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持続可能な開発目標(SDGs)の“功罪”

2015年10月20日 環境エネルギー第2部 荻田 竜史

2015年9月25日、国連サミットにて「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs)が全会一致で採択された*1。2030年までに、世界中の貧困と飢餓を終わらせ、国内的・国際的不平等を是正し、地球環境の永続的保全を確保するという壮大な目標である。

今後15年間の目標の“功罪”を現時点で云々するのはもちろん時期尚早であるが、SDGsが現したその姿には、以下のような懸念と可能性が見出される。

SDGsの“肥大化”―「貧困削減」と「環境」の合流の結果として

SDGsへの懸念は、それがあまりに包括的・膨大・詳細な目標群であるため、その達成に向けた取り組みを触発する“象徴性”が薄いのではないかという点にある。

SDGsは17の大目標(Goals)と169の小目標(Targets)から成る。しかし、SDGsの前身であり、同じく国連サミットが2000年に採択した「ミレニアム宣言」に基づき設定された「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals: MDGs)は、大目標が8、小目標が21(当初は18)と遥かにコンパクトであった。

SDGsが“肥大”したのは、途上国の貧困削減と開発を主眼としたMDGsの継承と、1992年の地球サミット*2からの流れを汲む環境分野での取り組みとが、合流したからである*3。環境分野では、地球サミットで採択された行動計画「アジェンダ21」にせよ、そのフォローアップのため設置された国連持続可能な開発委員会の作る文書にせよ、大部・詳細なものが多い。加えて、MDGsが“先進国クラブ”たる経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)が1996年に策定した「国際開発目標」を基礎としていたのに対し、SDGsはより幅広い国連加盟国が参加した総会傘下の公開作業部会*4で市民社会とも協議しつつ検討され、参加者の提言を積極的に(あまり取捨選択せず)取り入れたこともあろう。

SDGsの“普遍化”―開発援助も「全ての国が参加する枠組み」へ

また、上記のミレニアム宣言は、グローバリゼーションの恩恵やコストが不均等に配分される中で途上国等が特別な困難に直面しているとの認識を示し、途上国のニーズに対応する地球レベルの政策や手段の必要性を訴えた*5。そうした志向の一つの象徴としてMDGsでは、特に途上国で深刻な乳幼児の死亡、妊産婦の健康、感染症の蔓延という保健分野の課題―すなわち途上国の人々の“命”に直接関わる問題に、8つの大目標のうち3つもが割かれていた。

一方、先月の国連決議は、SDGsが先進国にも途上国にも同様に適用される「普遍的な目標」であることを強調している*6。そして保健分野は、SDGsで1つの大目標にまとめられ、小目標では、途上国で深刻な課題のみならず、先進国から途上国へ拡がりつつある非感染症・生活習慣病など広範な課題が扱われるようになった*7。重点の在処を象徴するような構成は弱まっている。

先進国に残された責務をSDGsは喚起できるか?

SDGsが、MDGsでは1つの大目標しかなかった環境分野への拡がりを強化し、“痒い所に手が届く”が如き包括的で詳細な目標群であること自体は良い。先進国が途上国を援助するという色彩が薄まることも、新興国が台頭する中で世界のGDPに占めるDAC参加国の割合が2000年の75%から2014年には60%に下がり*8、先進国の財政も厳しさを増していることを考えれば、必然的な変化なのだろう。環境分野の中心的な討議の場である気候変動交渉において、先進国と途上国を区別する枠組みから「全ての国が参加する枠組み」への転換が進んでいることの影響もあるかも知れない*9

しかしMDGsは、2001年の「9.11」や2008年のリーマン・ショックといった“開発援助どころではない”大事件がもたらした激動も超えて、15年間にわたり曲がりなりにも規範的影響力を維持してきた。それは、新千年紀を迎える機に作られ、「国際開発目標」という素っ気ない名称も変えて「ミレニアム」を冠したという外面だけに因るわけではなく、ある意味ナイーブと言えるほどシンプルな目標群だったことが大きいだろう。だからこそSDGsも、検討開始当初は「簡潔で、分かりやすい、少数の」目標群となることが求められていたのである*10

