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IoTによるペットとの生活の変革

2016年2月10日 経営・ITコンサルティング部 豊田健志

近年、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)は、移動・交通、モノづくり、小売等の広範な分野にわたって実用化が進んでいる。その中で筆者が密かに期待している市場がある。それは、ペットのためのIoTサービス分野である。

1. ペット市場は有望なのか?

2014年におけるペット(犬・猫)の飼育数は約2000万頭*1であるが、これは2015年における日本のこどもの数(15歳未満人口)約1600万人*2を大きく上回っている。また、ペットの数の推移を見ると、犬の国内飼育数は、テレビCMに出演したチワワの人気などにより、2003年に大きく増加し、2008年を頭打ちに減少傾向にある。一方、猫の飼育数は2011年以降増加傾向にあり、近い将来に犬の飼育数を逆転すると予想されているが、犬・猫を合わせた総数は若干の減少傾向にある。

このように、ペットの飼育数の伸びはやや鈍化しているものの、市場規模自体は拡大傾向にある。矢野経済研究所の推計*3によると、2008年度に1兆3788億円であったペット関連市場は、2014年度に1兆4285億円に達する見込みとなっている。この市場拡大の背景には、家庭におけるペットの位置づけやペットに対する考え方の変化があるといわれている。少子高齢化や核家族化等の社会の変化により、室内飼養が可能な、小さい・かわいい・おとなしい性質の品種が好まれるようになるとともに、「ペットも大切な家族の一員である」という意識がますます強まっている。こうした背景もあって、総務省の家計調査*4によると、1世帯あたりの消費支出が減少する中でも、ペット関連の支出は年々増加傾向にある。

このような状況を踏まえると、ペット関連市場の拡大を図るうえで重要な鍵を握るのは、拡大基調にあるサービス市場であるといえる。特に、生体販売(生き物としてのペットそのものの販売)を除いたペット関連市場の約9割を占めるのは、ペット用品およびペットフード市場であるが、この市場は近年横ばい傾向にある。その一方で、新たな市場であるペットに対するサービス市場には、まだまだ成長の余地が残されている。今後のペット関連市場の成長・拡大の鍵は、ペット用品やペットフードなどの「モノ」だけではなく、ペットに対する「サービス」にあるといえよう。

2. ペット市場におけるIoTサービスの萌芽

筆者は毎年1月にラスベガスで開催される世界最大規模の家電見本市「CES」*5に、2015年から2年連続で参加し、ペットのためのIoTサービス市場の活性化を強く実感している。

最新のCES 2016では、ペットのための製品やサービスを展示する企業が2桁に達した。その多くはペットのためのウェアラブル(身に着けられる)端末および端末を用いたサービスであるが、ほかにも、監視機能を備えて自律的に作動するSmart Pet Feeder(給餌器)やレーザーライトによる猫向け玩具など、多彩な製品やサービスの展示が行われていた。

2015年10月にカナダのオタワで開催されたペットExpo「Ottawa Pet Expo」でも、ペットのためのウェアラブル端末やテクノロジーの活用が大いに注目を集めた。同Expoによると、ペットのためのウェアラブルテクノロジーの売上は、今後10年で26億ドル(約3120億円)にまで増加すると予測されており*6、今後もさらなる市場の拡大が見込まれている。

日本でも、海外より先行してペットのためのサービスが提供されてきた。日本におけるペットのためのIoTサービスとしては、富士通が2012年から販売している「わんダント」などが知られている。同製品は、加速度計や温度計を搭載し、犬の健康状態をモニタリングすることができる*7。ほかにも、NTTドコモから、犬の健康状態(体温や歩数)をいつでもモニタリングできる「ペットフィット」や、外出先からペットの様子を確認できる「おるすばんカメラ」が提供されている*8

このように、日本だけではなく世界中でペットのためのさまざまなIoTサービスが登場している。以降では、このようなペットのためのIoTサービスが、今後、IoT関連の技術の進展によって、どのように発展していくのかを紹介する。

