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フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.10

新BIS規制の概要と現在までの変遷

2011年2月
みずほ情報総研 金融技術開発部 片桐友和

1. はじめに

2008年のリーマンショックを主因とする金融危機に伴い、2009年以降今日に至るまで各国が危機再発防止に向けた金融改革案を検討している。なかでもBIS規制(銀行の自己資本比率規制)においては、現行規制(バーゼルII)から新しい枠組み(バーゼルIII )への議論が行なわれ、2010年11月のG20ソウルサミットでその大枠が承認、12月にはバーセル銀行監督委員会の最終文書が公表された。

バーゼルIIIでは中核的自己資本(Tier1)のうち、損失吸収力の高い狭義の中核的自己資本(普通株式等Tier1)を定義し、現行の自己資本比率に加えて新たに「普通株式等Tier1比率」が導入される。また自己資本に関していくつかのバッファーを用意することで、自己資本比率低下時の社外流出抑制、景気悪化時の順景気循環(プロシクリカリティ)効果の抑制を図る。

さらに、バーゼルIIIでは自己資本比率の強化に加えて、新たな指標として流動性比率やレバレッジ比率を設けることによって、流動性リスクの把握やレバレッジの肥大化抑制をモニタリングする仕組みも導入される。

国際業務を展開する銀行にとって、今般のBIS規制の変更・強化は普通株式による自己資本増強を余儀なくされ、邦銀のみならず外銀にとっても影響は大きい。本レポートでは、1988年に初めて合意したBIS規制について現在までの変遷を簡単に振り返り、続いて今回のBIS規制の新しい枠組みについてまとめていく。

2. BIS規制の現在までの変遷

1988年に初めて合意されたBIS規制(バーゼルI)は、当時の金融のグローバル化と競争の激化に伴い、金融システムの安定および国際競争上の公平性を維持する目的で作成された。これは主に銀行の保有する信用リスクに焦点を当て、リスクアセットに対して8%相当の自己資本を保有するものであった。その後1996年にトレーディング勘定にかかる市場リスクが追加され、標準的手法、内部モデル手法による規制上の市場リスクの計量、資本賦課がスタートした。

その後、銀行の捕捉すべきリスクの広範化、リスク計量の高度化を目的にバーゼルIの見直しを実施、2004年にバーゼルIIが合意され2007年3月より邦銀に導入された。バーゼルIIでは信用リスクアセット算出部分を細分化するとともに、銀行に対してその算出手法に選択肢をもたせ、より高度な手法を採用する銀行に対してリスクアセットの軽減というインセンティブを与えた。またバーゼルIIでは新たにオペレーショナルリスクを導入し、事務リスク、システムリスク等を自己資本比率算出に反映させた。

そして2008年の金融危機後に再びBIS規制の見直しが検討され、2009年12月にバーゼルIII市中協議案を公表、2010年に入って具体的な規制内容が提案、承認されている。

BIS規制の変遷

1988年 バーゼルI 合意
1996年 トレーディング勘定にかかる市場リスクの部分を追加
1998年 バーゼルI の見直し検討開始
2004年6月 バーゼルII 最終合意
2007年3月 バーゼルII 適用開始
2009年12月 バーゼルIII 市中協議案公表
2010年7月 バーゼルIII 規制改革パッケージの合意
2010年9月 バーゼルIII 最低自己資本基準の合意
2010年11月 G20にて制度設計および水準調整を含めたバーゼルIII 包括的パッケージを承認
2010年12月 バーセル銀行監督委員会がバーゼルIII 最終文書を公表

3. BIS規制の変更点

今般のBIS規制見直しでは、金融危機発生時における銀行セクターの損失吸収力強化を目的とし、金融危機の影響を実体経済に波及させないように各銀行に適切な自己資本を積むことが求められる。

さらに、リーマンショックを主因とする金融危機の主な原因がレバレッジの肥大化であり、また流動性バッファーの不足が最終的に銀行セクターの弱体化を招き、実体経済に影響を与えたことも鑑み、レバレッジ比率や流動性比率を補完的な指標として新たに導入する。

(1)自己資本比率の最低基準の拡充

現行規制で求められる8%の自己資本比率に加えて、普通株式等Tier1比率等が新たに追加される。

自己資本比率の最低基準の拡充

  • *資本保全バッファーは普通株式等Tier1で充足


なお、資本保全バッファーは景気後退期の取り崩しを目的に、非ストレス時に銀行の社外流出を抑制、バッファー積み立てを促進するものである。資本保全バッファーは普通株式等Tier1で充足することになるので、普通株式等Tier1比率の最低基準4.5%と合わせると、必要とされる普通株式等Tier1比率の合計は7%となる。また、今般の規制見直しにともない普通株式等Tier1から控除される項目がより厳格化され、繰延税金資産の算入額も減額されており、繰延税金資産の多い邦銀にとってはこの変更は資本政策に影響を与えている。一連の自己資本比率の最低基準拡充については、2013年より段階的に実施され、2019年1月に新規制への完全移行を予定している。

