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地方創生を占う“CRSV”への取り組み

2015年5月26日 経営・ITコンサルティング部 鈴木 道範

2014年5月、日本創生会議の人口減少問題分科会は「2040年に若年女性の減少により全国の896市区町村が消滅の危機に直面する」との試算結果を公表し、消滅可能性都市の多さが社会に衝撃を与えた。

この動きを踏まえ、安倍政権は地方の人口減少問題を主要政策課題として位置づけ、2014年9月、「まち・ひと・しごと創生本部」を創設、11月に地方創生関連2法案「まち・ひと・しごと創生法」「地域再生法の一部を改正する法律」を可決・成立させた。そして2014年12月には、政府は地方創生に向けて「長期ビジョン」(2060年に1億人程度の人口を確保する中長期展望を提示)と「総合戦略」(2015から5か年の政策目標と施策を策定)を閣議決定するとともに、全国の都道府県及び市町村に対して「地方人口ビジョン・地方版総合戦略」の策定について通知している。

2015年度には、総額1兆円を超える規模の「まち・ひと・しごと創生事業」が予算化され、その取り組みはすでに始まっている。

このような状況のなか、当社では、中小企業庁より「平成26年度中小企業のCRSVへの先進的取組に関する調査」を受託し、全国100の地域課題解決事業に取り組んでいる中小企業・小規模事業者及びNPO法人を対象にヒアリングを行った。

調査の名称にあるCRSV(Creating and Realizing Shared Value)とは、米国の経営学者であるマイケル・ポーターが提唱した「CSV:Creating Shared Value(*)」という考え方を踏まえて、中小企業庁が「2014年版中小企業白書」において中小企業の経営概念として提示したものである。同調査においては、企業の社会性概念の変遷を整理するとともに、このCRSVを地域志向の新しい社会性概念として検討した。その内容は「2015年版中小企業白書」(2015年4月公表)に、以下のように掲載されている。

「地域に根ざした中小企業・小規模事業者でなければ解決困難な地域課題解決への取組であると同時に、その取組により、地域課題を解決する中小企業・小規模事業者、その地域課題解決の恩恵を受ける地域住民が互いに支え合うことにより生まれる好循環に向けた取組」

CRSVに基づく地域課題解決の取り組みでは、事業による売上や収益が不可欠であり、「社会性」と「事業性」の両立が前提となる。このCRSVは、「地方における安定した雇用を創出する」「地方への新しい人の流れをつくる」という観点から前述の国の総合戦略における大きなヒントになるはずだ。

前述の調査では、「地域課題を解決する中小企業・NPO法人 100の取組」としてまとめ、その結果を踏まえて、地域課題解決事業成功のポイントを以下のように整理した。

  1. (1)動機:地域課題を必ず解決したいという強い想いとリーダーシップ
  2. (2)商品・サービスの魅力:地域課題を解決するニーズ主導型の商品・サービスの提供
  3. (3)価値の創造:地域独自の資源の活用、企画から生産、販売までの工程で価値を創造
  4. (4)ネットワーク構築:地域課題を解決する緩やかな連携体“ネットワーク組織”の組成

以降で、いくつかの取り組み事例を紹介したいと思う。

「株式会社シブヤ・コーポレーション」(金沢市、1985年4月創業)の社長は、自身で中山間地域等で暮らす高齢者を対象に聞き取りを実施し、店舗が遠く買い物に困っている方が多いことを確認した。同社では、スーパーからの販売委託を受けて、2013年5月より小松市内の中山間地域などで移動スーパー事業を始め、同事業は軌道に乗りつつある。また、移動スーパー事業の取り組みにより、同社の認知度・信用力が向上し、本業の移動スーパー用車両架装事業や車両リース・レンタル事業にも好影響を及ぼしている。

「有限会社デジタルメディア企画」(長崎市、2006年8月創業)の社長は、地元テレビ局で映像の社会実験を行った経験から、介護におけるタッチパネルでの情報提供が可能と考えていた。そこで、創業時に市内のインキュベーション施設(D-FLAG)に入居し、大学や病院との連携によりユーザー本位のタッチパネル式の認知機能向上システムを開発、販売を始めた。同社の商品は、離島や過疎集落の住民に対しても利用が進みつつあり、県外にも販路を拡大している。

「NPO法人Homedoor(大阪市、2011年10月法人化)の代表は、14歳の時のボランティア活動を通してホームレス問題を知り、ホームレス支援活動に携わるようになった。現在では「誰もが何度だってやり直せる社会をつくる」という視点で、「ホームレス問題の啓発」「ホームレス・生活保護からの出口づくり」「ホームレス状態の入口封じ」の3つを柱に活動を行っている。同法人では生活面だけでなく、就労の支援として、ホームレス等の社会的弱者が習得していることの多い、自転車修理技術などの技能を活かして、シェアサイクル事業「HUBchari(ハブチャリ)」、不要ビニール傘の修理・販売事業 「HUBgasa(ハブガサ)」といった事業も展開している。

地域課題解決事業は、地域住民の幸せに直結する「しごと創生」の重要な要素であることは間違いなく、中小企業・小規模事業者、NPO法人等によるチャレンジが欠かせない。しかし、これらの事業を通じた「しごと創生」の推進には、「人材:経営人材、現場人材、専門支援人材」「顧客開拓:課題発掘、商品・サービスの開発、事業化」「資金調達:資金調達システム、既存資源の有効活用、信用力の確保、助成金・補助金の活用」といった課題もある。こうした課題を解決していくためには、都道府県や市町村、産業関連団体等が、地域の事情を考慮したうえで連携して対応していかなければならない。

人口減少問題は、戦後の高度成長を通じた大都市への人口集中により、すでに地方圏では顕在化しており、従来から国土政策や地域産業政策レベルでの産業の地方分散などが図られてきたが、地方圏からの転出には歯止めがかかっていない。冒頭で紹介したとおり、今後は、全国の都道府県や市町村で、「地方人口ビジョン・地方版総合戦略」の策定を進めていくことになる。地方創生が大きな政策課題になった今、地方の関係者には、連携しながら知恵と実行力を発揮するととともに“困難を乗り切る覚悟”が求められている。


  • *企業の事業を通じて社会的な課題を解決することから生まれる「社会価値」と「企業価値」を両立させようとする経営フレームワークである
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