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ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査結果 シリーズコラム(4)

「ジョブ型労働者」の仕事満足

2015年9月18日 経営・ITコンサルティング部 加藤 修

異動の可能性によるタイプ分け

厚生労働省のモデル就業規則では、人事異動に関し次のような条文例が示されている(*1)

(人事異動)

  1. 第8条会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
  2. 2会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
  3. 3前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

これを参考に就業規則を作成している企業は多い。しかし、実際には「就業する場所も従事する業務も変更を命じられることなどまずないだろう」と思っている労働者が、かなり多いのではないか。

ジョブ型雇用とは、職務、労働時間、勤務地が原則として限定される雇用のタイプとされ、それらが原則無限定な「入社」方式でのメンバーシップ型雇用と対比される(*2)。今回の調査(*3)では、事業所異動と職種異動について、(制度上ではなく)実質的に可能性があるかどうかを、「ある/ない/わからない」の3択で答えてもらう設問を用意した(*4)

その回答結果から、図表1のとおり事業所異動の可能性と職種異動の可能性の有無を組み合わせてメンバーシップ型、事業所限定型、職種限定型、ジョブ型にタイプ分けし(労働時間の限定可能性の設問は、今回は用意していなかった)、タイプ別の分析を行った。

なお、以下では冗長を避けるため、それぞれの型をM型、A(Area)型、O(Occupation)型、J型と略記する。A型およびO型は、近年「多様な正社員」として注目されている雇用のタイプに相当し、重要な検討テーマではあるが、今回の分析は主としてJ型を対象に、M型との対比を中心として行った。

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図表1 限定内容によるタイプ分け
  職種異動の可能性
ある ない
事業所間異動の可能性 ある メンバーシップ型
【M型】
職種限定型
【O型】
ない 事業所限定型
【A型】
ジョブ型
【J型】
  • いずれかに「わからない」の回答のあるものは、単純化のためタイプから外した。

ジョブ型労働者は女性、中小企業、一般社員クラスに多い

まず、労働者の属性別に4タイプの構成がどうなっているかを見てみよう(図表2)。全体では、J型が41.0%と最も多く、M型が32.6%でこれに続く。大卒労働者の4割は、実質的にはジョブ型だということである。

J型は、女性の半分近くを占め、また、年代が上になるほど増えていく。企業規模別にみると、規模の大きさにほぼ比例してM型が増え、J型が減っている。たしかに、規模が小さければ異動機会も少ないだろう。採用も必要のつど、営業担当者、経理事務職等を限定して行うのが、中小企業によく見られるやり方である。

役職別では、一般社員・担当クラスと部長・次長・課長でJ型の方がM型より多く、その他ではM型がJ型よりも多い。図表は省略するが、一般社員・担当クラスでも20代ではM型の方がやや多く、年代が上がるにつれJ型が増える傾向が確認された。一般社員・担当クラスでJ型が多いのは、その層における中高年の存在が影響している。


図表2 属性別雇用タイプ構成
図2

ジョブ型労働者であっても、意識は必ずしもジョブ型ではない

同じ調査に基づく本シリーズコラムでは、ここまで2回、労働者の職業人意識に着目し、(1)○○業界の人間であるという「ジョブ(業界)型」意識、(2)○○職の人間であるという「ジョブ(職種)型」意識、(3)○○会社の社員であるという「メンバーシップ(就社)型」意識、(4)会社員・団体職員であるという「とにかく社会人(就社)型」意識、のいずれが強いかに基づく分析を行ってきた(*5)(以下、このうち(1)を「意識J型」、(3)を「意識M型」と略記)。

そこで、M型、J型等のタイプ別に職業人意識の構成割合を見てみた(図表3)。たしかに、M型では他のタイプに比べれば意識M型の割合が大きく、意識J型の割合は小さい。同様に、J型では他のタイプに比べれば意識J型の割合が大きく、意識M型の割合は小さい。それでも、J型のうち意識J型の割合自体は33.6%と、決して大きいとはいえない。

このように、J型であっても、必ずしも自らのアイデンティティ(*6)をジョブの中に見出しているわけではなさそうである。J型の中には、必ずしも積極的にそうなっているわけではない層も少なからず含まれていることがうかがえる。


図表3 タイプ別職業人意識構成
図3

ジョブ型労働者は職務限定であること自体に満足している?

