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福祉国家スウェーデンの高齢者住宅・介護事情

2016年1月19日 社会政策コンサルティング部 小松 紗代子

「たくさん税金を払ってきたのに、いざ介護が必要になった時には、ケア付き住宅への入居を拒否されるのか」――これは、福祉先進国スウェーデンで聞かれる国民からの不満である。スウェーデンでは、施設を住宅に近い環境にする取り組みとともに在宅へのホームヘルプや訪問看護の充実に力を入れてきた。このため、多くの高齢者は在宅での生活を継続している。ホームヘルプや訪問看護が充実しているスウェーデンでも、在宅介護の担い手として配偶者や近隣に住む親族が大きな役割を担っており、公的サービスで生活支援のすべてを賄っているわけではない。それがこのような不満につながっていると考えられる。

筆者は2015年11月にスウェーデンの高齢者住宅を視察するツアーに参加した(*1)。本稿では、最新のスウェーデンの介護事情を紹介して、最後に日本への示唆を示していく。

スウェーデンの「特別な住居」は最期を過ごす場所

スウェーデンでは1992年のエーデル改革により、高齢者の療養型施設がすべて「特別な住居」と呼ばれる住宅に移行した(*2)。介護度に応じて施設を替えることなく、できる限り在宅に近い環境で住み続けられるようにしたものだ。

「特別な住居」は、24時間介護職員が常駐しているが、賃貸法の対象となり、住宅手当の支給対象になるという点で「住宅」という位置づけである。実際、見学した「特別な住居」は、いずれもワンルームのアパートになっていてプライバシーに配慮され、十分な広さが確保されていた。各部屋には自宅から持ち込んだ家具が配置され、施設ではなく住居と呼ぶにふさわしい。また、部屋にはトイレ・シャワー・簡易キッチンが備え付けられており、充実した個室となっていて日本の施設とは大きく異なる。

一方、「特別な住居」に入居するには、自治体(市)の認定調査員によって、在宅での生活はこれ以上困難であるとの判定を受けなくてはならない。つまり、「特別な住居」は、在宅での生活が困難になった高齢者の最期の住まいとなっている。

ぎりぎりまで一般住宅で生活してから入居するため、「特別な住居」の平均居住期間は短い。ストックホルムの一部の地域を対象とした研究では、入居開始時の平均年齢は87歳、2012年時点の居住者の居住期間(亡くなるまで)の中央値は約600日、ただし入居者の2割は入居後1カ月以内に死亡するなど、居住期間の短期化が進んでいると報告されている(*3)。

なお、「特別な住居」に入居している高齢者は2012年時点で全国におよそ9万人であり、65歳以上高齢者の5%程度分にあたる。これは日本における介護3施設(特別養護老人ホーム、介護老人保険施設、介護療養型医療施設)に居住系サービス(介護付有料老人ホーム、認知症グループホームなど)を合わせた整備量(約4.5%)をやや上回る割合だ。

高齢期の住まいはバリアフリー化した一般住宅

では、多くの高齢者は、どのような住宅で暮らしているのだろうか。スウェーデンでは、自宅での生活が困難になってきた場合、住宅を改修したり、あるいはエレベーター付きの住宅などに転居するなどして、バリアフリーを確保した住宅に住む。その上で、訪問介護や生活支援などを受けながら生活していく。在宅生活を継続するために必要な住宅改修にかかる費用はすべて自治体が負担する点や、ホームヘルプ利用の個人負担が最大で月1,780クローナ(約25,600円)までに抑えられている点など、金銭的なサポートは大きい。

また、自治体の任意の事業として、介護度が軽度の高齢者向けのバリアフリーの住居として「安心住居」を整備している。これは国が示している補助金の要件(70歳以上の高齢者を入居対象とする、共同の活動スペースや食堂を整備する、等)を満たす高齢者向けの住宅で、2014年の調査では約6,600戸存在する。「安心住居」には日中のみ管理者が勤務しているが、介護職員はおらず、支援が必要な場合にはホームヘルプを利用する。入居の際に認定の必要はない。日本のサービス付き高齢者向け住宅と類似している。

一方、高齢者向けの一般マンションである「シニア住宅」は数が充実しており、2014年の調査によると、全国で約27,800戸存在する。「シニア住宅」に正式な定義はないが、一般住宅のうちバリアフリーに配慮され、入居条件が55歳以上などと制限されている物件を指す。

今後の方向性として、スウェーデン政府は、「特別な住居」を増やすのではなく、可能な限り長く自立した生活を送れる良質な住宅を増やすことを考えている。2015年10月に政府の研究チームは、「既存住宅のバリアフリーの改善」「高齢者に適応した住宅の整備(安心住居建設への助成)」「高齢者への住宅補助の増額等による移転の促進」「評価・研究開発の推進」を掲げた提案書を発表している(*4)。

行き過ぎた在宅主義に批判の声もあがっている

しかし、冒頭で示した通り、在宅重視の方針に対して、最近では批判的な声も大きくなっている。実際、視察で訪問したいずれの市でも「特別な住居」への入居待ちが数十名程度おり、自治体としては、「特別な住居」も増築していく予定であると語られていた。ホームヘルプが週に90時間以内であれば在宅介護のほうが費用負担は少ないという試算もあるが、入居希望者が増えている現状に対応するため「特別な住居」の追加整備が必要との判断であった。

国も、在宅主義が「権利か、それとも強制か」と問題提起をし、介護費用の面だけを理由として高齢者に在宅介護を強制することはできないというジレンマを抱えていた。また、介護者である親族、特に女性が就労時間を減らして介護に取り組んでいると言われており、親族に対する支援も課題にされている。

おわりに

翻って日本を考えると、2015年10月の「一億総活躍社会」の実現に向けた緊急対策のひとつとして、特別養護老人ホームをはじめとする介護施設やサービス付き高齢者向け住宅の整備を一層進めていくこととなった。

今後の日本で後期高齢者の人口が急増することを考慮すると、施設等の追加整備は必然と考える。ただし、日本の介護施設は多床室の場合もあり、個人が長期で暮らす住まいとしての環境は十分には整っていない側面もある。施設を住宅に近い環境にしていくことは、日本でも引き続き考えていかなくてはならないだろう。

一方で、スウェーデンにおいても、在宅介護と「特別な住居」への入居とのバランスは大きな課題となっている。日本では在宅介護を支える資源も十分ではないと考えられる中で、在宅介護と施設介護のバランスや、その場合の財源をどのように賄うのかなど、検討すべきことは多い。住まう本人と介護者の両方にとって望ましい住まいのあり方について議論し、必要な資源・財源を確保していくことが急務である。


  1. *1一般財団法人高齢者住宅財団が毎年開催している海外の高齢者住宅視察。
    http://www.koujuuzai.or.jp/
  2. *2視察中に政府職員が行った説明の中では、一般住宅と区別するために「施設(institution)」という表現が用いられていた。筆者は「住宅型の施設」と捉えることが実態に沿っていると考えている。
  3. *3Schon, P. et al.(2015).Rapid decrease in length of stay in institutional care for older people in Sweden between 2006 and 2012: results from a population-based study. Health & Social Care in the Community.
  4. *4http://www.sou.gov.se/bostader-for-aldre/

(参考文献)奥村芳孝「スウェーデンの高齢者ケア戦略」筒井書房

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