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次世代の火力発電としての「水素発電」の可能性

2016年6月28日 サイエンスソリューション部 仮屋 夏樹

はじめに―エネルギーとしての「水素」をめぐる動向―

近年「水素」をエネルギーとして用いる「水素社会」へ向けた取り組みが加熱している。

エネルギーとしての水素を利用する機器としては、「燃料電池」がまず挙げられるが、これに加え最近注目を集めているのが水素を火力発電の燃料として用いる「水素発電」である。現在日本では2030年頃の発電事業本格導入を目標に水素発電に向けた取り組みが開始されている。本稿ではこの「水素発電」をめぐる最近の動きについて紹介したい。

水素発電とは何か

水素発電とは前項で述べた通り、火力発電の燃料として水素を用いるものである。現在火力発電は石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃料に用いるものが主だが、水素発電には以下の特徴がある。

(1)使用時にCO2を排出しない

水素は燃焼時に水しか生成せず、CO2を排出しないという化石燃料にはない特徴がある。ただし、水素は二次エネルギーであり他のエネルギーから製造する必要があるため製造方法によっては水素製造時にCO2が排出されうる点には注意が必要である。

(2)燃料となる水素は様々なエネルギー源から製造可能

水素は、採掘が可能な地域が限定される化石燃料とは異なり、様々な地域で様々なエネルギーから製造可能であると考えられる。現在日本は化石燃料の多くを輸入に頼っているが、従来の化石燃料産出国とは異なる地域で製造した水素を燃料として利用することが出来れば、エネルギーセキュリティの向上にも寄与すると考えられる。

水素発電実現に向けた取り組みの動向

経済産業省により策定された「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(2014年6月発表、2016年3月に改訂)(*1)では水素社会実現に向けた取り組みの目標と計画が記載されており、水素発電に関しては2030年頃の発電事業本格導入が目標とされている。水素発電実施に向け、特に重要となる要素と関連した取り組みに関して以下でまとめる(*2、*3)。

(1)水素の大量製造

水素発電は燃料として大量の水素を必要とするため、大量の水素製造源が不可欠である。水素製造源として現在検討されているのが、海外の未利用エネルギーの利用である。

たとえば、川崎重工業はオーストラリアに大量に存在する褐炭(水分を多く含む低品位炭の一種。乾燥すると発火の恐れがあり直接の輸送が難しい)からの水素製造にむけた取り組みを進めている。

また、将来的には水力発電や風力発電などの再生可能エネルギーからの水素製造も構想されており、膨大なポテンシャルを持つ地域が水素製造先候補として検討されている。

(2)水素の大量輸送

水素の大量輸送にあたっては、どのような形態(キャリア)で水素を輸送するかという点も輸送効率の観点から非常に重要である。

前述の川崎重工業はオーストラリアで製造した水素を低温で液化した上でLNG同様にタンカーで国内に輸入、水素発電で利用するというサプライチェーンを構想し、実現に向けた技術開発を進めている。

また、千代田化工建設は有機化合物であるトルエンに化学反応で水素添加した有機ハイドライドを水素のキャリアとして利用し、タンカーで大量輸送、国内で必要な水素を取り出す、という技術を開発し、海外からの水素供給に向けての取り組みを進めている。

(3)水素燃焼への設備面での対応

現在火力発電の形態としては大きく「汽力発電」(燃料を燃やしてボイラーで加熱した蒸気で蒸気タービンを回転させることで発電)と、「ガスタービン発電」(燃料を燃やして得られた高温ガスでガスタービンを回転させることで発電)があるが、水素発電の形態としてはガスタービン発電が主に検討されている。

水素は天然ガスなどの他の燃料と比べて燃焼速度が速く、また火炎温度も高いために燃焼時にNOxが発生しやすいなどの特徴を持ち、燃料としての取り扱いが難しい。現在までも水素を一定程度含んだガスを燃料とした発電は実績があるものの、水素の濃度が高い燃料を用いる際には水素燃焼に対応した設備の開発が必要となる。国内では現在三菱日立パワーシステムズや川崎重工業などにより、水素対応のガスタービンの開発が進められている。

おわりに―水素発電の可能性―

水素発電及び海外からの大量の水素輸入は世界的にも例がほとんどなく、現在官民連携の下で実現に向けた取り組みが進められているという状況である。エネルギーとしての「水素」の社会での活用に向けて、本稿で紹介した大量の水素の供給・利用手段は水素の経済性などにも影響を及ぼし、大きな起爆剤となる可能性がある。

しかし、新たなエネルギーを社会に導入するということは容易なことではなく、継続的な取り組みが必要である。現在火力発電の燃料として重要な位置を占める天然ガスも、発電用燃料として液化天然ガスが日本へ輸入が開始されたのは40年以上も前のことである。

水素発電に関しても、今後社会への導入を目指すにあたり必要となる継続的な取り組みを支えるものとして、長期的なビジョンと社会からの受容性が重要である。そのためには、水素発電の特長となり得る環境性能やエネルギーセキュリティへの寄与に関してもより具体的な検討を深め、ビジョンの礎となる知見を蓄えていくことが一層必要になると考えられる。


  1. *1水素・燃料電池戦略ロードマップ
  2. *2水素発電に関する検討会 報告書
  3. *3水素発電と大規模水素供給システムの構築(次世代火力発電協議会(第6回会合)資料1)

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