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データヘルス計画 ―データに基づく保健事業の実現を目指して

2013年12月24日 公共ビジネス第1部 篠原 正紀

大きなインパクトがある「データヘルス計画」

2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」に、すべての健康保険組合が2014年度に「データヘルス計画」を策定し、2015年度から計画に基づいた保健事業に取り組むことが盛り込まれた。これは健康保険組合のみならず、それぞれの事業主にとっても大きなインパクトがある国の動きであることから、本コラムで紹介することとしたい。

データヘルスとは、国民の健康寿命の延伸を目的とし、医療保険者が保有する特定健康診査・特定保健指導のデータ(健診データ)や診療報酬明細書(レセプト)のデータ(医療データ)に基づいて、加入者の健康増進や疾病予防、重症化予防のための保健事業を行うものである。

特定健康診査・特定保健指導、いわゆるメタボ健診は40歳以上を対象としているが、データヘルスでは対象とする年齢や疾患を幅広くとらえている。また、保健事業の範囲も幅広く、目標設定や効果検証にデータを用い、PDCAサイクルを回すことに特徴がある。従来から先進的な医療保険者等で取り組まれてきたものであるが、いよいよ国全体で取り組むこと、事業主と連携して推進することも大きな特徴である。

データヘルスの実現に向けて

健康寿命は要介護状態にならずに自立した生活ができる期間を意味する。健康寿命を延伸するためには要介護の要因となる心臓病、脳卒中やがん、認知症、大腿骨折などになるべくならないようにすることが重要である。

人は誰もが健康で、生き生きと暮らしたいと願っている。事業主は、従業員が健康で仕事をし、能力を発揮してほしいと願っている。健康保険組合等の医療保険者は、適正な財政のもと、従業員(とその家族)に対する保険給付や保健事業等のさまざまな支援を行う。また、医療技術の進歩や高齢化により我が国の国民医療費は毎年1兆円ペースで増えている。データヘルスで健康増進が実現されれば、企業の生産性が上がるとともに、医療費適正化等の財政面での効果も期待される。このように、健康であることは皆の共通の願いである。その願いを実現する意味からも、データヘルスに寄せられる期待は大きい。

しかし、データヘルスの実現は容易ではない。健診データは検査結果や問診等、受診時点のその人の健康状態を表し、医療データは疾病や治療等、その人の医療受診結果である。これらのデータの相関を分析して生活習慣病など予防できる疾病についての傾向を把握し、これから発症しそうな人の予防(発症予防)や発症した人がこれ以上悪くならないような予防(重症化予防)に活かすには、相応のデータ分析能力が必要となる。特に、レセプトはデータの形式が独特で縦にレコードが並んでおり、そのままだと使い慣れた表計算ソフトで扱えない。また、1人の患者に複数ついている傷病名から、どの傷病名を集計時に特定するかの作業も必要である。このような作業は専門業者に外部委託するか、専用の分析ソフトウェアが必要になる。また、健診・医療データは極めて個人的なものであり、医療保険者と事業主の役割分担やデータのセキュリティ等、多くの課題を一つずつクリアしていく必要もある。

現時点では、多くの健康保険組合がデータ分析にかかる人材不足などの課題を抱えている。また、分析したデータをどのように保健事業へ活用したらよいのかという、ノウハウの確立も今後の課題である。具体的な方法については今後の国のガイドライン等に記載される予定だが、ここでは、当社が開発した医療・健康情報分析ソフト「healthage(へルサージュ)」を用いて行ったデータ分析の一例を紹介する。

カギを握る「重点対象者の絞り込み」と「企業特性に応じた保健事業計画」

ある健康保険組合では、加入者全体の2%の人(重症化した人)が医療費全体の40%を占めていた。さらに、その2%の人がかかっている疾病は、主に(1)心臓病、脳卒中などの循環器疾患、(2)糖尿病合併症や慢性腎臓病(人工透析に至るもの)、(3)がん(悪性新生物)、(4)血友病や国が指定する難病に大別された。この中で予防可能なのは(1)、(2)と(3)の一部であり、生活習慣に起因するものである。しかも、毎年継続して同等の医療費がかかるケースが多い。もし予防できればその人の健康寿命を延ばせるとともに、「年間数百万円の医療費 × 将来にわたる健康保険組合の在籍年数」分の財政効果がある。

データヘルスの一つの方法としては、これら重症化した人の過去の状況から傾向を掴み、同じ傾向を持つ将来重症化しそうな人に対して重点的に保健指導を行うことが挙げられる。また、もっと前段階で、将来発症しそうな人に対して行う保健指導も想定される。

加入者全員に対する保健指導は困難であるが、重点対象者を数%に絞り込むことで、保健指導を始めることができる。このように、データ分析により「見える化」が行われ、進むべき道がわかる。

これだけでなく、健診受診率の向上や禁煙指導など、比較的取り組みやすいこともデータヘルスの範囲となる。いずれにしても、目的別にデータを用いた目標設定や効果検証を行うことが重要である。その際には、業種や年齢構成等の要因を想定しながら、それぞれの医療保険者の特性に合わせた計画にする必要がある。また、直接の医療費だけでなく、従業員が病気で働けなくなる場合の損失や周囲に対する二次的損失も考慮しなければならない。

2014年はデータに基づく保健事業から「健康経営」の起点に

もちろん、データが万能という訳ではない。一口に健診・医療データを用いた分析といっても、コンピュータのみで答えを見つけることは難しい。そもそも、人間の身体の状態を限られたデータで分析する以上、解釈の奥が深いことは当然であり、出てきた結果を読み解く力を養ったり、医学的知見を身に着けていく努力をしていくことも大切である。

また、分析結果に基づく保健事業を展開しても、その効果が表れるまでには数年以上かかる場合も多いといわれる。だからこそ、中間目標(未治療者数の減少等)を設けてPDCAを回していくことが大切であり、関係者が目的を共有のうえ、まず始めて、長く継続していくことが重要と考える。

データヘルスが実を結ぶには、しばらく時間がかかるかも知れない。しかし、間もなく始まるデータヘルス計画が健康保険組合や事業主の背中を押すことは間違いない。2014年は、データに基づいて健康と経営を関連づける、「健康経営」においても起点になる年となるだろう。

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