そして、MDGsが重きを置いた保健、初等教育、貧困に関する途上国と先進国との格差は、それなりに縮小したとはいえ依然大きい。サブサハラ・アフリカでは今でも、100人の新生児のうち8.6人は5歳の誕生日を迎えられず(先進国では0.6人)、5人に1人は小学校に入れず(先進国では25人に1人)、1日1.25ドル未満で生活する人々は41%に上る(世界平均は12%)*11。途上国に住む人類同胞に対する先進国の責務は引き続き重大であり、そのことが先進国の納税者に理解され同意されるには「分かりやすい」(easy to communicate)象徴性を持った目標が必要である。そのような目標にSDGsがなり得ているか、幾ばくかの懸念を禁じ得ない。

「グローバル・ジャスティス」と「クライメイト・ジャスティス」の融合という可能性

先進国(の人民)に途上国(の人民)を援助する義務があるのかという問題は、「グローバル・ジャスティス」論という分野で理論が発展している。一方、気候変動分野では、これまでCO2を多く排出してきた先進国が、残された排出余地を今後経済成長していく途上国に優先的に与え(自身は排出削減に努め)、また気候変動による害を最も被る貧困国に対し被害軽減を支援すべきであるという「クライメイト・ジャスティス」が唱えられている。「貧困削減」と「環境」を合流させたSDGsには、上述のような懸念の一方で、こうした両分野での正義論を融合させる可能性も見ることができる。開発協力が外交政策の最も重要な手段の一つと認識され*12、また気候変動交渉が国益をかけた熾烈な戦場であることも現実だろう。それでも、経済成長、貧困、環境保全という絡み合う諸問題が“正義”の問題であることを世界が改めて認識し、思考を発展させ取り組みを強化していく契機にSDGsがなるとすれば、素晴らしいことである。


  1. *1正確には、採択されたのはSDGsを含む決議文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development)。
  2. *2正式名称は国連環境開発会議(United Nations Conference on Environment and Development: UNCED)。今日の環境分野における主要な国際協定である国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)や生物多様性条約(CBD)が署名された。
  3. *3SDGsは元々、地球サミット20周年の2012年に開かれた国連持続可能な開発会議(United Nations Conference on Sustainable Development)で策定が議論されたもので、同時期に検討されていたポスト2015(ポストMDGs)開発アジェンダと整合的であるべきとされたことから、2つの流れがSDGsの名称の下に統合された。
  4. *4公開作業部会では、30の議席が5地域(アフリカ、南米・カリブ、アジア太平洋、西欧・北米・豪州等、東欧)に5~7ずつ割り当てられ、また、多くの議席が2~4か国で共有されていた(日本も、アジア太平洋に割り当てられた7議席のうち1つをイラン、ネパールと共有した)ので、合計70か国が参加していた。
  5. *5United Nations, “United Nations Millennium Declaration”, Paragraph 5.
  6. *6United Nations, “Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development”, Paragraph 5.
  7. *7SDGsの大目標3「あらゆる年齢の全ての人の健康的な生活の保障とウェルビーイングの促進」の下の小目標で扱われている課題は次の通り。(1)妊産婦の死亡(2)乳幼児の死亡(3)感染症(4)非感染症と心の健康(5)薬物とアルコール(6)交通事故(7)性と生殖(8)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(9)土壌・大気・水質汚染(以下略)。
  8. *8International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2015により計算。 2000年時点のDAC参加国(欧州連合を除く)は22か国、2014年時点は28か国。
  9. *9気候変動交渉では、1997年の第3回UNFCCC締約国会合(COP 3)で採択された「京都議定書」により先進国のみに温室効果ガスの排出削減目標を課す枠組みが作られたが、それは2010年から変質を始め、2015年11月末からパリで開かれるCOP 21で2020年以降の「全ての国が参加する新たな法的枠組み」が決められる見通しである。本欄2015年7月3日付「気候変動交渉の振り返りとCOP 21後の展望」を参照。
  10. *10SDGsの議論を始めた国連持続可能な開発会議(2012年)の成果文書「我々の求める未来」(The future we want)のパラグラフ 247を参照。
  11. *11United Nations, The Millennium Development Goals Report 2015による2015年予測値。1日1.25ドル未満で生活する人口について先進国のデータはない。なお、ドルで表現される貧困ラインに関しては、「貨幣を媒介としてしか豊かさを手に入れることのできない生活の形式の中に人びとが投げ込まれる」ことにより統計上の「貧困」層が創り出され、統計上の「所得」を増大させる政策により彼ら・彼女らは「測定のできる幸福とひきかえに測定のできない幸福の諸次元を失う可能性の方が大きい」という原理的批判もある(見田宗介『現代社会の理論』)。
  12. *12日本政府「開発協力大綱」(2015年2月10日閣議決定)。
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