次に、M型、J型等のタイプ別に、仕事満足度、継続勤務意向およびそれらに影響を及ぼすと考えられる諸要素への満足度を比べてみた(図表4)。縦軸は、各項目に対する5段階の回答に5~1の点数を付し、回答者の平均点を求めたものである*7

左端の仕事満足度と継続勤務意向の2つについては、M型とJ型との間にそれほど大きな差はない。しかし、その右側に並んだ諸要素を見ると、「担当する仕事が面白い」の差が小さく、「仕事と家庭生活その他とのバランスがとれる」でJ型の方が高い以外は、全体にM型が高く、J型が低い*8

このように、要素別の満足度には差がありながら、総合的な仕事満足度や継続勤務意向にあまり差がないことを、どのように解釈すればよいだろうか。1つの仮説として、J型は職務内容や勤務地が自分の希望に合っていれば、一定の満足を得て定着できるということがいえるかもしれない。より厳密な分析や追加的な調査なしに軽々に結論づけられないが、最近よく聞く若者の地元志向などと考え併せると、この仮説はそんなに的を外していないのではないだろうか。


図表4 タイプ別職業人意識構成
図4

ジョブ型雇用の可能性と課題

ここまで見てきたとおり、中堅・中小企業を中心として、J型が少なからぬ割合で存在している。これらの労働者は、必ずしも積極的な意思をもってJ型になったわけではないにせよ、総合的な仕事満足はM型と大きく違わなかった。少なくともすでに実質的にジョブ型となっている労働者を見る限り、ジョブ型雇用の拡大にはさほど大きな障害はないように見える。

しかしながら、そうした仕事満足が経営的に意味のあるものなのか、さらには、国の人的資源のありようとして好ましいものなのかは、別に問われる必要があるだろう。「好きな地元で、気に入った仕事ができればそれなりに満足」という労働者には、無限定な組織貢献を求めることはできず、その誘因として設計された伝統的人事諸施策も経済合理性を失い、または有効に機能しない可能性がある。そうした人々がかなりの割合を占める組織を前提とした持続的成長の実現は、経営にとって大きなチャレンジとなる。同様に、国全体としてみたときも、国際競争力を維持しうるだけの人的資源の蓄積をどのように図っていくかが、重要テーマとなってくるのではないか。


  1. *1「モデル就業規則」平成25年3月、厚生労働省労働基準局監督課
  2. *2日本労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏が『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中央公論新社、2013)をはじめ著書や講演等で指摘し、広く知られるようになった考え方である。
  3. *3みずほ情報総研「ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査」(2015年6月)
  4. *4事業所異動については、「通勤可能な他事業所への異動」と「転居が必要な他事業所への異動」とに分けて可能性の有無を聞いている。理論的には、前者はないが後者はある(たとえば県内に他に事業所はないが他県にはある)ことも考えられるが、単純化のためここでは前者の有無により区分した。同様に、職種異動については、「今と関連・類似職種への異動」と「今と違う職種への異動」とに分けて可能性の有無を聞いているが、前者の有無により区分した。
  5. *5ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査結果シリーズコラム(1)「働く『わたし』は何者か」(2015.7.2)、(2)「根強い『メンバーシップ型』志向」(2015.7.10)
  6. *6上記のシリーズコラム(1)「働く『わたし』は何者か」では、ジョブ(職種)型意識を1つの職業アイデンティティとして分析している。
  7. *7「当てはまる」に5点、「どちらかというと当てはまる」に4点、どちらかともいえない」に3点、「どちらかというと当てはまらない」に2点、「当てはまらない」に1点を付している。
  8. *8図表2で見たとおり、M型は大企業に多くJ型は中小企業に多いことが当然に影響していると考えられ、純粋な雇用タイプの違いによるものではないことに注意が必要である。

関連情報

ニュースリリース

2015年6月10日
ジョブ型・メンバーシップ型に関する労働者の意識調査結果を発表
― 仕事への満足は「ジョブ(職種)型」が最も高く、人事担当者は「ジョブ(職種)型」人材の採用を重視 ―

調査・研究レポート

2015年6月
ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査
― 労働者、企業人事担当者のアンケート調査から ―

【連載】ジョブ型・メンバーシップ型に関する意識調査結果 シリーズコラム(3)

2015年8月19日
人事担当者の理想と現実
― 管理職は「ジョブ型」か、「メンバーシップ型」か―

関連コラム

2015年6月1日
職務限定正社員の行く末について考える
― 日本型雇用慣行になじませるには ―
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