ペットのためのテクノロジー例
図1

  • *CES 2016展示より

(1)ペットの健康管理の高度化

CESで展示されていたテクノロジーの多くは、センサや通信技術を用いてペットの健康管理を高度化するものであった。たとえば、Tractive社の首輪型ウェアラブル端末は、GPSや加速度センサを搭載し、歩数や活動量を把握することで健康状態をモニタリングすることができる。また、WonderWoof社の首輪型ウェアラブル端末は、ペットの品種・性別・年齢・サイズに応じて必要な運動量を推定し、現在の運動量と比較することで、ペットの健康状態の維持・管理に役立てることができる。

また、現在は、ペットの健康状態(特に運動量)の計測や可視化を行うサービスがほとんどであるが、これらのサービスがさらに進展すれば、ペットに関するさまざまなデータが蓄積され、より高度なサービスが実現される可能性もある。たとえば、NTTドコモは前述のペットフィットで得られた知見等を活用し、ペット保険サービス「ドコモのペット保険」を提供している。この例のように、ペットのためのサービスから得られる健康状態や日々の活動状況、医療データ等の“ペットに関するビッグデータ”が蓄積されれば、将来的には、ペットの病気の早期発見のほか、病気の予防や健康維持のための医療サービス、保険サービスへと発展する可能性も高い。このように、ペットの健康管理をより高度な次元で実現することができれば、ペットが健康な状態で長生きする可能性を、今よりもさらに高めることができるようになるだろう。

(2)留守中のペットのケアやモニタリング

留守番中のペットをモニタリングしたり、餌やりを行うテクノロジーも注目されている。たとえばCleverPet社は、自動で餌やりを行うフィーダー(給餌器)を開発している。このフィーダーには、カメラが搭載されており、自動で餌を与えるほか、遠隔からのペットのモニタリングも可能である。ほかにも、飼い主の留守中にペットが退屈しないように、ペットが遊べるような機能もある。フィーダーの前方に付いたボタンにはセンサとライトが、本体にはマイクが搭載されており、「ボタンが光ったらタッチする」「お手やおかわりの声に合わせてボタンをタッチする」などの仕掛けに正解すると餌が出てくる。これらの仕掛けで遊んでいるうちに、ペットがより賢くなることも期待されている。

このような機能は、今後も飼い主やペットのニーズを通じて、さらに高度化すると予想される。飼い主がいない間も、ある程度自動的にペットの世話をすることができるようになれば、ペットが心配で長時間の外出を避けている飼い主も、もっと安心して外出できるようになるのではないだろうか。

(3)ペットに対するしつけの高度化

ペットが人間社会に適合し、周りに迷惑を掛けずに幸せに生活できるように“しつけ”を行うことも飼い主の責任である。一方で、ペットのしつけは、飼い主の困り事の一つであり、しつけ教室を提供する企業も存在する。この“しつけ”をテクノロジーで支援するサービスも現れている。

DogTelligent社の首輪型ウェアラブル端末「Connected Collar」には、ペットの位置や加速度、体温を計測するセンサや通信機能(3G・Wi-Fi)、LEDライト、超音波スピーカ、マイクが搭載されている*9。これらを用いて、(1)のようにペットの健康状態をモニタリング・可視化する機能のほか、リードがなくても飼い主と距離を一定に保つ「バーチャル・リード」機能、人間には聞き取れない超音波や首輪の振動により遠隔から安全に無駄吠えを防止するといったトレーニングを行う機能も実現されている。この製品の優れた点は、単にペットの状態を計測・可視化するだけでなく、その状態に対して飼い主が適切なアクションを行なうための支援機能等を有しているところにある。

