことが義務づけられている。また、訓練生の採用にあたっては、既存の従業員の配置転換をすることは認められているが、解雇をしてはならないことが規定されている。

これまでニューディール政策の趣旨に賛同し、若年・長期失業者を訓練生として採用した雇用主は8万人余りにのぼる。参加している雇用主の業種をみると、卸売業、小売業、製造業、建設業、ビジネスサービスなど様々であるが、建設業と製造業が多い。そして職種としては、事務職、熟練肉体労働の割合が高く、各々全体の24%を占めている。

半年間の職業訓練期間が修了すれば、雇用主は、継続雇用をするか否かを決定することになっている。もし継続雇用されなかった場合には、訓練生に職業訓練の達成状況を示す証明書と職業推薦状(work reference)が与えられる。

C.フォロースルー・プログラム

上の「4ヶ月間のゲートウェイ」→「半年間の職業・教育訓練」を経ても、就職できない者には、「フォロースルー・プログラム」が用意されている。ここでは、「ゲートウェイ」と同様に求職活動を行っていく。

4.若年失業者ニューディールの成果

では、若年失業者ニューディールはどのような成果をあげたのか。98年から2005年5月までに若年失業者ニューディールに参加した者は、136.3万人にのぼっている。そして、2005年5月までに同プログラムを終了した123.9万人のうち52.0万人が補助金なしの就労に就いた。同プログラムの参加者の42%が通常の仕事を得たことになる。

ちなみに、通常の仕事―補助金なしの就業―を得た52万人がどのような段階で仕事を得たのかをみると、ゲートウェイにおける面談前が4.8万人(9%)、ゲートウェイの段階で30.8万人(59%)、オプションの段階で9.6万人(18%)、フォロースルーの段階で6.8万人(13%)となっている。ゲートウェイの段階で6割の者が通常の就職をしている。

さらにオプションの段階で、各訓練メニュー参加者のうち通常の就職を果たした者の割合をみると、「民間企業での就業」が70%、「フルタイムの教育訓練」が44%、「ボランティア団体での就業」が49%、「環境保護団体での就業」が50%となっている。民間企業で訓練を受けた者の就職率が高いのは、訓練を受けた企業でそのまま就職するパターンが多いためではないかと推察される。

上記のように若年失業者ニューディール参加者の4割が就職をしたことから、英国政府はニューディール政策の成果を強調している。

ただし、このような政府の評価は過大だという批判もある。例えば、経済社会研究所(National Institute for Economic and Social Research)のレポートによれば、98年4月から2000年3月までの2年間で20万人の若者が求職者手当を受給しなくなったものの、ニューディール政策による直接的な効果は、失業者減少効果3.5万人と雇用創出効果1.5万人の合計5万人程度という。若年失業者減少の主たる要因は、好調な英国経済によると指摘する。他の調査でも同様の指摘がなされており、若年失業者の減少は、好調なマクロ経済によるところが大きいと考えられる。

しかし、政府の評価は過大であるにせよ、同政策が失業者減少に効果があったことは間違いなく、肯定的に評価されている。例えば、先述の経済社会研究所のレポートも、もしニューディール政策がなければ、若年長期失業者数は2倍になっていたと指摘している。また、別の研究においても、就職した若年失業者の割合は、若年失業者ニューディールがなかった場合に比べて約11%ポイント上昇したと推計している。

さらに、同政策は費用対効果の面で優れているという。つまり、ニューディール政策は「経済の担い手」を増やして経済成長にも資する効果がある。実際、同政策によって国民所得を年間2.2~3.6億ポンド増加したという。また、求職者手当の受給者も減少しているので、ニューディール政策に5ポンドを費やしても、3ポンドは国民所得の増加や求職者手当の減少によって戻ってくるという。会計検査院では、今後、経済変化や、失業者の変化に対応できれば、中長期的にニューディール政策の効果は持続し得ると結論付けている。

5.若年失業者ニューディールの成功要因

英国の経験からニューディール政策の成功要因を考えてみると、以下の四つの要因を指摘できる。

第一に、個人アドバイザーなどのカウンセリング機能を充実させている点である。先述の通り、若年失業者に個人アドバイザーが一人つき、全期間を通じて同一人物が担当する。これによって個人アドバイザーは、失業者の置かれている状況や性格をよく把握できる。また、若年失業者と個人アドバイザーの間の人間関係が密接になり、若年失業者に対する精神的なケアの面でも有効だと考えられる。

個人アドバイザーとの人的なつながりは、社会的排除の状況に置かれている若者には極めて重要なものである。筆者が取材を行った若年失業者問題の専門家は、特にこの点を評価しており、「若年長期失業者にとって重要なのは、半年間で得られるスキルというよりも、人的ネットワークの形成である」という。

そして個人アドバイザーは、多方面にネットワークをもっていて、失業者を就業に向けていくための起点となっている。個人アドバイザーは単に求人情報を伝達するのみならず、行政サービスの情報提供や職業訓練情報などを総合的に提供している。

第二に、職業訓練等を受けない若年長期失業者に対して、求職者手当を停止するとして、半ば強制的に就職活動に向かわせた点である。若年失業者の中には、社会との接点が完全に断たれた者や、意欲があっても就職活動のやり方がわからない者も多い。放っておいたら、福祉依存の生活に陥ってしまう。この点、ニューディール政策では、「求職者手当の停止」というムチを使って、若年失業者に個人アドバイザーとの面談や職業教育訓練を強制している。こうしたムチは、若年失業者が就職活動を始める強いきっかけになっている。

