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ビジネス最前線レポート

財務報告に係る内部統制報告制度の現状と課題

ビジネスコンサルティング部
次長 尾形俊彦

財務報告に係る内部統制報告制度は、2回目の内部統制報告書の公表が進んでいる。制度が定着しつつある一方で、金融庁の企業会計審議会内部統制部会では「内部統制報告制度の運用の見直し」も議論されている。制度の現状と今後の課題を整理する。

1.内部統制報告書の公表状況

平成18年(2006年)6月に成立した金融商品取引法により、上場会社を対象に、財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士等による監査が義務付けられた内部統制報告制度が始まった。この制度は、平成20年(2008年)4月1日以後開始する事業年度から適用されたので、現状2回目の報告タイミングになっている。一律に全ての上場会社に報告が義務付けられたため、1年間の提出総数としては3,800近くになっている。その中でも一部の企業が財務報告に係る内部統制における「重要な欠陥」を公表している。次の図表1は制度の第1期と第2期の途中までにおいて「重要な欠陥」と「評価不表明」の公表状況を示している。(第1期とは平成20年(2008年)4月1日以後開始する事業年度であり、2009年3月期決算から2010年2月期決算までで、提出日としては2009年6月から2010年5月末までの範囲である。)

図表1 「重要な欠陥」と「評価不表明」の状況

図表1 「重要な欠陥」と「評価不表明」の状況

第2期は平成22年(2010年)11月29日公表分までのデータであり今後1年間を通じて増えるとは思われるが、制度の初回に比べれば、「重要な欠陥」と「評価不表明」の総数としては少ない傾向であると言える。制度の初回に比べれば、会社としても監査法人としても評価の観点が定まってきたので、総数が減少するのは妥当なことだと思われる。

どちらの期においても期末後の訂正内部統制報告書を公表した会社は存在している。期末時点の内部統制評価では評価結果は「有効」と判断していたにもかかわらず、その後の四半期レビューや中間決算において、前期の会計処理の誤りが指摘され、内部統制評価も「重要な欠陥」があったと評価を覆すものである。繰延税金資産、棚卸資産、固定資産等の評価の誤認などが見受けられる。また、訂正の場合は不正が発覚し不適切な会計処理が明るみに出るものもある。そのような不正を原因とした訂正内部統制報告書の公表は、第1期では2社であったが、第2期では11社中8社に及んでいる。不正の内容としては決裁権限者を含む架空売上、意図的な売上の前倒し、循環取引などがみられる。決裁権限者を含む意図的な不正行為は、経営者評価を中心とした内部統制では発見しにくいものであるが、内部統制報告制度の定着化により、監査が不正の事例等に対してより保守的に行われていることと、事例が公にされることにより不正発見の着眼点が浸透してきたとみることができるかもしれない。

一方で、図表1に見られるように訂正内部統制報告書の公表数に関しては2期目の現在のほうがやや増えている状況である。訂正内部統制報告書を公表する場合には、ほとんどの場合有価証券報告書の訂正も行われる。開示情報も多くなる傾向にあり決算作業に従事している方々の負荷も高くなっていると聞いている。経営者にとっては売上や利益拡大に直接はつながらない作業ではあるが、決算作業の効率化や事務の見直しなどにも十分目を向けて、訂正作業など本来は必要が無い事務が発生しないような環境づくりを検討する必要があると思われる。

制度が2期目になってきたことで目立ってきたことがある。図表2に2期連続して有効でない結果を公表した状況をまとめた。

図表2 2期連続して「有効」でない公表をした企業数

図表2 2期連続して「有効」でない公表をした企業数

この数値を多いとみるか少ないとみるかは判断が分かれるかもしれない。1期目に「重要な欠陥」を表明した会社も、ほとんどが1年以内に改善が終了しているとみることが出来る。やはり、内部統制報告書の公表が契機になり、改善が進んだ結果と思われる。この表の中では、むしろ2番目の、遡って2期分の訂正内部統制報告書を公表した会社のほうがインパクトは大きいかもしれない。内部統制報告書の訂正は2期分で済んだが、決算の訂正はさらに遡って訂正される可能性もあるので、影響が大きい可能性がある。今後年を重ねるごとに遡った訂正も一定数は出てくるであろう。

2.新興市場と内部統制報告制度

日本の内部統制報告制度で特徴的なことの一つに、全ての上場会社に一律で適用されたことがあげられる。よく引き合いに出されるのが、同じような制度で先行した米国では移行措置が適用され、全上場会社一律には実施されなかったことである。内部統制という考え方そのものは、どのような規模であり上場会社には必須な観点であると思われるが、制度的な尺度を一律に当てはめることの是非は当初から議論があった。次の図表3は図表1に新興市場の会社の数を明示したものである。

図表3 新興市場と内部統制報告制度

図表3 新興市場と内部統制報告制度

新興市場とは東証一部、二部などの旧来からの市場ではなくマザーズ、JASDAQなどの上場基準が比較的緩い市場である。各市場の上場会社数から考えると、表の割合が新興市場において高いことが分かる。特に内部統制の実務が満足に実施できずに「評価不表明」と公表した企業においては、新興市場の割合が非常に高くなっている。

内部統制報告書の評価結果の記載を個別に見てみると、

  • 適切な財務諸表を作成できるスキルを持った人材が不足している
  • 財務報告に係る内部統制評価を実施するに十分な体制を構築できない。
  • 連結子会社の決算を含めてチェックできる人材も体制も無い。

