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ガイドラインにみる取り組みのポイント

職場における治療と仕事の両立支援

2016年7月12日 社会政策コンサルティング部 志岐 直美

近年、診断・治療技術の進歩に伴い、がんをはじめとして「不治の病」とされていた病気も「長く付き合う病気」になりつつあり、治療を受けながら仕事を続けることも珍しくなくなってきた。治療と仕事の両立支援への対応を求められる職場が増えている一方で、どのように対応すればよいかわからず悩む企業も少なくないのではないか。

2016年2月、厚生労働省から「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(*1)が公表された。本ガイドラインは、治療と仕事の両立支援を行おうとする企業等を対象に、両立支援の基本的な考え方や取り組みの方向性、留意事項を国として初めて整理したものである。本コラムでは、両立支援の基盤となる取り組みとして、ガイドラインのなかでも「両立支援を行うための環境整備」に着目して紹介したい。

治療と仕事の両立支援に当たっての心構え

「治療と仕事」の両立支援についてピンとこなくても、「仕事と育児」や「仕事と介護」の両立支援にはすでに取り組んでいる企業も多いのではないだろうか。育児や介護においては、時間的な制約に対する配慮が1つのポイントになるが、治療と仕事の両立においても、入院や通院治療、療養などのための時間の確保が必要という点で、共通している。

しかしながら、出産・育児は比較的見通しが立てやすい(あるいはイメージしやすい)が、治療に関しては、治療方法や症状・体調などに個人差があるため、見通しが立てづらい場合がある。また、病気や治療の副作用などによって、従業員自身の業務遂行能力が一時的に低下する場合があり、経過によっても状況が変わる。そのため、治療と仕事の両立支援においては、従業員自身の健康状態や個別性を踏まえた対応が求められる。

加えて、病気に対する誤解から、精神的な動揺や不安を抱え、従業員自身が早まって退職を申し出てしまうケースもあれば、周囲の上司や同僚が過度に心配をしたり、両立支援に対して協力が得られにくいケースもある。そのため、治療が必要な従業員本人も含め、職場における病気や治療と仕事の両立に対する正しい理解が鍵となる。

治療と仕事の両立を支援する仕組みづくりのポイント

当社が過去に実施した調査では、病気を抱えた労働者が必要とする支援の上位2つに「体調や治療の状況に応じた柔軟な勤務形態」と「治療・通院目的の休暇・休業制度等」が挙げられた(*2)。制度の導入可否の判断は企業によって異なると思われるが、企業の取り組みとして優先度が高いものと考えられる。ガイドラインでも、治療への配慮や通勤の負担軽減などのために、事業場の実情に応じて、時間単位の年次有給休暇や病気休暇といった休暇制度、時差出勤や短時間勤務制度といった勤務制度について検討、導入することが望ましいとしている。

加えて、両立支援の際には、従業員の健康状態や個別性に配慮するためにも、主治医や産業医などの意見を十分に踏まえる必要がある。そのため、従業員本人の同意のもと、従業員、人事労務担当者、産業医や産業保健スタッフ、主治医等が必要な情報を共有し、連携できるよう、手順や方法、役割等についても整理しておくことが望ましい。ガイドラインでは、医療機関との情報共有のためのツールが例示されており、各企業において適した方法を検討する際の参考になるだろう。

最大のポイントは「相談・申し出」をしやすい環境づくり

治療と仕事の両立支援は、あくまで従業員からの「治療と仕事の両立」についての相談や支援の申し出に基づく。そのため、病気になった従業員が企業側に安心して相談・申し出ができるよう、相談窓口を明確にして、日頃から従業員に窓口の存在を周知するなどの取り組みが望まれる。あわせて、個人情報、健康情報の取り扱いについても明確にしておく必要がある。

一方、がん患者を対象とした調査では、「余計な心配をかけたくない」「会社や同僚に偏見を持たれるかもしれない」「解雇されるかもしれない」といった懸念から、職場への相談を控えるケースがあることが明らかとなった。加えて、「病気や治療のことを職場に言いづらい雰囲気がある」場合には、退職につながりやすいことも示唆された(*3)。

このことは、制度や相談窓口を作るだけでなく、「病気に対する偏見をなくす」「治療と仕事の両立を当たり前、お互いさまと捉える」ことができる職場の風土づくりが欠かせないことを示している。そのためには、相談窓口の担当者のみならず、身近な相談先である上司、同僚なども対象として、治療と仕事の両立に関する意識啓発も同時に行うことが望まれる。

最後に、両立支援の有り様は企業や職場の状況に応じてさまざまであるが、企業、従業員が協議して仕組みを作っていくことが重要である。企業としての治療と仕事の両立支援に関する基本方針等を全従業員で共有し、治療と仕事の両立が可能な職場を作りあげていくことを期待したい。


  1. *1厚生労働省「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」
  2. *2厚生労働省委託「平成25年度治療と職業生活の両立等支援対策事業」アンケート調査
  3. *3東京都「がん患者の就労等に関する実態調査」報告書
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