第三に、若年失業者の教育訓練を民間部門に委託している点である。民間企業やボランティア団体などにおける実地の職業訓練からは、企業や現場のニーズに即した技能を得られ、就職に直結しやすい。実際、民間企業で訓練を受けた者の61%は、プログラム修了後もその職場で継続雇用されている。いわば、訓練といいながら、実際は企業との出会いの場となっているように考えられる。

第四に、職業・教育訓練を国家認定職業資格(NVQ)の取得に結びつけている点である。NVQと結びつけることによって、職業訓練の質を高めることができる。また、資格を取得すれば、若年失業者の保有する客観的な能力を雇用主に示して有利に就職活動を行うことが期待できる。

6.音楽家になるためのニューディール

ところで、2003年から若年失業者ニューディールと関連する新たなプログラムとして、「音楽家になるためのニューディール」が始まった。これは、楽器奏者、ボーカリスト、作詞家、作曲家、DJ(ディスクジョッキー)といった分野で、音楽家を志す失業者を対象にする。具体的には、若年失業者ニューディールと長期失業者ニューディールに参加し、かつ音楽家を真剣に志す者に参加が認められる。このプログラムが扱うジャンルとしては、ジャズ、フォーク、クラシック、ロック、ポップ、オペラなど幅広い。

具体的なプログラムの内容としては、若年失業者ニューディールの枠組みに基づきながら、(1)個人アドバイザーが志望者を音楽コンサルタントにつなぐこと、(2)音楽スタジオや専門学校などで、各自のニーズに応じた技術指導などを無料で受けられること、(3)半年間、失業手当を得ながらフリーの音楽家としての活動を体験する機会が与えられること、などである。このプログラムのために、年間約450万ポンド(約9億円)が投じられた。
同プログラムの成果について、全国導入前の3年間の試行結果をみると、音楽コンサルタントと面談した1万人のうち、3,200名が訓練や助言を受けて、そのうち2,500人が就職をした。この中には、ラップ音楽でCDを出し、トップ20位まで踊り出た者もいる。

もっとも、音楽業界で就職できた者は少ない。例えば、2000年7月~8月にこのプログラムを終えた1,141人の追跡調査をみると、修了者のうち60%がプログラム修了直後に就職したものの、音楽業界で職を得たのはそのうち16%であった。

しかし、同プログラムの修了者の6割が一般の職業に就いたことが示すように、このプログラムは音楽家育成にだけ役立つものではないという。音楽家志望の若者が、就業に向けて意欲的に取り組むことで自信を深め、それが音楽家としての能力だけでなく、一般的な雇用可能性(エンプロイアビリティ)をも向上させたと指摘されている。

7.日本の課題は「きっかけ」の与え方

翻って日本の若年失業問題をみていこう。日本でも近年、若年失業率が二桁前後の高い水準となっている。また90年代以降、フリーターやニートが急増している。

これに対して、2004年度から「若者自立・挑戦プラン」に予算が投じられ、ジョブカフェなどの就職支援機関が整備されつつある。そこでは、若年失業者などに1対1で対応する就職支援相談員や、専門的なトレーニングを受けたキャリアカウンセラーが置かれ、失業者の相談を受けられる。先述した英国の事例が示すとおり、若年失業者への支援策として重要な役割を果たすのは、社会と若者の間に立って様々なアドバイスを送る個人アドバイザーである。こうした点が重視されていることは評価できる。

しかし、いくつか課題があげられる。第一に、日本では若者の雇用問題に対する予算を増やしてきたとはいえ、急増する若年失業者やニートに対応するには、予算規模を一層拡大させていく必要があろう。

この点、日本の「若者自立・挑戦プラン」には、2005年度に756億円の予算が組まれた。これに対して、英国の若年失業者ニューディールには、97年度から2003年度までに合計14.8億ポンド(約2,960億円、年平均423億円)が投入された。また若年失業者ニューディールとは別に、ニート対策として年間4.5億ポンド(約900億円)の規模の予算が講じられている。両国の予算規模の厳密な比較はできないものの、英国の人口が日本のほぼ半分であることなども勘案すると、英国の方が若者の雇用問題により多くの資金を投入しているのではないかと推察される。

しかし日本では、若者の雇用対策の強化に対して「若者を甘やかしすぎ」といった見方もあり、コンセンサスがとれていない。財政が厳しい折、政策効果の吟味や効率化を図ることは当然であるが、若者への職業訓練などに向けた支出を「将来への投資」と考えることは重要であろう。吸収力の高い若い頃に技能をつけないまま中高年になると、就職は一層難しくなり、最終的には福祉依存に陥って国家の財政負担を高める危険性もある。他方で、若者への職業訓練は、「経済の担い手」を育てることになり、将来起こりうる労働力不足を緩和する効果もあるだろう。

第二に、日本では、若年長期失業者をジョブカフェなどに連れ出す「きっかけ作り」が課題と考えられる。英国の場合、求職者手当を停止するという「ムチ」を使って、若年失業者をジョブセンタープラスに訪問させている。しかし日本では、英国の「所得調査制求職者手当」に相当する制度はなく、良かれ悪しかれ親からの支援を受けて生活している若者が多い。このため、こうしたムチは使えない。

そこで、ジョブカフェなどの就職支援機関を、若年失業者・無業者などが訪問したくなる魅力的な場所にしていく必要があるだろう。例えば、英国の「音楽家になるためのニューディール」のようなプログラムは参考になるかもしれない。そもそも音楽家になることは難しく、参加者の多くは音楽業界と関係のない仕事を見つけることになるだろう。しかし、英国の経験からは、夢に向けた活動が失業者の意欲を引き出し、それが一般的なエンプロイアビリティを高める側面がある。こうしたメニューは、若年失業者・無業者の関心を高めるかもしれない。

今後、日本でも海外の事例などを参考にしながら、有効な若年雇用対策が求められる。

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