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IoT関連ビジネスの成功に向けて

IoTの活用とビジネス創出に求められる2つの視点

2015年9月9日 経営・ITコンサルティング部 河野 浩二

スマートフォンやタブレット端末のほか、各種小型センサー等の登場により、一昔前と比べて格段に多様かつ多数の機器(モノ)がインターネットに接続されるようになっている。2020年には、ネットワークに接続されている機器(モノ)の数が世界の人口をはるかに超える500億個にまで拡大するとの予測もある。こうした状況は「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」と表現され、特に最近世間の高い注目を集めるようになった。IoTは、デバイスや端末、ソフトウェアなどをはじめとする従来の情報通信市場をより一層拡大するだけでなく、製造、運輸、物流、小売、金融、医療、行政等のさまざまな分野で新たな製品やサービスを創出し、個人の生活・行動から企業活動に至るまで、我々の社会にかつてなかったほどの大きな変化を引き起こすと考えられている。(*1)

IoTの進展は、経済面で数兆ドルもの規模の関連市場を生み出すという予測もあるが、このような潮流をいち早く捉えるべく、具体的なIoT関連ビジネスを立ち上げる動きが活発化している。本コラムでは、IoT関連ビジネスの発信地であるシリコンバレーで2015年7月に開催されたIoT INFLUENCERS SUMMIT -Business case for the internet of things-(以下、「IoT SUMMIT」と表記)に参加した筆者の視点をもとに、そこで紹介されたIoTの活用事例やその可能性に対するディスカッションの内容等を踏まえて、IoTの活用や今後のビジネス創出に求められる視点を考察する。

IoT技術の進展とIoT関連ビジネスへの注目

IoTの活用によるIoT関連ビジネスが急速に広がり始めた背景には、以下のような変化がある。

  1. (1)センサーの小型化および省エネ化、低価格化により、産業機器やコンシューマー機器等、さまざまなモノにセンサーを搭載することがより容易に可能となった。
  2. (2)通信コストの低下のほか、屋内外での高速データ通信の実現、IPv6によるIPアドレス空間の飛躍的増加など、通信環境基盤の改善・発展が進展した。
  3. (3)チップ性能をはじめクラウドコンピューティング等の進展によるコンピューティング性能の大幅な向上、IoT向けのソフトウェアプラットフォームの登場等、IoTを実現するため技術基盤が整った。

こうした技術的な環境の進展に伴って、技術面から見たIoTの実現性は確実に高まっており、その結果、最近ではIoTに関する議論の重心が、その新たな活用によるIoT関連ビジネスへとシフトしつつある。前掲のIoT SUMMITの講演では、「いつIoT関連ビジネスを始めるべきか?」という問いに対して、“Short Answer is ‘NOW’ !”(日本でいう“今でしょ”)という答えが示され、IoTの活用が遠い未来ではなく、今現在のリアルなビジネスのテーマであることが強く感じられた。ビジネスという観点からは、IoTの活用によってどのような付加価値を生み出し、それをどのようにマネタイズ(収益化)するかが大きなポイントとなるが、もちろん、IoTの分野においてすでに模範解答が存在する訳ではないし、鳴り物入りで登場したIoT機器やサービスも、そのすべてが持続的に成功している訳でもない。しかしながら、IoTがビジネス面で大きな可能性を有していることは間違いないという認識から、多くの企業が、その方法やアイディアを模索し、試行しているのである。

以下には、IoT SUMMITで紹介されたIoTの活用事例やその可能性についてのディスカッションを参考に、IoTの活用とIoT関連ビジネス創出に求められる2つの視点を示す。

<視点1> 従来の機能に捉われない柔軟な発想

IoT関連ビジネスの創出において重要な第1の視点は、IoTを通じた機器の高機能化を図る際に、従来機器の機能に“捉われすぎない”ことである。既存の機器の高機能化という路線で新しいIoTビジネスを考えてしまうと、IoT機器は既存のモノの延長線上に置かれ、ユーザーにとっての付加価値が限定されてしまう。これでは、新たなモノとしてユーザーにとって新鮮かつ魅力的な体験を提供したり、革新的な利便性を実現したりすることは難しい。

