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「制約社員」には多様な形態による正規雇用への転換も

望まれる不本意非正規就業者の正規雇用化

2013年1月15日 社会政策コンサルティング部 小曽根 由実

2012年末の民主党から自民党への政権交代により、社会保障政策との関連を含めた労働・雇用政策の新たな展開が期待されている。実際、自民党の政権公約(*1)では、たとえば「若者の就職応援」という項目の下、「健全な競争を通じて人材が適切に配置される『適材適所社会』を目指す」ために「年長フリーター等(25歳~39歳)を重点とした正規雇用化の支援」等を行う旨が記されている。

ここで正規雇用という言葉が出ている。また、フリーターは新聞・テレビ等のメディアでは非正規雇用の代表格ともされ、「非正規雇用の労働者が雇用者全体の3割を超えた」との報道も聞こえてくる。ではいったい「正規雇用」と「非正規雇用」では何が異なるのか。月給制か時給制か、仕事内容がどちらかというと高度か単純か、退職金や社会保険があるかないか、様々な見方があるだろう。しかしながら、法律上でもそれは明確に定義されているわけではなく、一般には正規雇用と非正規雇用の違いは原則として「雇用契約上の雇用期間の定めの有無」のみである。

では、なぜ非正規雇用の労働者の増加が問題視されるのか。周知の通り、労働者側からみた場合、雇用期間に定めがあるがゆえに雇用が不安定であり、また、正規雇用の労働者と比較して処遇が低く、生活に不安を抱えている者が少なくない点が挙げられる。もちろん、自ら望んで非正規雇用という働き方を選択する者もいるし、その働き方で満足しているのであれば周りがそれをとやかく言うことではないと考える。しかしながら一方で、特に就職氷河期世代をはじめとする「本当は正社員になりたいが、なれない」非正規雇用の労働者に対しては、何かしらの対策を打つ必要があることに異論はないだろう。

なお、2012年3月に厚生労働省が発表した、非正規雇用問題に横断的に取り組むための「望ましい働き方ビジョン(*2)」では、「『正社員として働ける会社がなかった』などの消極的な理由を挙げる」非正規雇用の労働者のことを「不本意非正規就業者」と表している。これまで非正規雇用の労働者は一括りにされて論じられることが多い点に個人的には違和感を抱いていたため、この言葉が用いられるようになったのは非常に画期的であると思う。

厚生労働省は政権交代が起こる直前の2012年12月21日に、「非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会」報告書を発表している(*3)。ここでは施策の基本的な視点の一つとして「正規雇用・非正規雇用という雇用形態にかかわらず、将来に夢や希望を持ちながら安心して生活を送ることができるような収入を確保できるよう、能力開発機会を提供し、キャリアアップを支援(特にフリーター等不本意非正規に焦点)」する旨が記されている。また、「フリーター等の不本意非正規については、可能な限り正規雇用への転換(企業内又は転職)を促進していくことが必要」としており、自民党の政権公約の方向性とも一致している。

企業内における正規雇用への転換制度は、2011年度に当社が厚生労働省から委託を受けて実施した「『多様な形態による正社員』推進事業(*4、*5)」のヒアリング調査においても、非正規雇用から正規雇用への段階的なキャリアアップを図るために非常に有効な制度として機能していることが明らかになっている。

たとえば、ある企業では、勤務地が限定される正規雇用の区分を新たに設けたことにより、労働者本人の事情のために転勤ができずに非正規雇用のままであった者が、勤務地限定の正規雇用へと転換する事例がみられている。結果として、本人は職務範囲の拡大により能力を向上させることができたとともに雇用が安定化した。また、当該企業にとっては、優秀な人材の確保・定着を図ることが可能となった。

別の企業では、「契約社員→勤務地と職種の限定がある正社員→勤務地の限定がある正社員→全国転勤型正社員」の転換ルートを整備したが、これは労働者のキャリア形成支援やモチベーションの向上、優秀な人材の確保を企図したものだという。当社が実施したその他の調査からは、特に中小企業から「非正規雇用の期間は、正規雇用の労働者として採用するかどうかを見極めるための期間である」との声も聞かれている。

すなわち、不本意非正規就業者のみならず、育児や介護をはじめとする様々な事情を持つ労働者(最近では「制約社員」とも言われる)に対して、職種・勤務地・労働時間等を限定した働き方である「多様な形態による正社員」への転換をも含めた各種正規雇用への転換制度の拡大・新規導入支援を行うことは、企業側にも優秀な人材の確保・定着や労働者のモチベーション向上等をもたらす非常に有意義な政策といえる。ただし、この際には正規雇用・非正規雇用、あるいは多様な形態による正社員といった雇用区分に関わらず、どのような働き方であっても時間当たり給与水準等の処遇の均等・均衡が図られるべきであることを忘れてはならない。今後、先にみた自民党の政権公約に代表されるような状況が早急に実現されることが望まれる。

なお、厚生労働省では現在、非正規雇用の労働者の正規雇用化に向けた施策を進めている。当社は本年度、同省からの委託を受け、企業における正規雇用への転換制度等の導入実態をアンケート調査により明らかにするとともに、制度運用事例をヒアリング調査により収集した。また、本委託事業では併せて、これらの結果を紹介するなど非正規雇用から正規雇用へのキャリアアップに役立てていただくためのホームページ「非正規雇用労働者のキャリアアップガイド(http://www.hiseikikoyou.jp/」を2月中に開設する予定である。ぜひ参考にしていただきたい。

  1. *1自民党:公約関連
  2. *2厚生労働省「望ましい働き方ビジョン」
  3. *3厚生労働省「非正規雇用労働者の能力開発抜本強化に関する検討会」報告書
  4. *4厚生労働省「多様な形態による正社員」に関する研究会報告書
  5. *5ここでいう「多様な形態による正社員」とは、無期労働契約でありながら、職種・勤務地・労働時間等が限定的な正社員のことをいう。具体的には、担当する業務が限られている、転勤がない/近隣地域内に限られている、短時間勤務である、等。

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