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IFA2015で見えてきたスマート家電が変革する家庭向けサービスの新たなビジネスモデル

2015年10月23日 経営・ITコンサルティング部 紀伊 智顕

近年、IoT(Internet of Things)の活用による成長が期待されつつも伸び悩んでいたスマート家電市場は、スマートフォンやタブレットとの連携による視認性・操作性の向上、BLE、ZigBee、Z-Waveなど安価かつ低電力な通信環境の普及などにより、今後、急速な拡大が見込まれている。 調査会社IHS社によれば、2014年に100万台以下だった大型白物スマート家電市場(洗濯乾燥機、冷蔵庫、食洗機、エアコン、大型調理家電)は、今後5年で急速に成長し、2020年には2億台超になると予測されている。さらに、コーヒーマシン、ロボット掃除機、オーブンレンジ、炊飯器、空気清浄機、電動歯ブラシといった小型白物スマート家電を加えると、2020年には全世界で7億台に達すると見込まれている(*1)

2015年9月4日~9日までドイツ・ベルリンにて開催され、筆者も参加した世界最大級の家電見本市IFA2015(国際コンシューマ・エレクトロニクス展)において、世界の主要家電メーカーは今後の急成長が期待されるスマート家電を強く打ち出していた(*2)。本稿では、IFA2015の動向を踏まえて、ユーザーに便利・欲しいと思わせるスマート家電の機能とは何か、スマート家電市場を勝ち抜くために必要な取り組みとは何かを考察する。


図表1 世界の主要家電メーカーのスマート家電、IoTへの取り組み
図1

  • *IFA2015展示より。(1)LG(韓国)、(2)サムスン(韓国)、(3)Skyworth(中国)、(4)Electrolux(スウェーデン)、(5)パナソニック(日本)、(6)BOSCH(ドイツ)

ユーザーに便利・欲しいと思わせる機能とは何か

IFA2015で展示されていたスマート家電は、単にスマートフォンで電源のオン・オフや温度調整などのリモートコントロールを行えるだけではない。

たとえばサムスンの最新洗濯機は、コットン、デニム、色物など素材ごとに温度、洗剤量、回転数が最適化された洗濯コースのほか、水や電力をなるべく使わないSuper Eco Washコースなどを、洗濯機本体のパネルより見やすく使いやすいスマートフォンアプリから簡単に設定できることをPRしていた(本製品は英国で発売中。1700ポンド≒約32万円)(図表2 (7)参照)。

また、LGおよびBOSCHは、ドアおよび本体にカメラが設置され、外出先から食材のストック状況を画像で確認できる機能を備えた冷蔵庫を展示し、主婦が大きな関心を示していた(図2 (8)(9)参照)。

さらに、パナソニックは、Better Living Tomorrowという2018~20年を想定した「憧れのくらし」の提案ブースにおいて、顔認識技術により肌の状態をチェックするとともに、ショッピング、アウトドアなどの外出目的に合わせた仮想メイクイメージを提示してくれるインタラクティブミラーを出展し、人気を集めていた(図2 (10)参照)。

また、ドイツでは、再生可能エネルギーの比率が約26%を占めており、2000年当時13.94ユーロセント/kWだった電気料金が、再生可能エネルギー促進の税金の上乗せに伴い、2015年現在で28.81ユーロセント/kW(約40円)と2倍以上に高騰している(日本は約24円)。このような状況の中で、安価に導入可能な省エネソリューションが多数紹介されていた。スマートサーモスタット大手のtado(*3)は、249ユーロ(約3万4千円)の初期投資でスマートフォンのGPSから居住者の位置を把握して、外出や帰宅に合わせて暖房温度を自動調整し、一般家庭の年間暖房代平均額の2,100ユーロ(約28万円)から500ユーロ(約7万円)を削減可能としている。このサービスは現在欧州のみで提供されているが、今後は米国、アジアにも事業展開される予定である。


図表2 スマート家電が提供する便利・快適な機能例
図2


図表3 スマートフォンと連動して自動で暖房制御を行うtadoのソリューション
図3

スマート家電市場を勝ち抜くために必要な取り組みとは何か

筆者がIFA2015の視察を通して得た知見を踏まえて、スマート家電に関わる我が国の製造・サービス事業者が、今後拡大するスマート家電市場を勝ち抜くために必要な取り組みについて、以下に示す。

1. 簡単なセットアップかつ明確なメリットの提示

スマートホーム向けプラットフォームを提供するSmart Things社(*4)のBrian Winter氏は、スマート家電がユーザーに受け入れられるために重要な点を以下のように挙げている。

  • 多くのメーカー製品とコミュニケーション可能なオープンプラットフォームであること。
  • テレビゲームと同様、15分程度で簡単にセッティングできること。
  • ユーザーがスマート家電をほしくなる明確なメリットを提供すること(例:朝7時起床であれば、睡眠センサー情報を基に6~7時の間で眠りが浅くなったタイミングで音楽を流す、あるいはテレビをつけて起こしてくれる、同時に自動でコーヒーを入れてくれる等)。

