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社会動向レポート

「社会保障・税の一体改革」を考える(1/3)

社会保障 藤森クラスター 主席研究員 藤森 克彦

政府の『社会保障・税一体改革成案』に示された通り、「財政の健全化」と「社会保障の機能強化」のために消費税率の引き上げは必要であり、先送りすべきでない。一方で、就労促進策の強化、中長期的な消費税率引き上げのスケジュールの提示、「重点化・効率化」施策の吟味、といった点などを今後検討していく必要がある。

はじめに

政府・与党の社会保障改革検討本部は、本年6月30日に『社会保障・税一体改革成案』を決定した。注目されていた消費税率の引き上げ時期については、「2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げる」として、原案にあった「2015年度までに」という期限に幅をもたせた。また、消費税率引き上げの前提条件として「経済状況の好転」が加えられた。

菅政権(当時)は上記成案に基づいて与野党協議を呼びかける意向であったが、野党は呼びかけに応じない姿勢を示してきた。9月に新政権を発足した野田首相は、所信表明演説の中で、成案を土台に与野党で協議を重ねて次期通常国会への関連法案の提出を目指すことを述べた。今後の動向が注目されるところである。

筆者は、「財政の健全化」と「社会保障の機能強化」のために社会保障の安定財源を確保することは不可欠だと考えている。その有力財源である消費税の引き上げを先送りすれば、国の債務残高が一層増えていく。財政に対する不安が高まり、市場の反応によっては国民生活に大きな痛みが生じることを懸念する。

本稿では、『社会保障・税一体改革成案』をベースに、改革の目的とその内容を概観した上で、改革案への評価を指摘する。

1.なぜ「社会保障と税の一体改革」が必要なのか

まず、「社会保障と税の一体改革」の目的をみていこう。改革の目的として、「財政の健全化」と「社会保障の機能強化」があげられる(*1)。一見すると、この二つの目的は相反するようにもみえる。この点について、改革の方向性を定めた社会保障改革に関する有識者検討会議(*2)(2010年11月~12月)は、「社会保障強化だけが追求され財政健全化が後回しにされるならば、社会保障制度もまた遠からず機能停止する。しかし、財政健全化のみを目的とする改革で社会保障の質が犠牲になれば、社会の活力を引き出すことはできず、財政健全化が目指す持続可能な日本そのものが実現しない。…この二つを同時に達成するしか、それぞれの目標を実現する道はないのである」と述べている(*3)。以下では、「財政の健全化」と「社会保障の機能強化」の双方を実現しなくてはならない日本の現状を概観していこう。

(1)財政の健全化

まず、一般政府――国、地方、社会保障基金を合わせたもの――の債務残高(対GDP比)をみると、日本では1990年代半ばから大きく上昇し、2011年には204%にのぼる見込みである。日本の債務残高は主要先進国の中で最悪の水準となっている(*4)(図表1)。

図表1 一般政府の債務残高(対GDP比)

図表1

債務残高の中で大きな比重を占めているのは国の借金である。国の公債残高は2011年度末には668兆円(当初予算ベース)、対GDP比で138%にのぼる見込みだ。国の借金を国民一人当たりに換算すると、約524万円の借金を抱えていることになる。

このような巨額の借金を抱えるため、元利払いの負担が大きくなっている。2011年度の一般会計歳出に占める国債費(利払い費や債務償還費など)は21.5兆円にのぼり、一般会計歳出の23.3%を占めている(図表2)。国債費は、社会保障関係費(28.7兆円、31.1%)に次いで大きな歳出費目になっている。

図表2 一般会計歳出の構成の変化

図表2

もっとも、668兆円にも及ぶ公債残高からすれば、21.5兆円程度の国債費はまだ低い水準ともいえる。この程度の国債費で収まっているのは、長期金利が低いためだ。2010年度の国債金利(加重平均)は1.29%と、比較可能な1975年度以降で最低水準となっている(*5)

しかし、もし長期金利が上昇すれば、公債残高が膨大なだけに国債費は一気に高まる。国債費が増えれば、その支払いは最優先なので社会保障関係費を含む他の歳出費目を削減しなければならない。また、増税もせざるをえないだろう。低所得者の生活はもちろんのこと、国民生活全体が大きな打撃を受けることになるだろう。

既にこうした状況は、財政破綻で苦しむギリシャなどでみられる。無論、ギリシャと日本では同列に論じられない点がある。例えば、ギリシャでは海外勢の国債保有割合が高いのに対して、日本では家計部門に多額の金融資産残高があり、日本国債の約95%は国内の金融機関が保有している。また、日本においては、今のところ企業部門の資金需要が弱いので、国債市場には安定的に資金が流入していて国債の国内消化には問題がないようにみえる。

