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ワクワクする自動運転車の実現に向けて

2016年3月18日 経営・ITコンサルティング部 西村和真

将来の自動車は「自動運転」というキーワード抜きにして語ることはできない。筆者は、自動車関連企業の出展が多くなっていることで注目を集める世界最大規模の家電見本市CES 2016(開催期間:2016年1月6日~9日)に2年連続で参加した。昨年の2015 International CESでは、一部の企業によって自動運転車(Autonomous Car)の展示が見られたものの、「インフォテインメント」に関する展示が目立っていた(*1)。それに対して、今年のCES 2016では、自動運転関連の展示が顕著に増えており、その実用化に向けた業界の熱気と勢いが感じられた。

本稿では、(1)どのようにして自動運転車を実現するかといった技術的な視点や、(2)自動運転車を用いて提供するサービスの視点、(3)未来の自動車が提供する価値に着目し、CES 2016の様子を含めてその動向を紹介したい。

どのように自動運転を実現するか ―センシング技術と人工知能の活用―

ドライバーが自動車を運転する時には、「認知」→「判断」→「操作」の運転行動を繰り返している。自動運転車とは、これらの運動行動を、人間ではなく機械によって行おうとする仕組みである。「認知」とは、走行する道路の状況や信号等のインフラ、他の歩行者や自動車等の外部環境を検出したうえで、自車の状況を詳細に把握することを指す。また、「判断」とは、その認知した情報を基に、どのような操作を行えばよいかを判断することを指す。さらに、「操作」とは、加速、操舵、制動といった具体的な車体の操作を指す。

ここでは、特にIoTと関連のある「認知」と「判断」に着目し、どのようにして自動運転車を実現しようとしているのか、自動運転の仕組みを紹介する。

1. 認知 ―センシング技術の活用

人間は目や耳を通じて「認知」を行うが、自動運転車は「認知」のために、車体に搭載されたカメラや高精度なGPS、レーダー等のさまざまなセンサを活用する。その代表的なセンサの一つが、LiDAR(ライダー:Light Detection and Ranging)と呼ばれる光(レーザー)を用いたセンサである。特に自動運転車では、LiDARを360度検知可能にした全方位LiDARの活用が検討されている。具体的には、対象物までの距離を測定できる特徴を生かし、LiDARを高速で全方位に照射してリアルタイムに3次元地図作成を行い、外部環境の把握と自車位置の把握を同時に実現している。この仕組みは、グーグルが開発するGoogle Self-Driving Carで利用されているほか、フォードもLiDARを用いたリアルタイム3次元地図の作成に取り組んでおり、CES 2016で展示を行っていた。


米Velodyne社の全方位LiDAR

図1

  • *CES 2016展示より

2. 判断 ―人工知能の活用

センシング技術は、「認知」のための技術であるが、それだけでは「操作」までの運転行動を実現することはできない。車体に適した「操作」を実現するためには、「認知」した情報を解釈したうえで、車体の操作のための「判断」が必要となる。ただし、全方位LiDARのようなセンサから得られるデータは膨大かつ動的であり、単純な処理では適切に「判断」することが難しい。そこで注目されているのが人工知能である。

CES 2016では、日本の人工知能ベンチャーであるPreferred Networksによる“ぶつからないことを学習する人工知能”を搭載した自動運転車のデモンストレーションが、トヨタ自動車のブースにて紹介されていた。複数の自動車が各々独立して走行し、最初は自動車同士が頻繁にぶつかりあうものの、各々の自動車が安全な走行を自ら「判断」し、学習していくことで、徐々にぶつからなくなるというデモ(*2)で、この仕組みを導入すれば、他の自動車等の障害物にぶつからないように、自動車自ら「判断」を行うことが可能になる。そのため、人工知能による学習が、「認知」した膨大かつ動的な情報を適切に「判断」する基盤になると期待されている。

こうした人工知能関連技術を含め、自動運転を実用化するためには、先進的かつ高度で多様な技術を組み合わせる必要がある。しかしながら、先に述べたLiDARのような高度なセンサは、高い精度を有する一方でコストも高く、そのままでは自動運転車は非常に高価なものにならざるを得ない。つまり、広く普及する自動車になりにくいのが現状である。

