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社会動向レポート

ICTによるグリーン社会の実現に向けて

情報・コミュニケーション部
シニアコンサルタント 紀伊 智顕

ICT(情報通信技術)を利用した社会の環境負荷軽減を図る日本の取り組みとして、トレーサビリティーシステムとの連携によるスマートグリッド、プローブ情報共有化による交通情報提供サービスの高度化について紹介する。

1.グリーン社会の実現に向けたICT活用の動向

近年地球温暖化防止に向けたCO2削減策として、ICT(情報通信技術)を利用した社会の環境負荷軽減を図る取り組みが世界各国で加速している。

具体的な取り組みとしては、まず太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの普及を踏まえ、ICTを利用して電力の需給調整を自動制御するスマートグリッド(次世代送電網)が挙げられる。スマートグリッドは、地球温暖化防止に向けた電力の効率的利用のツールとしての側面に加え、これまでバラバラだったエネルギー、住宅、家電、自動車を情報ネットワークでつなげることにより、スマートフォンを用いて家電や防犯システムを一元的にコントロールすることが可能になるなど、様々な新規サービスを生み出す新たな社会インフラとしても大いに期待されている。そのため、現在日米をはじめとした世界各国のIT、エネルギー、家電・自動車メーカーが、国際標準規格の主導権獲得を目指して激しい競争を繰り広げている。

日本では、2005年のCO2排出量のうち20%を交通分野が占めており、そのうち90%が自動車(6割が乗用車、4割が商用車)のため、ITS(高度道路交通システム)の活用による渋滞緩和や自動車以外の交通機関の利用を促すモーダルミックスナビゲーションの実現が期待されている。そのための基盤も整備されつつあり、既に主要道路や高速道路の渋滞状況をカーナビゲーションに配信するVICS(道路交通情報通信システム)や高速道路の料金所をキャッシュレスで停車せずに通過できるETC(自動料金支払いシステム)が提供されている。今後は通信ネットワーク技術を利用して収集したプローブ情報(個々の自動車の位置や速度などの情報)の共有化による、より正確な渋滞情報の収集やその情報に基づいて提供される経路情報の提供などが期待されている。

以下のところでは、まず家庭部門に着目したICT技術(トレーサビリティーシステム等)によるスマートハウスの普及促進について述べた後、交通部門におけるICT技術(プローブ情報共有化等)による燃料消費削減の取り組み状況を紹介する。そして最後に両分野における取り組みを加速するために必要な国際標準化や産学官連携について方向性を示す。

2.日本の強みを生かしたトレーサビリティーシステムとの連携によるスマートグリッドの実現

米国では2009年2月のオバマ政権誕生後まもなく米国復興・再投資法が可決された。また、スマートグリッドに110億ドルという多額の予算が付けられた。また、風力発電など再生可能エネルギーの導入に積極的な欧州でもスマートグリッドプラットフォームの検討が進められている。

こうした動きの中、日本政府も2010年度中に国内4地域(横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市)で実証実験を開始するほか、米国のニューメキシコ州での日米共同実証、インドでのスマートグリッド構築支援などを実施している。

ところで、スマートグリッドの実現に向けては送電系統、電池の制御システム、パワーコンディショナー等の機器、通信など様々な分野で標準化を進める必要がある。

国内における普及拡大に不可欠な取り組みは、約5,000万世帯ある一般家庭への導入である。その鍵を握るのは、外部との通信機能や各種機器の制御機能を持つスマートメーター(もしくはホームサーバー)である。自動車、TV、エアコン、冷蔵庫、照明器具、給湯器などは、スマートメーターに接続されることでエネルギー消費が可視化される。しかしながらスマートメーターに接続される機器は10年前後で買い換えが必要なものも多く、そのたびに専門業者(ハウスメーカーや工務店、家電量販店や地域電器店など)に接続・設定を依頼しなければならず、消費者自らが複雑な接続・設定等を行うことは難しい。今後は、消費者が機器の買い替え時に容易に設定できるようなインターフェイスの開発ができれば、普及拡大にもプラスに働くだろう。そのために利用可能な技術としては、RFIDなどの自動認識技術の適用が考えられる。

この分野では日本にとって強みを有しており、トレーサビリティーシステムの国際標準化の動きである。現在家電業界などでは、リコール(製品不具合)時の製品所在把握による安心・安全の確保、不法投棄防止・レアメタル回収のためのリサイクル率向上などの社会的課題解決のため、製品ライフサイクル全体のトレーサビリティーが求められている。既に、国際標準化機関GS1 EPCglobalでは、製造、物流、販売、利用(修理、中古売買含む)から、廃棄、リサイクルといった製品ライフサイクル全体のトレーサビリティーの実現に向けて、RFID(Radio Frequency Identification、無線利用による非接触識別)など自動認識技術と複数企業間の情報共有ネットワークシステムについて国際標準規格の検討を行っており、傘下の家電部会や国際物流部会では共同議長の座に日本人が就任している。

この、RFIDなど自動認識技術を用いたトレーサビリティーシステムは、スマートグリッドと親和性が高い。いずれも消費者が機器をネットワークに接続することで、機器に組み込まれたRFIDに格納された機器ID(例えば、国番号+企業コード+商品アイテムコード+製造番号など)をホームサーバーが読み取り、機器特性に応じた制御設定あるいはサービス提供を行おうとするものである。トレーサビリティーシステムの国際標準規格の検討において世界をリードしている日本は、その強みをスマートグリッドにも生かすことができる絶好のポジションにつけているといえる。