このような“しつけ”の機能やサービスが一般化すれば、ペットとともに過ごすための飼い主の負担も、大きく軽減する可能性があるといえるだろう。

(4)ペットのためのシェアリングエコノミー

個人所有の「モノ」や「場所」「労働力」「移動」等をシェア・再利用し、共同消費を進める「シェアリングエコノミー」が最近注目されているが、ペット市場においても、シェアリングエコノミー型のサービスが現れている。

たとえば、DogVacay社は、犬を預けたい飼い主(たとえば旅行者)と犬を預かってもよい人をマッチングさせるプラットフォームサービスを提供している。日本国内でも類似サービス「DogHuggy」が立ち上がっているが、このサービスを利用すれば、ペットの飼育経験が豊富な近所のドッグシッターを探すことができる。

このようなペットに関するシェアリングエコノミーも、ペットとの生活をより便利にするうえで、今後より重要性を増すと考えられる。

3. ペットのためのIoTサービスの拡大に向けて

これまでの国内ペット市場では、生体の販売やペットフードおよび関連商品の販売が主流であった。しかし、ペットの販売数の大幅な拡大が難しいと考えられる今後は、「ペットを大切な家族の一員として捉える」という飼い主の深いニーズに合わせた、より高度なサービスの拡大に注力することが重要であるといえるだろう。IoTはそのための主要技術の一つであり、国内の大手ペット関連企業にとっては、ハイテクベンチャーやICTベンダーとの連携も視野に入れたサービスの展開が期待されている。ペット向けサービスには、国内で開発したサービスを海外にも展開しやすい側面もあるため、国内企業には、グローバル市場を見据えたIoTサービスの開発を期待したい。

また、人間に関するデータと比較すると、ペットに関連するさまざまな情報(ビッグデータ)の取得や活用に対しては、比較的許容範囲が広いと考えられるため、個人情報やプライバシー保護の観点から人に対しては提供が難しいサービスであっても、ペットのためであれば市場の受容性が高まる可能性がある。たとえば、ペットの健康増進や病気の早期発見・予防のためであれば、ペットのさまざまな情報を提供してもよいと考える飼い主は多いのではないだろうか。こうしたデータが集まれば、ペットの医療・保険だけでなく、健康によいフードの開発、個々のペットに最適な玩具の開発・提供などのサービスも可能となる。また、ペット市場を試行的なフィールドとしてサービスを開発し、その知見を活用すれば、人向けのサービスに対する社会の受容性を高めることもできるかもしれない。

ただし、筆者がここで強調したいのは、「ペットのためのテクノロジー」の重要性である。IoTサービスは飼い主(人間)にとって便利なだけでなく、ペットにとっても大きな弊害がなくその恩恵を受けることができるものでなければならない。ペットが安心・安全・快適に利用できるテクノロジー(technology for pets)に基づく便利な製品・サービスが、市場においてもっと広く普及することを、実家や自宅で犬・猫を愛でる飼い主でもある筆者個人としても、心から期待したい。


  1. *1ペットフード協会「平成26年(2014年)全国犬猫飼育実態調査」
  2. *2総務省統計局「わが国のこどもの数」, 2015
  3. *3矢野経済研究所「ペットビジネスに関する調査結果2014」, 2014
  4. *4総務省統計局「ペット関連の支出」, 2010
  5. *52015年までの正式名称は「International Consumer Electronics Show(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」。CESの主催者である「コンシューマー・エレクトロニクス協会(CEA)」は昨年に新しく「コンシューマー・テクノロジー協会(CTA)」と名称を変更した。これに伴い、2016年からは「CES」が正式名称となっている。
  6. *6Ottawa Pet Expo「2015 Wearable Technology Trends for Pets」, 2015
  7. *7https://www.wandant.jp/
  8. *8https://www.docomopet.com/
  9. *9http://www.dogtelligent.com/

(参考文献)大前研一「人口減にビジネスチャンスあり!―前編―」(日経BPネット,2006)、吉田眞澄「ペットをめぐる現代事情と制度」(『国民生活』2013年1月号)

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