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「緑の気候基金」は途上国の課題解決に貢献できるか

気候変動分野における途上国支援の新たな潮流

2015年8月13日 環境エネルギー第2部 大田 草佑

1. はじめに

今年5月、「緑の気候基金(Green Climate Fund)」という気候変動対策支援のための新たな多国間基金に対して、日本として15億ドル(約1875億円*1)を拠出することが国会で承認された*2。中国主導の国際金融機関であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を見送り、その是非が国内で話題になる中での出来事であったが、この「緑の気候基金」への資金拠出については、日本であまり知られていない。また、そもそも「緑の気候基金」について知る人もほとんどいないであろう。

「緑の気候基金」は、2010年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第16回締約国会議(COP16)で設立が決まった、途上国の気候変動対策を支援する多国間基金である。本稿では、日本が15億ドルという巨額の資金拠出を行うこの「緑の気候基金」とは、いかなる存在なのか、また日本がどのような役割を果たすことができるかについて、これまでの気候変動分野における先進国による途上国支援の課題を踏まえて、見ていきたい。

2. これまでの途上国への気候変動対策支援と課題

気候変動問題における国際交渉では、これまで長期間かけて温室効果ガスを排出し続けてきた先進国が責任を持って対処すべきだという途上国側の意見と、今後温室効果ガスの大幅な排出増が見込まれる途上国も一緒に対策を進めるべきだという先進国側の意見が衝突してきた。このような衝突の中で交渉を前に進めるために、先進国は途上国に対する資金や技術の支援を交渉のカードとして使ってきた。このように、これまでの気候変動分野における国際交渉は、先進国と途上国の「支援」をめぐるせめぎあいでもあったのだ。

先進国によるこれまでの支援として、古くは1994年から始まった、地球規模の環境保全のためのプロジェクトへの無償資金協力を行う「地球環境ファシリティ(GEF)」が挙げられる。その他にも京都議定書の枠組みにおいて認められた、途上国で温室効果ガスの削減プロジェクトを実施する代わりに先進国が排出権を得る「クリーン開発メカニズム(CDM)」や、世界銀行を通じて途上国の気候変動に対する支援を行う「クリーン投資基金(CIF)」等を通じた資金や技術の支援がある。

そして今、この「支援」問題に大きな新しい流れが生まれている。その中心は長期資金目標と呼ばれる、気候変動対策として2020年までに「官民合わせて年間1000億ドル」の資金を先進国から途上国に「動員(mobilize)」するという国際合意である。この国際合意達成のための重要な機関として、「緑の気候基金」が設立されることになった。これは、気候変動対策の必要性が一段と増してきたことだけでなく、これまでの先進国による支援が途上国にとって十分ではないと思われてきたことの裏返しであると考えられる。

これまでの先進国による支援の途上国側からの具体的な不満としては、以下の三点が挙げられる。第一に、資金や技術が先進国の考え方に従って拠出される点である。例えば先に述べたGEFやCIFは、先進国が運営の主導権を握っている世界銀行に事務局等が設置され、資金を管理している。中国を中心としたAIIBの設立からも分かる通り、これまでの先進国による途上国支援の仕組みに対する途上国からの反発は大きく、支援の仕組みづくりに途上国を加えていくことが重要であると考えられる。第二に、支援が途上国の民間部門の成長に波及しておらず、自立的な発展につながっていない点である。これまでの先進国から途上国への支援の中心は、先進国の公的機関や国際機関から途上国の公的機関への支援が多く、民間に資金が流れにくかった点が課題となっている*3。第三に、気候変動に脆弱な地域に対する被害の対策への支援が進んでいないという点である。例えばCDMは、温室効果ガスの削減分をクレジットとして認める仕組みであるため、「適応*4」の対策には用いることができない。このような気候変動への「適応」のための資金源として、CDMを通じて得た資金の一部用いてプロジェクトを実施する「適応基金」があるが、これは小規模なプロジェクトが大半であり気候変動への被害の対策として十分とは言えない。またCDMについては、実施地域も中国やインド等新興国や中進国が多く、島しょ国や後発途上国等の気候変動に対して脆弱な国への支援は少ない状況にある。

3. 「緑の気候基金」は途上国の不満を解消できるか?