というような問題点が考えられる。新興市場に上場している企業においては、まずは事業の売上や利益を拡大することが最重要になりがちなので、事務面での人材や体制面での脆弱性は現実的に存在する。旧来からの市場に上場している企業に比べれば、規模や従業員数の差も明らかなので、新興市場の比較的規模も小さい企業に対しては、制度の運用面の緩和措置は検討する必要がある。しかしながら、上場して広く資金を調達しようと考えるのであれば、事実を開示することは社会的に必要なので、上記のような人材不足を理由にし続けるのも問題であり、財務報告に係る内部統制の導入に消極的な経営者や企業は市場から淘汰される必要もある。

3.内部統制報告の結果

次の表については財務報告に係る内部統制の報告内容と関連付けていいのかどうか迷う資料である。図表4は、評価結果が「有効」でないと公表した会社をトレースして、2010年11月26日時点で非上場となった会社の数を集計したものである。

図表4 内部統制報告の結果

図表4 内部統制報告の結果

非上場となった理由としては、それぞれの市場の上場基準に抵触し上場廃止となったもの、MBOにより自ら非上場化を選択したもの、親会社により完全子会社化され非上場会社になったものなど様々である。財務報告に係る内部統制が「有効」であったとしても、非上場会社となる場合もあるので、一律に本制度による結果だとみることは出来ないかもしれない。ただし、財務報告に係る内部統制報告制度が上場のデメリットになるように感じられることは制度の趣旨から考えても良いこととは思われないので、新規上場会社には負担を軽減するような措置を検討することも今後は必要ではないかと思われる。よく言われるのは「重要な欠陥」という用語自体が適切ではないという意見である。この点に関しては、企業会計審議会で検討をしているようなので、次章で他の変更点の検討状況も含めて記載しておきたい。

4.内部統制報告制度の見直しの状況

2010年5月21日(金)に金融庁が公表した「企業会計審議会第17回内部統制部会議事次第」に見られるように、「内部統制報告制度の運用の見直し」が議論されてから、2010年11月25日(木)の「第20回内部統制部会」でほぼ見直しの枠組みは定まってきた。金融庁のサイトで公開されている資料のうち「内部統制報告制度の見直しの主な内容(案)」から抜粋したものを次に示す。

  1. (1)企業の創意工夫を活かした監査人の対応の確保
    • 経営者が創意工夫した内部統制の評価方法・手続等について、監査人の理解・尊重
    • 中堅・中小上場企業に対する監査人の適切な「指導的機能」の発揮
    • 内部統制監査と財務諸表監査の一層の一体的実施を通じた効率化
  2. (2)中堅・中小上場企業向けの効率的な内部統制報告実務の「事例集」の作成
    • 中堅・中小企業向けを中心とした、運用ルールの簡素化・明確化のための分かりやすい事例集の作成
  3. (3)内部統制報告制度の効率的な運用手法を確立するための見直し
    • 企業において可能となる評価方法・手続等の簡素化・明確化
      (例)毎年、各業務プロセスごとに行われている評価手続のローテーション化
    • 「重要な欠陥」の判断基準等の明確化
    • 中堅・中小上場企業に対する評価方法・手続等の簡素化・明確化
      (例)必ずしも、組織内における各階層で内部統制の評価を行わないことができること等を明確化
  4. (4)「重要な欠陥」の用語の見直し
    • 「重要な欠陥」の用語は、企業自体に「欠陥」があるとの誤解を招くおそれがあるとの指摘があり、「開示すべき重要な不備」又は「重要な要改善事項」と見直すことを検討

上記の資料以外に、実施基準等の改訂案及び、事例集(案)がサイトに掲載されている。(注1)

各回の議事録を見ると、上場会社への一律適用ということによる形式化を避け、弾力的な運用も許容しつつも、制度の有効性を確保するためにはどうすればいいかが議論されている。この議論は平成22年(2010年)6月18日に閣議決定された、<新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~>の中にも「中堅・中小企業に係る会計基準・内部統制報告制度等の見直し、四半期報告の大幅簡素化など、所要の改革を2010 年中に行う。」と明記されていることからも具体的な成果が早急にまとめられるはずである。

ただし、金融庁は今までも評価が形式的になることを避けるために「Q&A」を数回にわたって公開してきたが、実務的な現場においては監査法人がやや保守的になると、経営者評価としても保守的になり、現場の負担が減少しないということがあると聞いている。適切な開示を行うための自己評価を行うという点では、ある程度の負担も必要だと思われるが、リスクが低減されているプロセスに対する毎年度の検証作業など、形式的にならずに環境変化にも対応できる形での有効な評価作業が可能になるような制度の見直しが期待される。

5.まとめ

財務報告に係る内部統制報告制度は会社の財務諸表等の開示の適切性を担保する仕組みとしては有効であると考えている。ただし、形式的にならず外部内部の環境変化に適応できる弾力性も必要であると思うし、組織規模の違いなどによりメリハリをつけた効率性も重要視されるべきだと思う。この点では、企業会計審議会による運用の見直しの議論は歓迎すべきことである。見直しの議論が現場に反映されるためには、経営者側の制度の本質に対する理解と自らの評価の改善と、評価結果を判断する監査法人の理解が必須であると考える。この点の周知活動を当局としても進めてもらいたい。

内部統制報告書の公表に関しても、特に評価結果が有効でない場合の記載については、より具体的な開示を義務付けるべきである。現状では2・3行で済ませている会社もあれば、原因から改善策まで踏み込んで記載している会社もあり様々である。「有効」でない事例は開示する側には厳しいものではあるが、他の会社にとっては非常に参考になるものであるので、記載事項の定義づけなども検討されると有効だと思う。

これから国際会計基準の適用など、企業会計の世界ではいくつかの制度変更が迫っている。このような状況においても、過度な負担にならず制度の有効性を保てるような改善が必要になっていると思う。

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