しかし、市場が、いつ何をきっかけに反応するかは誰にも予測できない。国債が保有されている前提には、国債管理策や財政規律への信認がある。その信認が失われれば、国内資金が国債に向かわなくなることもありうる。また、高齢化によって貯蓄率が低下したり、企業部門の資金需要が回復すれば、長期金利の上昇につながる可能性もある。巨額の財政赤字には、大きなリスクが潜んでいることを認識する必要がある。

国の公債残高と社会保障費の関係

ところで社会保障費は、上記でみてきた国の公債残高とどのように関連しているのであろうか。この点、社会保障費がどのような財源で賄われているのかをみていこう。

まず、2011年度予算において年金・医療・介護など社会保障制度を通じて国民に提供される給付額の合計(社会保障給付費)は、107.8兆円(対GDP比22.3%)と見込まれている(*6)(図表3)。そして、107.8兆円の社会保障給付費は、保険料収入、公費負担、資産収入等といった財源で賄われる。

上記財源のうち、公債残高との関係で問題になるのは「公費負担」である。なぜなら、公費負担は、税収のみならず公債金収入(借金)によっても賄われているからだ。つまり、社会保障給付費が増加すれば、公費負担の増加を通じて、国の借金が膨らむ構造になっている。

具体的には、2011年度の社会保障給付費を賄う公費負担(39.4兆円)は、「国による負担」(29.3兆円)と「地方による負担」(10.1兆円)(*7)に分かれる。このうち「国による負担」の大部分は一般会計歳出の「社会保障関係費」(28.7兆円、2011年度予算ベース)から支出されている。

一方、2011年度一般会計予算の歳入面をみると、「公債金収入」が「租税及び印紙収入」を上回り、歳入全体の5割弱も占めている(前掲、図表3)。いわば、社会保障関係費の5割弱が借金で賄われるとみなすことができる。他の歳出費目も、公債金収入で相当程度賄われている点は同様であるが、社会保障関係費は一般会計歳出の中で31%を占め、最大の費目になっている。このため、財政赤字への影響も大きい。

また、「地方による負担」(10.1兆円)も、その一部には借金が充当されているとみなせる。2011年度の「地方財政計画(当初)」をみると、都道府県や市町村の歳入全体(82.5兆円)のうち地方債が13.9%を占めている(*8)。また、国の一般会計における地方交付金も、「地方による負担」の一部を賄っている。

図表3 社会保障給付費と一般会計予算の関係

図表3

(2)社会保障の機能強化

以上のように、社会保障給付費の増加によって国・地方の借金が増える構造がある。仮に「財政の健全化」だけを目的にするのであれば、社会保障給付費を削減するという手段も考えられるであろう。しかし、日本では「社会保障の機能強化」も必要になっている。

というのも、日本の65歳以上人口は2010年現在2,929万人(総人口に占める割合は23.1%)であるが、2020年には1.2倍増えて3,590万人(同29.2%)になると予測されている(*9)。高齢化の進展によって、現行の社会保障制度を維持するだけでも、社会保障関係費は毎年約1兆円の規模で増大していく見込みである(*10)

一方、日本の社会保障給付費を主要先進国と比較すると、日本の水準は決して高くなく、「低福祉」となっている。具体的には、2007年の社会支出(対GDP比)をみると、日本は米国に次いで低い水準にある(図表4)。しかも、日本の高齢化率は2割を超え、主要先進国の中で最も高い。一般に、高齢化率が高い国は社会支出も高くなる傾向がみられるが、日本はそうなっていない。日本の社会保障費は、高齢化率との対比からみても「低福祉」となっている。

日本が「低福祉」でやってこられたのは、家族と企業が国の社会保障制度を補う役割を果たしてきたためであろう。例えば日本では、身内に失業者や要介護者がいれば、相当程度、家族で支えてきた。また、日本の企業は、欧米と違って不況期においてもできる限り正規労働者の雇用を守り、住宅等の福利厚生を提供してきた。

しかし、単身世帯や高齢夫婦のみ世帯が増加するなど、家族による助け合いが難しくなってきている。また、企業は国際競争にさらされて、固定費を抑えるために低賃金で雇用保障の乏しい非正規労働者を増やしている。家族と企業のセーフティネットが弱まる中で、社会保障を強化していく必要がある。

図表4 社会支出(注1)(対GDP比)の国際比較(2007年)

図表4

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