2. わかりやすく操作しやすいインターフェースとレコメンド機能の提供

数年前までは、白物家電がインターネットにつながったとしても、どのように操作するのか、あるいはどのように情報を得るのかが大きな課題となっていたが、2014年のスマートフォン出荷台数は13億台/年(*5)、タブレットは2億台/年(*6)に上り、2020年の欧州・北米におけるスマートフォン普及率は75%に達すると予測されている(*7)ことから、画面タッチや音声認識など、既存アプリと同様、簡単にスマート家電を操作できる環境が整いつつある。また今後は、画像認識や人工知能等の活用により、「明日から夏休み明けで学校なのに弁当用食材のストックがない」などの警告をSNSに配信してくれるレコメンド機能など、新たな付加価値の提供が既存製品との差別化のポイントとなるだろう。

3. さまざまなメーカーの製品がつながるオープンプラットフォームの提供

普通の家庭にはさまざまなメーカーの製品が存在するため、それを意識せずにコントロールできるオープンプラットフォームの提供が不可欠である。現在の主なプラットフォームは図表4のとおりだが、通信キャリアSK Telecomがサムスン、LGの二大メーカーのプラットフォームと相互接続する戦略を打ち出してきており、今後はプラットフォームを巡る戦いがさらに激化すると予想される。


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図表4 スマート家電の主要プラットフォーム
社名 プラットフォーム 対応分野・製品 連携先
BOSCH HOME CONNECT 冷蔵庫、洗濯機、乾燥機、食洗機、オーブン、コーヒーマシン BSH
サムスン SmartThings 空調、照明、オーディオ、鍵&セキュリティなど GE、Jawbone、Philips等40社超
SK Telecom Smart [Home] 空調、調理、照明、鍵&セキュリティなど サムスン、LG、リンナイほか30社超
Apple HomeKit 空調、照明、鍵&セキュリティなど Lutro、Insteon、Elgatoなど

4. 家庭向けサービスの新たなビジネスモデルの構築

今後もセンサーや通信コスト等の低減が進むことにより、身の回りのあらゆる家電にIoTが実装される動きが加速すると想定されるが、この動きは単にユーザーに対する利便性・安全性向上に留まるものではない。稼働状況や利用状況をモニタリングすることにより、故障する前に予防的なメンテナンスを行う、さらにはライフスタイルを勘案した自動制御により利用コストを削減することも可能となるであろう。

また、家電関連のビジネスモデルも現在のような製品の売り切りだけではなく、ユーザーにどのような価値を提供できるかによって料金を回収するモデルが登場する可能性が高い。たとえば生協やアマゾンなどの食料品宅配サービス事業者が、利用者にカメラ付き冷蔵庫を月1,000円程度でレンタルし、事業者は利用者の属性(中高生がいる=弁当用食材、共働き=簡単料理食材など)やスケジュール(家族の誕生日や運動会など)、天気(台風や大雨など)のほか、牛乳や生鮮食品など食材の在庫状況から、適切な時期に利用者のスマートフォンにレシピ付きで必要な食材をレコメンドするようなビジネスモデルが登場・拡大することも考えられる。すでにハイアールは、オフィス向け冷凍食品販売サービス「off ice」(*8)にて冷凍庫を無償提供し、高級アイス等の高付加価値商品の販売で収益を挙げるビジネスモデルを開発したほか、家庭用にも冷蔵庫本体に液晶パネルを搭載した「DIGI」(*9)を発表し、ディスプレイへのコンテンツ提供による課金モデルも視野に入れている。

スマート家電に関わる我が国の製造・サービス事業者は、単に家電をインターネットにつないでユーザーの利便性向上等を図るだけではなく、今までにない新たな価値を提供できるのか(例:必要な時期に必要な食材をレコメンドもしくは自動発注してくれる冷蔵庫)、その場合に最も適した課金体系は何か(例:冷蔵庫本体は無料とし、低額の基本サービス料金+食材費+配送費で収益を得る)などの点を戦略的に検討し、家庭向けサービスの新たなビジネスモデルを構築することが求められている。

350億ユーロ(約4兆8千億円)と世界最大の市場規模を誇る欧州白物家電市場の中で、我が国の製造・サービス事業者が新たなビジネスモデルに基づいて提供するサービスが、欧米、中韓などの強力なライバル企業に伍して一定の存在感を得られるかどうか。これが、今後IoTの活用によりBtoC分野において最も成長すると期待されるスマート家電市場で生き残れるかどうかの鍵となるだろう。


  1. *1http://press.ihs.com/press-release/technology/growth-smart-connected-home-appliance-market-expected-accelerate-2015-onwar
  2. *2IFA2015での主要家電メーカーのキャッチフレーズ:Smart things(サムスン)、Home connect(BOSCH)、Smart Home(パナソニック、LG、SK telecom、Haier、Skyworth、Galanz、Vestel、Telekom Deutschland、Bauknecht、Liebherr)、My Smart Home(Electrolux)、Miele@Home(Miele)
  3. *3https://www.tado.com/en/
  4. *42014年サムスンに買収された米国ベンチャー。http://www.smartthings.com/
  5. *5http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS25407215
  6. *6http://www.gartner.com/newsroom/id/2875017
  7. *7http://www.gsma.com/newsroom/press-release/smartphones-account-two-thirds-worlds-mobile-market-2020/
  8. *8http://www.off-ice.jp/
  9. *9http://haier.co.jp/asia/20150602/1120.html

関連情報

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2015年8月
IoT(Internet of Things)の現状と展望
― IoT と人工知能に関する調査を踏まえて ―

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