技術動向レポート
MEMS製造時の温室効果ガス排出量削減対象の分析
サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント
谷村 直樹
製品製造時の温室効果ガス排出量削減を目的として、MEMS製造における微細加工工程を対象に分析を行った。削減対象特定のための情報収集手段としてセンサネットワークによるモニタリングシステムが有効であった。
1.はじめに
温室効果ガスの削減は、持続可能な社会の構築に向けて立ち向かうべき大きな問題である。主な温室効果ガスは、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄であり、これらは京都議定書による排出量削減対象である。このような温室効果ガスの削減を促すための取り組みとして、製品に対して温室効果ガス排出量をラベリングし、市場での消費者の選好を通した排出量削減が行われてきている(*1)。
これらのラベリングを有効に機能させ排出量の削減に結び付けるためには、まず、製品のライフサイクル全体(原材料・部品の調達、製造、流通、消費・使用・維持・管理、廃棄・リサイクル)を通した温室効果ガス排出量を算定する必要がある。製品に関係する企業活動全体を算定の対象とし、それに関わるインプット、アウトプットから排出量の算定を行う。これにより製品に関連する温室効果ガスの排出量が把握できる。
次の段階では、算定の結果をもとにして排出量削減のための具体的なアクションを実行することになるが、製品ライフサイクル全体からみて製造段階での排出量が多く削減が必要となった場合、製造工程中の削減対象の把握が課題である。
筆者の関わった2010年度実施のNEDO「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発事業(高機能センサネットシステムと低環境負荷型プロセスの開発)」(通称:Gデバイス@BEANS)(*2)プロジェクトにおいて、MEMS製造時の排出量削減対象の分析を行った事例について紹介する。
2.MEMSとは
MEMSとは、電気力学的な可動部を有するμmサイズの電子デバイスである。多くはセンサとして用いられており、デバイス中の可動部によって力学量を検知し電気的信号として出力する。代表例としては、スマートフォン、ゲーム機のコントローラ、車のエアバッグ等に搭載される加速度センサ・ジャイロ等がある。
MEMSは、半導体電子デバイスと同様にクリーンルーム内で微細加工プロセスを用いて製造される。この微細加工プロセスは、複雑な半導体デバイスには及ばないが、数十を越える工程を有する。さらに、MEMS製造は半導体デバイスにはない可動部を構築するための工程を有することが特徴となっている。実際のデバイス形状を設計形状に近づけるため、様々な工程の組み合わせとプロセス条件が検討されている。
クリーンルームの使用は大量の電力を必要とし、また、可動部の構築のための工程では六フッ化硫黄やパーフルオロカーボンなどの温室効果の高いプロセスガスが使用される場合が多い。したがって、MEMS製造工程からの温室効果ガスの排出量は製品ライフサイクルにおいても無視できない量になると考えられる。
MEMS製品の出荷数量は、2008年には年間19億個であったが、2019年には52億個に達するとみられており、前述の製造プロセスの検討の際に、さらに温室効果ガス排出量の削減をも考慮する必要性が高まってくると考えられる。
3.温室効果ガス削減対象の分析
分析方法の検討
MEMS製造段階からの温室効果ガス排出量の削減を検討する場合には、製造時に必要とする電力や原材料・消耗品、排気・廃液処理やクリーンルームの設備使用等の項目毎に温室効果ガスの排出量を算定し、どの項目からの排出量が多いかを分析する。さらに具体的な削減対象を定めるためには、連続する複数の工程のうちどの工程からの排出量が多いのかを分析する必要がある。
したがって、温室効果ガスの排出量の分析は、排出源となる項目毎、工程毎に分析しなければならない。また、この分析を可能にするためには、装置稼働に伴う電力や原材料・消耗品、クリーンルームの設備の使用量や、排気・廃液処理量(以下、まとめて活動量とする)を工程毎に把握する手段が必要である。
活動量の把握
Gデバイス@BEANSプロジェクトでは、MEMS製造の低環境負荷化の実現に向け、最先端の8インチMEMS開発・製造ライン(TKB-812)が構築された。TKB-812では、センサネットワークシステムを用い、クリーンルーム内の製造装置や設備装置の各々に対して、電力、プロセスガス、窒素ガス、薬液、超純水、上水の使用量、熱・酸/アルカリ・有機排気量などをモニタリングするシステムが備えられた。
製造・設備装置の仕様により、モニタリングを行いたい原材料等の項目を完全にカバーできるものではないが、このようなシステムにより製造プロセス実施時の活動量の計測に関わる労力を大幅に削減することができる。モニタリングができないものについては、装置仕様や製造プロセス設定条件から活動量を把握することが必要になる。
