フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.9
「Quantitative Methods in Finance 2009(QMF2009)」参加報告
2010年2月
みずほ情報総研 金融技術開発部 鈴木恭平
カンファレンス概要
大会名:Quantitative Methods in Finance 2009
主催者:University of technology Sydney
開催地:Sydney, Australia
日時:2009年12月14日~2009年12月19日
本大会への参加は当部として3回目となる。本大会は、2日間のワークショップおよび4日間のカンファレンスから構成されており、金融に関する事象に対して数理的なアプローチをもった研究の発表の場となっている。参加者は250名程度であり、うち130名ほどが発表者である。昨年度に比べ発表者が増えたため、発表会場が1つ増え、4会場となった。リーマン・ショック以降の当分野への注目度の高まりが伺える。日本からの発表者は9人であった。
以下では、聴講した発表の中からテーマとして興味をもったものをいくつか紹介する。
デリバティブ商品の時価評価
[Uwe Wystup, “The Foreign Exchange Volatility Smile”]
為替オプションのボラティリティ・スマイル構造を、マーケットで取引されているアット・ザ・マネー、リスク・リバーサル、及びストラングルから構築する手法を提案。これまでにも同様のアプローチとして、バンナ・ボルガ法やSABRモデルがあるが、今回の新手法はそれらよりもロバストであることを示した。
[Antonis Papapantoleon, “A New Approach to LIBOR Modeling”]
エキゾチック・デリバティブの価格付けを行うためのモデルはLibor Market Model(LMM)が一般的であるが、このモデルでキャップとスワップションのマーケットデータにキャリブレーションすることは計算が煩雑で、また”Frozen Drift”と呼ばれる近似手法が必要となる。そこで、LIBORをモデリングする新手法として、アフィン・ファクター・プロセスに基づいた手法を提案。アフィン・プロセスのマルコフ性を利用し、LMMに比べ単純で扱いやすいモデルを構築した。
[Nick Denson, “Vega Control”]
LMMモデルは、エキゾチック・デリバティブのリスク値を算出するのに非常に時間がかかる。本研究では、Markov-Functionalモデルを使うことでリスク値算出の高速化を実現した。
デリバティブの評価モデルを構築する際に重要なことは、
- (1)マーケットに整合的である。
- (2)直感的にわかりやすく、取り扱いやすい。
- (3)計算が速い。
等が挙げられる。(1)に関して、デリバティブの代表的な評価モデルであるブラック・ショールズ・モデルは、原資産が対数正規分布すると仮定しているが、実際のマーケットではそれが妥当とは言えず、マーケットに整合的ではない。そこで、これに代わる新たなモデルが必要である。(2)に関しては、どんなに優れたモデルでも、実務で使用する際にマーケットで直接観測出来ないようなファクターが含まれていたり、推定するパラメータが多かったりすると、直感的にわかりにくく、扱いづらくなってしまう。(3)に関しては、計算に時間がかかってしまうと、最適な時期に取引を行うことが困難になってしまう。上記発表はこれらの点を踏まえており、非常に参考になった。
デリバティブ商品の投資戦略・ヘッジ手法
[Carl Lindberg, “Optimal Liquidation of a Call Spread”]
ブラック・ショールズ・モデルでオプションの価格付けを行うためには、原資産の収益率の標準偏差であるボラティリティを決定する必要がある。通常、このパラメータは市場価格から逆算され、それはインプライド・ボラティリティと呼ばれる。一般的にインプライド・ボラティリティは、実際の実現ボラティリティよりも高いことが多く、マーケットではこの点に着目した裁定取引が行われている。本研究はコール・スプレッド取引によるこの裁定取引の投資戦略について考察した。
[Jan Baldeaux, “Static Replication of Forward-Start Claims and Realized Variance Swaps”]
Realized Variance Swapのような経路依存型デリバティブを、デジタル・コール・オプションのようなよりスタンダードな商品で静的ヘッジ(複製)する手法を提案した。
上述のように、通常オプションの価格付けに使用されるボラティリティは、インプライド・ボラティリティである。一般に、このインプライド・ボラティリティは実現ボラティリティよりも高いと言われており、そこには裁定機会が存在すると考えられる。ここに着目した取引戦略が上記発表である。Realized Variance Swapとは、あらかじめ決められた一定値と観測期間中に実現したバリアンスを交換するスワップで、オプションのボラティリティ変動リスクのみを抽出した取引である。この取引に関しては、Carr and Madan(2001)のモデルが有名であるが、このモデルはダイナミック・ヘッジが必要であり、取引が煩雑である。この点においてJanの発表は、先スタートのデジタル・コール・オプションがマーケットで取引可能という前提があるが、静的ヘッジ手法を提案しており、Carr and Madanの手法に比べ取引が容易であると考えられる。
まとめ
本カンファレンスは著名な研究者も多く参加しており、著名人同士の活発な議論もいたるところで見られた。今回主に聴講したデリバティブの時価評価に関する発表では、現在ブラック・ショールズ・モデルに代わりマーケットの主流になりつつある確率ボラティリティモデルに関する研究が多かった。上記発表以外の分野では、昨今の金融危機の影響を受けてか、信用リスクに関する発表も多く見られた。また、実務への応用という観点からみても、発表の中には即座に実践可能なものもあった。カンファレンス最終日に会場が停電となり、ホワイトボードを使った発表に変更されるというトラブルもあったが、総じて発表内容のレベルは高く、非常に有意義な大会であった。
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