たとえば、ニューヨーク市のLinkNYC計画は、市内の公衆電話をLinkと呼ばれる無料高速Wi-Fiスポットに置き換える取り組みである。公共通信インフラの整備という観点から見れば、これは特に目新しい取り組みではない。しかし、LinkNYC計画のWi-Fiスポット(Link)では、タッチパネルディスプレイが導入され、Wi-Fiスポット機能と同時に、インターネットに接続されたキオスク端末機能とデジタルサイネージ(映像による広告・案内装置)機能が導入されている(*2)。これによりLinkは、公共通信サービス機能に加えて、行政サービス機能、さらには広告ディスプレイ機能までを備えた、既存の公衆電話とは全く異なるサービスインフラへと刷新されるのである。さらに、インターネットに接続されたオンライン広告ディスプレイとしての機能を持つことにより、ニューヨーク市はLinkによる広告収入を予定している。この事例は、「公共通信インフラとしての公衆電話」という既存のモノの機能に捉われすぎることなく、IoTと柔軟な発想によって既存のモノの機能を刷新し、新しい付加価値の創出と収益化を結びつけた好事例の一つといえるだろう。

<視点2> モノとサービスをつなぐIoT

IoT関連ビジネスの創出において重要な第2の視点は、モノとサービス(=ビジネス)の融合である。IoT関連ビジネスでは、IoTを通じて新たな機能を持つモノが提供されると同時に、その製品は、ユーザーに対してサービスを提供する際の接点となる。ユーザーにとっての付加価値は、モノ自体に限らず、そのモノを通じて利用するサービスにより創出されることになる。モノとサービスの融合の例としては、スマートフォンと通信・アプリケーションサービスが典型的であるが、今後は、こうしたモノとサービスが融合したビジネスが、スマートフォンに限らず様々なモノを通じて進展するだろう。

こうした変化は、消費者向け製品だけではなく、B to B製品にも及ぶと考えられる。B to B向けIoTの代名詞となっているGEによるIndustrial Internet(*3)の事例では、製品導入後の各種サービスが付加価値を生み出し、モノに関するビジネスとモノに付帯するサービスの双方が発展するような仕組み作りが進められている。今後、IoTの発展により、モノとサービスの融合は不可避となるだろう。製品を提供するものづくり企業では、ものづくりの強みを活かしつつ、モノとサービスを組み合わせた新たなビジネスを、サービスを提供する企業では、モノを通じた新たなサービスの可能性を模索していくことが求められる(*4)

サービスが生み出すIoTの付加価値

IoTを活用した新しい機器が登場すると、モノの高機能さや機器の目新しさに注目しがちである。しかし、本稿で示した2つの視点をあらためて振り返ると、IoTの活用やビジネスにおける付加価値は、モノ自体というよりも、それを活用したサービスにより生み出されるといえる。モノがインターネットと接続され、高機能化したのはよいが、それを通じたサービスにより、これまでにないどのような付加価値を継続的に提供できるのか― IoTの活用やビジネス創出を考えるうえで、こうした問いが今まさに問われようとしている。


  1. *1IoT(Internet of Things)の動向については、みずほ産業調査 Vol.51 「IoT(Internet of Things)の現状と展望 ―IoTと人工知能に関する調査を踏まえて―」(みずほ情報総研・みずほ銀行、2015年8月)を参照されたい。本稿でも、同調査レポートと同じく、IoTを“モノ、ヒト、サービスの全てを包括したインターネット化による価値創造”と捉えている。
  2. *2LinkNYCの詳細は、LinkNYCホームページ(http://www.link.nyc/)に詳しい。LinkNYC の仕組みは、センサー等による状態の把握や制御等を企図しているわけではないが、公衆電話として存在してきたモノがインターネットに繋がることにより、新たなサービスインフラとして付加価値を創造していることからIoTの事例と捉えることができる。
  3. *3 Marco Annunziata & Peter C. Evans, “The Industrial Internet@Work”
  4. *4サムスン電子 共同CEOのYoon氏は、「2015 International CES」において、「2020年までに、すべてのサムスン製ハードウエアがIoT対応になっているだろう」と発言している。

関連情報

調査・研究レポート

2015年8月
IoT(Internet of Things)の現状と展望
― IoT と人工知能に関する調査を踏まえて ―
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