ページの先頭です

銀行業界で活用が始まったIBMワトソン

2015年6月9日 共通インフラ事業部 第1部長 櫻井 正明

2011年に米国のクイズ番組で人間の回答者に勝ち、一躍有名になったコンピュータであるIBM社ワトソンについて、銀行業界での活用が広がっており、<みずほ>をはじめメガバンク各行に導入されるとの新聞記事が出ている。このワトソンについて、先日、筆者も遅れ馳せながらIBM社のセミナーで話を聞き、新しい仕組みに興味を持ったので、その特徴や活用領域をご紹介したい。

自然言語を理解・学習するワトソン

ワトソンは、質問応答型のコンピュータシステムである。但し、動作はプログラム言語ではなく、英語や日本語などの自然言語を理解・学習し、知識を蓄積する。ワトソンに質問をすると、蓄えた大量な知識を超高速で検索し、あいまいな質問でもキーワードから自分で推論して、確度が高いと思う答えを約2~3秒で回答するという人工知能のようなコンピュータである。ワトソンは専門知識の読み込みや正答率を上げるためのトレーニングに数ヶ月を要するが、自然言語を使うためプログラム開発は不要である。このように自然言語を使用できること、また知識を蓄えてより確かな回答を推論することがまさに「人間」の行動と同じであり、コンピュータとして画期的な仕組みであると思う。

ワトソンの活用領域について、銀行では自然言語の応答機能を活用して、コールセンターでの顧客応対や顧客へのアドバイスなどの業務にワトソンを使用する予定である。この業務に合う知識を教育するため、専門のオペレーター数名による顧客応対パターンの入力や過去の応対ログの読み込みなどを行い、質問の正解率が80%に達するまで数ヶ月間かけてトレーニングする。このシステムは、最初は正解率が低いが、何度も使い込んで適切な答えを覚えて行くうちに、この質問ならこの答えという推論の精度が上がり、正解率が増していく仕組みになっている。

拡大する活用領域、新たなビジネスの広がりも

自然言語で知識を蓄積し、質問に応答する形で活用できれば、ワトソンの活用領域は特に業種を選ばない。数字の計算や統計などは現行のコンピュータが優れていると思うが、銀行業務における資産管理、大量データ分析、意思決定支援などにはワトソンが向いていると言われている。また保険業務では最適な保険商品の提案や年金、投資、ライフプランなど、医療業務では過去の事例に基づいた治療方法の提案など、またビッグデータ処理では非構造化データ検索などでも利用可能であり、ワトソンの利用業務は幅広く拡大し続けている。

ワトソンの利用にはIT部門を必要とせず(導入にはIBM社SEが必要だが)、企業の事務・業務部門で導入可能である。IT部門の開発スケジュールやコストに左右されない代わりに長期間のトレーニングが必要となり、専門知識を詰め込むトレーニングのコストと期間が導入のネックとなる。このネックを解消するためには、同じ業界の他社が詰め込んだ知識をそのまま買って来て少しカスタマイズして使うことが考えられるが、IBM社のセミナー講師に聞いたところ、現時点ではワトソン自体の利用業務拡大に主眼があり、知識を事前に組み込んだワトソンの提供はまだ行われていない様子である。事前に専門知識を蓄えたワトソンは専門業務に即利用ができる極めて魅力的な商品になるため、いろいろな業務に応じた知識が揃えられれば、新しいビジネスになるのではないかと考える。

ワトソンのような質問応答型のコンピュータシステムは、他のベンダーには製品が存在しないため、IBM社の独占技術である。ワトソンの利用範囲は極めて広いため、多くの業界で利用が広がっていくと思われるが、他社との競争がないことにより、IBM社のワトソン事業が将来に渡り継続するかどうかは不明である。仕組みとしては将来性が高いと思うので、米国のベンチャーなど競合他社が現れて市場が活性化し、今後の利用が活発になっていくことを期待したい。

ページの先頭へ