上述のような課題に対して、新しく気候変動分野の途上国支援の柱として設立された「緑の気候基金」は、どのように運営されるのであろうか。

まず「緑の気候基金」の現状は、投融資等の具体的な金融支援の実施には至っておらず、各国からの資金拠出が表明され、当初目標の100億ドルの資金調達の見込みが立った段階である。具体的なプロジェクトやプログラムへの資金拠出に向けては、選定基準や途上国側の受け入れ態勢の整備を行っている段階にあり、COP21が開催される本年11月末までに、1号案件を組成することを目指している。

運営体制としては先進国と途上国の代表からなる理事会による意思決定を行い、独立した事務局が運営し資金管理組織(トラスティ)が具体的な資金管理を行うことになる。この理事会の途上国のメンバーには後発途上国と島しょ国の代表が入ることが明示されており、事務局も独立した透明性のある運用が求められている。ただしトラスティについては、資金管理の専門的知見を有することが必要とされており、迅速に運用を開始するために暫定的に世界銀行が資金管理を行うこととなっている。この暫定措置は3年後に見直されることになっているが、この資金管理がこれまでの先進国による支援と異なり、途上国にとって利用しやすいものになるかという点は「緑の気候基金」の成否に大きく影響するであろう。

次に途上国の民間部門への支援について見ると、「緑の気候基金」には「プライベートセクターファシリティ(PSF)」という特徴的な支援が実施されることになっている。PSFは、直接もしくは間接的に途上国の中小企業等に資金を拠出し、民間部門による温室効果ガスの削減や「適応」を支援することを目指している。さらに、PSFの資金調達においても、「緑の気候基金」の他に民間資金の動員について議論されており、今後の動向が注目される。

また「緑の気候基金」による「適応」支援や脆弱国への支援の基本方針として、資金拠出の50%は気候変動の影響への「適応」に充てることとしており、さらにその50%(全体の25%)は島しょ国や後発途上国等の脆弱国への支援に充てることを決めている。上述のPSFにおいても、脆弱国の「適応」の支援に特別な注意を払うことを目指しており、これまでの課題を踏まえた運営が検討されている。

4. 今後の展望と日本の立ち位置

以上のように、「緑の気候基金」はこれまでの気候変動分野での先進国から途上国への支援の課題に対応する形で、具体的な運用に向け議論が進んでいる。しかし、その実効性についてはまだ疑問も多く、先進国と途上国の対立を解消し、気候変動対策の推進力となるかは今後の議論によって決まってくる部分も大きい。

日本が拠出を表明した15億ドルという規模は、30億ドルの拠出を表明している米国に次いで2番目の規模であり、日本の貢献への期待も大きい。気候変動対策に資する技術を多く有する日本のメーカーや商社としても、途上国への機器輸出や投資拡大の文脈で利用していくことができないか検討することも必要であろう。また、金融機関や機関投資家も協調融資やブレンディングといった手法で途上国の成長を取り込みつつ、気候変動分野におけるビジネス展開について考える必要があるのではないだろうか。


  1. *11ドル125円換算
  2. *2衆院で2月に可決済みの「緑の気候基金への拠出及びこれに伴う措置に関する法律案」について参院本会議においても2015年5月13日に可決された。
  3. *3たとえば世界銀行グループの国際金融公社(IFC)等は民間への資金支援を実施してきているが、世界銀行グループの本体とも言える国際復興開発銀行(IBRD)や国際開発協会(IDA)が実施する政府や政府機関向けの支援に比べると資金規模は小さい。
  4. *4気候変動対策は、温室効果ガスの排出削減や森林吸収を進める「緩和」と、すでに起こりつつある海面上昇や異常気象といった気候変動影響への防止・軽減のために備える「適応」がある。
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