(2)規制資本によってカバーされるリスクの広範化

リスクアセット算出方法の追加、見直しとして、証券化商品に対する資本賦課の強化、マーケットリスクに対する資本賦課の強化、カウンターパーティー信用リスクに対する資本賦課の強化、の3点が主要な項目として挙げられる。

  1. I   証券化商品について、再証券化商品のエクスポージャーを新たに定義し、通常の証券化商品と比較して高いリスクウェートを課している。また証券化商品において外部格付を利用する際の適用要件の強化、適格流動性補完の適用要件の強化も行なわれる。)
  2. II  マーケットリスクについて、信用リスクを伴いかつ流動性の低い商品に対して追加的なデフォルトリスクを導入、またヒストリカルデータとして、重大な金融ストレス期を考慮した「ストレスのかかったVaRの平均値」×3を現行のVaRに加算することが求められている。)
  3. III カウンターパーティー信用リスクについては、以下の項目が追加される。
    • 金融機関向けエクスポージャーの資産相関の見直し(内部格付手法)
    • 信用評価調整(CVA)の導入
    • 清算機関(CCP)向けエクスポージャーの見直し(0%⇒3%)
    • 担保管理の強化
    • 誤方向リスク(Wrong Way Risk)への対応
    • バックテストやストレステスト要件等の強化

(3)レバレッジ比率を補完的指標として導入

金融機関のレバレッジ肥大化抑制を目的として、今般レバレッジ比率の導入が検討されており、現状レバレッジ比率の定義として、Tier1/総資産≥3%が挙がっている。ただし、この比率の分母は総資産であり、自己資本比率算出時に用いるリスクアセットとは異なるという点に注意しておきたい。なぜなら、レバレッジ比率で用いている総資産については、国債等のリスクアセットゼロの資産も含まれるため、国債保有額の多い邦銀に影響を与える可能性がある。

ちなみに、このレバレッジ比率については引き続き議論が進められており、今後定義の変更も考えられる。スケジュールとしては2013年から試行期間としてスタートし、2018年1月に第一の柱の下で取り扱いを予定している。

(4)流動性リスクのトレンド把握

金融危機時に一部の投資銀行などが流動性危機に直面したことを踏まえ、短期、長期の流動性比率を新たに導入、監督当局が銀行および銀行システム全体の流動性リスクの動向を分析する。短期については流動性カバレッジ比率(LCR:Liquidity Coverage Ratio)と呼び、30日間のストレス期間に必要となる流動性の確保を目的としている。一方で長期については安定調達比率(NSFR:Net Stable Funding Ratio)と呼び、ある程度の期間を考慮した流動性を観測しており、例えば1年以上の負債や資本については全額安定調達額としてカウントする。

(5)銀行システムの安定化のために、プロシクリカリティ対策を導入

景気悪化時に、銀行の資産内容の悪化に伴いリスク許容度が低下、それがさらに景気悪化に拍車をかける、いわゆるプロシクリカリティ(順景気循環)効果について、以下の4つの対策を検討している。

  • 倒産確率算出時に長期のデータを用いることにより、景気循環を通じた最低所要自己資本額の変動を抑制
  • 国際会計基準審議会(IASB)が見直しを行なっている、将来の期待損失を織り込んだ引当金計上の促進等
  • 資本保全バッファーの導入に伴う配当、自社株買い、賞与支払等の社外流出を抑制
  • カウンターシクリカル資本バッファーの導入に伴い、マクロ経済状況に応じて資本バッファーの水準を調整し、信用供与の変動を抑制

(6)システミックに重要な金融機関への対応

モラルハザードの抑制や破綻時の救済コストの内部化、最小化を目的として、今後グローバルに活動しシステム上重要な金融機関(G-SIFIs:Global Systemically Important Financial Institutions)を選定していく。日本では3大メガバンクや野村HDが候補になりうるが、対象先となれば資本等の追加賦課が発生、一方で対象外となれば国際業務が一部制約される可能性がある。2011年中にG-SIFIsの定義や対象となる銀行が決定される予定である。

(7)コンティンジェントキャピタル

自己資本がある一定水準を割り込んだ際に、負債から資本に転換する債券をコンティンジェント転換社債といい、今回のBIS規制変更にて具体的な取り扱いを検討している。コンティンジェントキャピタルの利点として、真に必要なときに資本が増加する仕組みの方が、常に高い自己資本を要求するより、貸し渋りや規制回避行動の可能性が小さくなるということで、既に英国やオランダの銀行で発行実績がある。ただ、転換条項の設定や投資家の確保といった課題が残っている。

4. 今後の展開

今回のBIS規制見直しについては、2010年12月までに大枠が決定・公表されたが、一方でいくつかの項目については具体的な内容が決まっていない。特に、システミックに重要な金融機関については追加的な資本賦課が検討されており、グローバルに活動しシステム上重要な金融機関に選定されるかどうかは、今後の銀行の資本政策に影響を与えるだろう。これについては、バーゼル銀行監督委員会で2011年半ばに追加的な資本賦課水準の調査を終了し、具体的な金融機関の選定は2011年末ごろになる。バーゼルIIIの実施時期については、2013年1月より試行期間として段階的に実施し、2019年1月に全面移行を目指しており、引き続きバーゼルIIIの動向について注目していきたい。


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