原単位データ
活動量に基づいて温室効果ガスの排出量を算定するためには、温室効果ガスの排出源となる各項目について、原単位(排出係数)、すなわち、単位活動量当たりの温室効果ガス排出量のデータが不可欠である。
本事例では、温室効果ガスの排出源となる41項目をピックアップして原単位を調査した。TKB-812のクリーンルームの設備装置によって供給される精製窒素や超純水などについては、精製装置のモニタリングによって得られる活動量と精製量とを原単位の算定に用いることが可能であった。原単位を直接算定できない場合には、公的機関からの公開データを参考にすることとした。半導体製造等の微細加工に関わる材料物質・化合物については、原単位が公開データとして存在しないものも多いが、それらの物質・化合物については個別に算定を行う必要がある。
なお、公的機関より提供されているデータは、信頼性の確保のため第三者の有識者からなる検証委員会などにより検証を受けたものであるが、算定方法や使用目的について、特定の前提のもとで算定されたものであることに注意する必要がある。
削減対象の分析
MEMS製造プロセスの温室効果ガスの排出量について、SOI(Silicon on insulator)ウェハに対して24工程の処理を施してデバイスを作製した場合の分析例を以下に示す。
図表1は、24工程全体を通した温室効果ガス排出量について、排出要因となる項目毎にその割合を示したものである。これによると電力と精製窒素とが大きな排出要因となっていることがわかる。
図表1 SOIウェハに対する微細加工プロセス(全工程)の温室効果ガス排出量内訳の一例
太陽光発電等による原単位の小さい電力の使用や、より排出量の少ない窒素精製装置への置き換えも排出量削減という観点からは有効な手段といえるが、電力や精製窒素の使用量自体を削減することが重要である。そのためには、工程全体での活動量に基づく排出量の分析から、もう一段階掘り下げた分析が必要である。
図表2は、同じ例をさらに工程毎に分解して分析を行ったものである。このような分析を行えば、電力や精製窒素を多く使用する工程が特定でき(図中赤点線での囲み)、装置設定やプロセス条件の選択や、場合によっては装置メーカーと協力して装置設計・制御に踏み込んで、温室効果ガス排出量の削減が可能かどうかを検討することができる。また、排出量の多い工程自体を、他の工程で置き換えるという検討も可能になる。
図表2 SOIウェハに対する微細加工プロセス(工程毎)の温室効果ガス排出量内訳の一例
4.おわりに
製品への温室効果ガス排出量のラベリングから、排出量の削減に向けた取り組みへと一歩踏み込むためには、具体的な削減対象を特定できるような排出量分析のための仕掛けが必要である。MEMS製造を対象とした本事例では、クリーンルームでの製造・設備装置の活動量をモニタリングするセンサネットシステムがその仕掛けであった。
このセンサネットシステムの利用により、多数の製造・設備装置の活動量把握にかかる労力が大幅に低減されるとともに、クリーンルームの設備装置による精製窒素・純水供給等の原単位を算定することが可能になった。
製造段階での温室効果ガス排出量の削減は、本事例で分析した製造プロセス自体からの排出量の低減をはかることに加え、「製造設備の稼動効率を上げる・非稼働時の排出量の低減をはかる」ことも重要である。装置の活動量のモニタリングシステムは、これらの目的のための装置稼動のスケジューリングや装置状態の制御を行う場合にも必要となるものである。
企業では温室効果ガス排出量の削減のみを目的としてこのような活動量のモニタリングシステムを導入・構築することは困難であると思われる。しかしながら、電力量や原材料等の使用量の低減によるコスト削減を目指すためのモニタリングシステムとして位置づけることで、費用対効果の形で導入メリットが明確になる。
排出量削減対象の分析のためには、モニタリングシステムに加え、さらに原単位データを揃える必要があるが、検証された公開データは現状では多くはなく、使用する原材料等に対応した原単位の算定が必要である。
今後、環境を意識したものづくりにおいては、MEMSを製造する場合に限らず、温室効果ガス排出量削減への取り組みが重要である。よって、その取り組みの一環として、活動量をモニタリングするセンサネットシステムの導入、原単位データベースの拡充が進展していくものと思われる。
参考文献
- *1経済産業省「Carbon Footprint of Products:製品のCO2の『見える化』カーボンフットプリント」
- *2一般財団法人マイクロマシンセンター「高機能センサネットシステムと低環境負荷型プロセスの開発」
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