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高精細な映像サービスをより身近に

次世代の映像符号化技術HEVCとは

2012年10月16日 情報通信研究部 植竹 宏往

最近、電車の中でスマートフォンなどの端末を使って、動画を見ている人を見かけることが多くなった。多くの場合、Youtubeなどの動画サイトを利用して、インターネット経由で動画を視聴しているのではないだろうか。このようにモバイル端末あるいはPCを使用して、映像をインターネットで見る、という映像視聴スタイルの普及はインターネットの利用動向にも現れている。米Cisco社によると、モバイルデータのトラフィックについて、2011年から2016年までの5年間で18倍になると予想されており、2016年には個人利用のトラフィックの中で、映像コンテンツの占める割合が86%を超えると予測されている(*1)。

一方で、テレビ業界の動向はどうか。10月2日より開催されていた最先端IT・エレクトロニクス総合展であるCEATEC JAPAN 2012(*2)においてはフルHDサイズ(1920×1080)の4倍の解像度を有する4Kテレビが注目を浴びていた。ultra-high definition TV(7680×4320, 3840×2160)としてNHKが中心になって推進してきた次世代のテレビ規格が8月に標準化されたこと(*3)と相俟って、超高精細な映像への期待の高まりを感じた。

今まで以上にインターネットを経由した映像視聴スタイルが普及し、また、コンテンツの高精細化が進むと、映像によるネットワーク帯域の圧迫は、より深刻なものとなる。このような背景もあり、近年、映像をより効率良く圧縮する新しい映像符号化技術HEVC(High Efficiency Video Coding)の標準化作業が行われてきた。以下では、2013年初頭にも標準化予定のHEVC映像符号化技術について概説する。

映像符号化とは映像品質の劣化を抑えつつ、映像の持つ空間的、時間的な類似性や冗長性に着目することで情報量を圧縮して、0/1の符号で表す技術である。この映像符号化技術の代表的なものにMPEG-2やH.264/AVCがある。MPEG-2は1995年に世界標準となり、現在ではDVDや地上デジタル放送で採用されている。一方、H.264/AVCは2003年に世界標準化され、符号化効率はMPEG-2の2倍程度で、Blu-ray Discやワンセグ放送で利用されている。HEVCはこのH.264/AVCの後継として、その2倍の符号化効率を達成することを目標に2010年から世界中のメーカーや研究機関によって標準化作業が行われている(*4)。技術的には以下に示す特長を有し、条件次第ではあるが、目標とする符号化効率を達成している。

  • 映像を同じコマや前後のコマから予測するブロックや符号化を行うブロックのサイズを多様にし、また、同じコマから映像を予測する際の予測方向を多くする(H.264/AVCが最大9方向に対し、HEVCでは最大35方向)ことで予測の精度を向上。
  • RD(Rate-Distortion)最適化と呼ばれる、発生符号量(Rate)を抑えつつ、画質(Distortion)を最良にするアルゴリズムを採用し、発生符号量と画質のトレードオフを最適化。
  • 以上により演算量が増大してしまうため、並列処理の適用を容易にする機能を採用。

さて、このようにして高い符号化効率を誇り、標準化間近なHEVCであるが、いくつかの課題がある。技術的に最も大きな課題は、演算量である。HEVCでは高い符号化効率を達成するため、従来技術よりも符号化、復号化の演算量が増大しており、当面はリアルタイム性が必要な機器ではHEVCの特長を活かしきることは難しいだろう。また、普及に向けての課題もある。日本では2012年3月末を持って、アナログ放送が完全に地上デジタル放送に置き換えられたばかりであり、放送局の地上デジタル放送対応やテレビの買い替えがやっと一段落したところである。このため放送機器やテレビのHEVC対応にはしばらく時間を要することになると予想される。まずは、映像データの効率的な圧縮を目的として、個人向け映像配信サービスなどで、HEVCが採用されるといったことから普及に向けた動きが始まるのではないだろうか。

HEVCが普及することで、高精細映像のやり取りや利用が容易になり、高臨場感や高精細さを活用した新たな映像サービスが、エンターテイメントにとどまらず、様々な業界において展開されると予想される。誰でも高精細な映像を気軽に楽しめ、様々な映像サービスの恩恵を受けられる社会をHEVCという一つの新しい技術が切り拓くことに期待している。

  1. *1Ciscoホワイトペーパー
  2. *2CEATEC JAPAN 2012
  3. *3Recommendation ITU-R BT.2020
  4. *4Joint Collaborative Team on Video Coding
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