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多死社会における看取りの選択肢

2014年7月15日 社会政策コンサルティング部 田中 秀明

この先の四半世紀で、日本は「多死社会」という一つの大きな波を迎える。それに伴って必要となる看取りの場をどのように整備するかという問題は、医療と介護のサービス提供の枠組み全体にも関わるテーマとして、昨今、政策的な問題意識の高まりを見せている。

人生の最期を迎える場所として、戦後まもなくは8割の国民が自宅で亡くなっていたが、現在では8割近い人が病院で亡くなる時代となった(*1)。しかし、この先の多死社会の到来を前にして、在宅や介護施設といった生活の場において看取られる人の数が増加していくことが想定される。それと同時に、病院死が当たり前と考える現代の価値観も、徐々に変化していく可能性がある。

2025年問題と多死社会

多死社会という概念に必ずしも標準的な定義が存在するわけではないが、本稿においては「少子高齢化の長期的局面の中で、年間の死亡者数がピークに差しかかる中期的な一時代」を多死社会と考える。

多死社会のピークは、25年後の2039年前後と想定される。その年の死亡者数は約167万人となり、2014年対比ではおよそ3割(約38万人)増と予測されている(*2)。その中心は団塊の世代であり、2039年という年は、戦後最大の出生数を記録した1949年出生世代がちょうど90歳に達する時期にあたる。

それに先立って、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者へと差しかかる2025年は、医療・介護需要の急速な膨張が予測され、「2025年問題」としてクローズアップされているが、それは同時に多死社会へと本格的に足を踏み入れるタイミングとも捉えることができる。確実に訪れるそうした将来を見据えて、高齢者を看取る場の整備が求められる。

介護施設での看取りの現状

では現状、高齢者はどこで最期を迎えているのか。厚生労働省「人口動態調査」によれば、2012年に亡くなった高齢者(65歳以上)の死亡場所としては、病院・診療所が約8割と大半を占めている状況にある。それ以外では、自宅が11.8%、老人ホーム(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム等)が5.3%、介護老人保健施設が2.0%などと続くが、いずれも少数にとどまっている。

厚生労働省は、増加する看取りの受け皿として、医療機関の病床増ではなく、在宅や介護施設等での看取りを増やすことで対応していく方針を明確にしている。そして近年の診療報酬・介護報酬改定においては、在宅や介護施設での看取りの実施を報酬面で評価するようになっている。

それでは、看取りの受け皿として期待される介護施設の看取りの実態はどのようになっているのであろうか。

当社が2013年度に実施した看取りの実態に関する調査結果(*3)では、過去1年間の看取り実績がない介護施設が多く存在する状況が明らかとなっている。具体的には、施設類型別に看取り実績をもたない施設の割合をみると、グループホームでは69.9%、有料老人ホーム等の特定施設で44.2%、介護老人保健施設で35.7%、特別養護老人ホームで23.1%にのぼる。

看取り実績のない施設の比率が高いのは、入所者の看取り希望とは関係なく、多くの施設が看取りを実施しない方針をとっていることがあげられる。そして状態が悪化した入所者は、本人・家族の同意のもとで医療機関に入院させているものと考えられる。その背景には、介護施設という性格上、医療機器の設備が十分でないなど、終末期の入所者に対して必要な医療を提供することに限界があることや、現行の職員配置では看取りに必要なケアを十分に行うことが困難である、といった点が挙げられる。

看取り観の多様化が新たな看取り場所を作り出す

前述のように、現状の経営判断として看取りを行わない方針をとる介護施設に対して、報酬上のインセンティブによって看取りの実施を促すことにも一定の限界があるだろう。また、多くの高齢者とその家族が、医療機関での治療とそれに続く看取りをこの先も望むのであれば、在宅や介護施設での看取り件数を今後大幅に増加させることは難しいと考えられる。

家族側の立場から考えるならば、大切な人に少しでも長生きをしてもらうために最善を尽くしたいという思いから、治療という選択肢を諦めない心理は十分に理解できる。一方でその背後には、看取られる高齢者自身が、人生の最期をどこでどのように迎えたいかという希望を、必ずしも明確には持ち合わせていない状況があるのではないか。

今後求められるのは、国民自身が看取りの多様な選択肢について、具体的なイメージと理解を深めていくことであろう。とりわけ、治療の場である医療機関と比較して、生活の場である介護施設や在宅においては、どこまでの治療や処置が可能となり、どのような看取りの形がありえるのかを示していくことは重要である。そうした議論が活発に行われ、国民全体の看取りに対する考え方や希望が多様化したとき、介護施設等においても利用者のニーズに対応した看取りを実施していくという流れが強まっていくのではないだろうか。


  1. *1厚生労働省「人口動態調査」
  2. *2国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」
  3. *3みずほ情報総研株式会社「長期療養高齢者の看取りの実態に関する横断調査事業 報告書(平成25年度老人保健健康増進等事業)」、2014年3月
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