フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.8
米国金融学会2009年次総会の参加レポート
2009年5月
みずほ情報総研 金融技術開発部 鈴木 恭平
カリフォルニア州サンフランシスコで2009年全米社会科学協会連合 年次総会が開催され、その一部として開催される米国金融学会(以下、AFA)2009年次総会に参加してきた。
1. 概要
アメリカ西海岸に位置するサンフランシスコは、ゴールデンゲートブリッジやケーブルカー等で有名な観光都市であり、外国人のみならず、アメリカ人の観光客も多い。GoogleやAppleに代表されるシリコンバレーも近く、ロサンゼルスと共にカリフォルニア州の中心都市である。
AFA2009年次総会は、ダウンタウンのホテルを会場に、2009年1月3日から2009年1月6日にかけて開催された。開催中、ダウンタウンの至る所に学会参加証のネームカードを吊り下げている人々がおり、参加者の多さがうかがえた。
2. 内容
聴講したセッションから、その一部を紹介する。
<市場分析関連>
株式価格と債券価格の連動性に関する分析や、経済指標が債券価格に与える影響の調査など、クロスセクション分析を行った研究が多く見られた。これらの発表の中には立ち見が出るほど盛況なものもあり、参加者の注目度の高さがうかがえた。
- 株式価格と債券価格の連動性の経済的要因とその時間変化についてDynamic Factor Modelを使い調査。株式価格と債券価格の相関は、マクロ変数だけでなく、流動性や株式市場の不確実性も考慮すると説明力が上がることを実証。
[Lieven Baele, Geert Bekaert, Koen Inghelbrecht “The Determinants of Stock and Bond Return Comovements”] - 1997年1月から2003年6月の日次クレジットスプレッドを使って、マクロ経済指標の発表が社債市場に与える影響を調査。マクロ経済指標は主にハイ・イールド債に影響を与え、特に景気先行指数や雇用統計のサプライズ発表は、そのクレジットスプレッドに大きな影響を及ぼすと分析。また、マクロ経済指標ではないが、VIX指数(シカゴ・オプション取引所算出のボラティリティインデックス)が日次のクレジットスプレッドのジャンプに大きなインパクトを与えていると分析。
[Jing-xhi Huang, Weipeng Kong “Macroeconomic News Announcements and Corporate Bond Credit Spreads”] - 債券価格が原油の価格変化に依存することと、経済全体のパフォーマンスは、イールドカーブの形状と相関があるという命題の妥当性について検証。レジュームスイッチング型の金利モデルを用いることで、この命題にはある程度の妥当性があることを証明した。
[Nina Boyarchenko “Are analysts right? Macroeconomic factors and regime switching in the term structure of interest rates”]
<ポートフォリオ分析関連>
ヘッジファンドやミューチュアルファンド関連の発表が多く見られた。ファンドマネジャーの行動パターンに関する分析や、ファンドの所在地や規模別にパフォーマンスを分析した発表が注目を集めていた。
- ミューチュアルファンド同士のポートフォリオ選択を比較することによって、アクティブポートフォリオマネジメントの新しい見識を示した。この調査は、多数のファンドが構築したものとは異なる配分のポートフォリオを構築したファンドの特徴を明らかにする。このようなファンドは、規模が小さく離職率が高い。また、他のファンドとの結びつきが弱く、マネジャーが一人の場合が多い。さらにそのパフォーマンスは他のファンドに比べて悪いことが明らかになった。
[Swasti Gupta-Mukherjee “When Active Fund Managers Deviate from their Peers: The Impact on Performance”] - オープンエンド型のミューチュアルファンドのマーケットボラティリティと流動性需要について調査。マーケットが不安定になると予想されたとき、ファンドマネジャーは自身のポートフォリオをより流動性のある株式にシフトさせる。そしてこの行動は大きなリターンに繋がることを示した。
[Jiekun Huang “Dynamic Liquidity Preference of Mutual Funds”] - ヘッジファンドに在籍するエマージングマーケットマネジャーのパフォーマンスパターンを解析。彼らは最初の2,3年間はその後に比べて高いリターンを実現している。また、平均的なマネジャーのパフォーマンスは年を重ねるごとに低下するが、エマージングマーケットマネジャーは5年以上高いパフォーマンスを実現している。
[Rajesh K. Aggarwal, Philippe Jorion “The Performance of Emerging Hedge Fund Managers”]
<信用リスク分析関連>
金融政策が銀行の貸出し基準に与える影響に関する調査や、米国の債務者保護制度が企業の資金繰りに与える影響の調査など、時代を反映したテーマが多く見られた。
- 金融政策のスタンスと方向が銀行ローンの信用リスク水準と貸出基準に与える影響を調査。調査には1985-2006年のスペインの全信用機関から提供されたローンの月次データを使用。低金利は銀行のリスクテイクを増やし、非常に短期間では信用リスクを減らす効果があるが、中期的には逆に増大する。また高いGDP成長率は新規および既存のローンの信用リスクを減少させるが、これは金融政策の効果とは正反対である。
[Gabriel Jimenez, Steven Ongene, Joes Luis Peydro, Jesus Saurina “Hazardous Times for Monetary Policy: What do Twenty Three Million Bank Loans Say About the Effects of Monetary Policy on Credit Risk?”] - 米国の州ごとに債務者保護のレベルが異なることが、中小企業の資金繰りにどう影響するかを調査。債務者に有利な破産法のある州の無限責任企業は、資金繰りやローン環境が厳しいことが明らかになった。
[Allen N. Berger, Garaldo Cerqueiro, Maaria Fabiana Penas “Does Debtor Protection Really Protect Debtors? Evidence from the Small Business Credit Market”]
<デリバティブ関連>
株式オプションのミスプライスを確認する手法や、ボラティリティリスクに関する調査が発表された。
- 株式オプション価格のミスプライスを確かめる一般的な方法を発展させ、米国100社の株式オプションと、株式インデックスオプションの価格のミスプライスを調査した。その結果、ミスプライスの割合は1%未満であり、ほとんど無視してよいほど小さいことがわかった。
[Gurdip Bakshi, Gorge Panaayotov “A framework for studying option mispricing: a general test and empirical evidence”] - Modified two-pass Fama-MacBeth procedure を使いボラティリティリスクプレミアムについて分析。市場全体のボラティリティの水準に応じてボラティリティリスクプレミアムは増加することを示した。このリスクプレミアムはオプション契約の特性と、その原資産である株式の危険性の両方に由来するリスクの対価である。
[Jefferson Duarte, Christopher S. Jones “The price of market volatility risk”]
3. 所見
今回報告された研究テーマの多くは莫大な量のヒストリカルデータを使用して分析を行っているが、主に2007年以前のデータに基づいており、昨今の金融危機のデータは含まれていない。そのためどのセッションにおいても、最近のデータを使った場合の結果に関する質問が多く聞かれた。今後は分析に使用するヒストリカルデータの”量”だけでなく、最新のデータをすばやく反映させる”質”も期待したい。
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