3.世界に先駆けたプローブ情報共有化による交通情報提供サービスの高度化

では、交通部門のグリーン化において、日本はどのような取り組みを行っているのであろうか。1994年第1回ITS-WORLD以来、官民合同で9つの分野(カーナビゲーション、ETC、安全運転支援、交通管制、道路管理、公共交通運行管理、商用車運行管理、歩行者支援、緊急車両管理)にてITSに取り組んでおり、特にカーナビゲーションやETCは数千万台単位で普及するなど、広く活用されている。渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムに送信し、カーナビゲーションなどの車載機に文字・図形で表示する情報システムVICSは、2010年3月末現在約2,700万台で利用されており、渋滞や事故、工事などの交通規制の情報をリアルタイムで入手することが可能となっている。しかし、VICSは道路に設置された各種センサより走行情報を収集しているため、情報を提供しているのは高速道路や主要道路に限定されている。そのため、携帯電話網や業務無線、DSRC( Dedicated Short Range Communications:スポット通信)など通信ネットワークの活用により個々の自動車の走行状況を収集することにより、より多くの地域の細い道路の状況まで把握することのできるプローブ情報の活用が近年注目されている。具体的には、自動車メーカーが会員向け交通情報サービスを提供したり、民間事業者がタクシーの配車業務の効率化やバスの運行管理等の情報サービスを行うことにより、従来よりも交通流が改善し、CO2削減に寄与している。また、2008年北京オリンピックの際、日本からの技術協力により、タクシー1万台超のプローブ情報を基に作成した渋滞情報を配信、渋滞回避に寄与している。今後経済成長により都市部の渋滞の深刻化が危惧される新興国において、日本の優れた技術を生かした情報サービスの提供が期待されている。

4.ICTによるグリーン社会の実現に向けて、今後必要な取り組み

2、3のところで述べたように、グリーン社会の実現に不可欠なスマートグリッド、ITS分野において、日本は既に高い技術を保有しているが、今後国際的な競争に打ち勝っていくためには、官民一体となった取り組みが求められている。

(1)スマートグリッド分野(家庭部門)

スマートグリッド分野では、企業や公的施設を対象としたエネルギーマネジメントは法制化等により着実に進展していくと想定されるが、一般家庭への普及の道筋は、一部の新築を除きまだ見えていないのが現状である。エネルギー会社、機器・家電・自動車・ハウスメーカー、サービスプロバイダなどマルチベンダ間で情報をやりとりするための機器インターフェイスの標準化は重要なテーマであり、実際に消費者が機器・サービスを購入する場合、誰がワンストップで提供していくのか、アフターサービスを実施していくのか、といった運用面もポイントとなる。関連機器を購入して家に設置、ホームネットワークに接続、サービスに登録といった一連の作業を全て自ら行う消費者は多くはなく、全ての機器・インフラ・サービスを一括提供できる企業も無いことから、誰が消費者の窓口になるのか、故障した場合誰が責任を持って対応するのかなどの責任分解点も含めて、機器・サービスの提供体制を検討していくことが求められている。そのため、財団法人日本情報処理開発協会(JIPDEC)傘下のスマートハウス情報活用基盤推進フォーラム(eSHIPS)では、マルチベンダで機器やシステムの相互運用性を担保するための要件整理やベンダ間で家庭エネルギー情報等やりとりするためのセキュリティガイドライン、マルチベンダで家庭エネルギー情報を活用した新事業を創出できるオープンな仕組みを提供するための運用ガイドラインの作成等に取り組んでいる。

図表1 スマートハウス情報活用基盤推進フォーラム(eSHIPS)の目標

図表1 スマートハウス情報活用基盤推進フォーラム(eSHIPS)の目標

また、これまでスマートグリッドとRFIDなど自動認識技術を用いたトレーサビリティーシステムは、いずれも先進的な情報通信技術であるにも関わらず、別々の組織やメンバーで検討されてきた。しかし、現在、慶應義塾大学SFC研究所Auto-IDラボが中心となって、WiMAX等新しい通信技術と有線・無線による家庭内ネットワークによりRFIDを実装した家電製品の接続・制御を行う実証実験が予定されており、両者のメリットを融合した形での検討もスタートしている。実証実験では、家電機器に関わるエネルギーサービス、情報サービスを誰もが自由に追加し、選択できるオープンな情報基盤の要素技術を開発し、システムを構築するもので、電子タグを利用した機器の自動接続や機器の遠隔・自動制御による環境負荷低減効果の定量化について、2011年2月に神奈川県藤沢市湘南台地区で実証実験を実施する予定である。

図表2 「WiMAXを利用した多数・多様な機器・デバイスの効率的制御」事業概要(イメージ)

図表2 「WiMAXを利用した多数・多様な機器・デバイスの効率的制御」事業概要(イメージ)

(2)ITS分野(交通部門)

一方、ITS分野でも、現在自動車メーカーやカーナビメーカ、交通情報サービス会社などが個々に収集・配信している民間プローブ情報を共有化することにより情報の集約・共有を図り、さらにVICSとの相互補完による交通情報基盤構築により、到着時間予測サービスや省エネルート提供サービスの実現が期待されているところである。

グリーン社会の実現に向けては、家庭や地域のみならず、自動車など交通機関も含めた社会インフラ全体の枠組みにおいて、ICTを活用したエネルギーマネジメントを行っていくことが必要である。当社は、スマートグリッドやITSに関する機器・サービスの開発・提供は行っていないが、これまで様々な調査研究、実証実験等に関わってきており、それらの知見・ノウハウを生かして中立的な立場から産官学の取り組みをサポートしていく予定である。

図表3 プローブ情報の共有化による交通管理・サービスレベルの向上イメージ

図表3 プローブ情報の共有化による交通管理・サービスレベルの向上イメージ

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