そのため、自動運転車の実用化の先にある普及を考えると、コストを下げることは今後の大きな課題である。たとえば、高価なセンサを代用する他の技術の活用も注目される。そのひとつの方向性が、人工知能等のソフトウェア技術や、IoTのように周囲と通信しながら情報を交換し合う協調型の仕組み等を組み合わせた方法である。CES 2016では、さまざまな活用可能な技術の中で何を選択して自動運転を実用化すべきかを提案する展示も見られ、自動運転車の実用化だけではなく、普及まで見越した検討が一層進んでいることが感じられた。

自動運転車のサービス化を加速するオープンイノベーション

自動運転車を実現するために必要な技術開発が進む一方で、将来の自動車に関してどのようなサービスを提供すべきかについての検討も並行して進んでいる。しかし、自動車に対するニーズは地域によってさまざまであり、それら全てのニーズを集約することは容易ではない。そこで、優れた技術に加え、地域のニーズに合ったアイデアを外部から募集するオープンイノベーションにより、それぞれの地域特性に合致した技術・サービスを効率的に創出するための取り組みも行われつつある。

フォードは、「Innovate Mobility Challenge」(*3)として、世界各地のニーズを踏まえたアイデアを募集し、サービス開発を推進している。たとえば、ポルトガルのリスボンで開催された「City Mobility Challenge」をテーマとするハッカソンでは、少量短距離の輸送をコミュニティによって解決するスマートフォンアプリケーション等のアイデアが出されている。その他にも、自動車部品大手の仏ヴァレオは、「Valeo Innovation Challenge 2016」(*4)として、技術的な発明に加え、自動車の新しい使い方に関するアイデアを学生から募集するコンテストを開催している。

「所有」から「使用」へのシフト ―未来の自動車が提供する価値とは―

IoTを通じた自動運転車の実現は、安全性の向上だけではなく、渋滞の緩和や環境負荷の低減等、さまざまな効果をもたらすことが期待されている。しかし、最も大きな変化は、人間にとって自動車の価値が大きく変わろうとしていることではないだろうか。

近年、自動車を「所有する」ことから「使用する」ことに、その価値がシフトしていくという見方も強まっており、自動運転車は、その動きをより加速させる存在になると考えられる。たとえば、自動運転によって、自動車に乗っている間にドライバーが運転を行う必要がなくなると、自動車を一つの空間として活用することが注目されるようになるだろう。つまり、自動車の価値が、移動のための「手段」から移動する「空間」へと変わっていくのである。自動運転の可能性とは、安全かつ人手が要らない運転の実現だけでなく、自動車という我々にとって馴染みのある存在の進化であり、新たな価値の創出なのだといえる。

その一方で、自動車には「操縦の楽しさ」や「かっこよさ」といった楽しみもあり、自動車ファンにとっては、このような昔からの自動車の良さも捨てることはできない。見た目もかっこよく、スムーズな移動も可能で、ドライブを楽しむこともでき、プライベートな空間として活用することもできる ――― 。筆者としては、自動車が最新の技術によって、よりさまざまな価値を提供できるようになり、誰もがワクワクする乗り物になっていくことを期待したい。


  1. *1インフォテインメントとは、InformationとEntertainmentを組み合わせた言葉であり、自動車に対して情報や娯楽に関する機能を幅広く提供するものを指す。具体的には、カーナビゲーションシステムや音楽や動画等のマルチメディア再生等を指し、インターネットに常時接続したクルマを表現する“コネクティッドカー”の中核を担っている。International CES 2015では、アップルが提供する「CarPlay」、グーグルが提供する「Android Auto」と呼ばれる、スマートフォンOSをベースとした車載OSを搭載したインフォテインメントが注目を集めていた。
    [参考]IoTによる未来のクルマの新しい楽しみ方(みずほ情報総研コラム、2015年2月17日)
  2. *2Preferred Networks「分散深層強化学習によるロボット制御」
  3. *3http://research.ford.com/innovatemobility.html
    https://media.ford.com/content/fordmedia/fna/us/en/news/2015/09/10/ford-doubles-down-on-crowd-sourced-approach-to-transportation-so.html
    2015年9月時点で13の地域で開催されている
  4. *4https://valeoinnovationchallenge.valeo.com/

関連情報

調査・研究レポート

2015年8月
IoT(Internet of Things)の現状と展望
― IoT と人工知能に関する調査を踏まえて ―

【連載】IoTが創る超高度情報社会の側面

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