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2020年に向け、自動運転はどう歩むか

2016年3月31日 経営・ITコンサルティング部 築島 豊長

2015年10月、国際フォーラムでのスピーチで安倍首相は、「2020年の東京には自動運転車がきっと走り回っている。ぜひ見に来てほしい」とコメントし、東京オリンピック・パラリンピックまでに、自動車の自動運転技術を実用化させる方針を明らかにしている(*1)

また、同じく2020年を指標としているものに、第5世代移動通信システム(以下、5G)がある。5Gは、既存サービスのLTEと比較して、大容量(10~100倍のユーザーデータレート)、低遅延(1msec)などといった特長があり、総務省は、世界に先駆けて2020年に実現することを目指し、推進ロードマップを示すとともに、産官学が連携して推進する場として「第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)」を設立するなどの活動を行っている(*2)

自動運転技術と5G。少し前までは、個別の技術として扱われていたが、実現性や具体性が増してきたためか、最近では、「5Gは自動運転技術を実現する要素技術」として取り上げられることが多くなったように思われる。本稿では、両技術の関係に触れるとともに、今後の展開について考察する。

自動運転における認知技術

自動車の普及により生じている交通事故や交通渋滞といった問題の解決手段として、また、環境負荷の低減、高齢者等の移動支援、運転の快適性向上のために、自動運転技術の実現が期待されている。実現に向けては、自動車の走行機能の3要素である「認知(または検知)・判断・操作」の高度化が求められている。このうちの認知については、車載センサーを通じて走行環境を認識するもののほか、通信を用いて外部(周辺車両、道路などのインフラ、クラウド等)から情報を入手するV2X システムがあり、車載センサーでは認知できない範囲の走行環境の認識を補完する技術として期待されている。

しかし、日本と欧米のV2X システムで通信周波数が異なっており、日本は760MHz帯と5.8GHz帯、欧米は5.9GHz帯となっている。通信周波数を巡っては、2015年10月にフランス・ボルドーにて開催されたITS世界会議において、次のような一幕があった。無線通信技術のセッションにおいて、外国人参加者から「(通信周波数について)なぜ日本は欧米に同調しないのか」といった質問が飛び、日本の有識者はこの質問に対し、「近い将来、同調できるとよいと考えている」と回答していた。日本は5.8GHz帯を利用したETCやITSスポットが普及しているように、国によって環境が異なるため、簡単には周波数の整合を取れない現状があり、一言に自動運転と言っても、その実現方法は若干異なってくる。

5Gは、産業を変える

冒頭で示したように、5Gは多くの技術的な特長、また既存技術に対しての優位性を持つ。これらを受けて、ノキアのスーリCEOは、先月開催されたMobile World Congress(MWC)2016において、「現行の4Gまでは移動体のための通信方式、5Gは問題を解決する手段で、5Gによって多くのものが実現される」とし、また、エリクソンのエワルドソンCTOは「5Gは、新たな産業を拓く」とコメントしている。

5Gが実現する低遅延性は自動運転においても有効であり、たとえばMWC 2016のノキアの展示ブースでは、車両の隊列走行(プラトゥーンニング)に5Gを使えば、車間距離を短くすることができるというデモを行っていた。車間距離が短くなれば、空気抵抗の低減(省エネルギー化)や交通容量の増大(交通流の円滑化)が期待できる。今後は、既存技術では実現できていない車間距離(たとえば2メートル)でデモが行われる可能性もあり、今後、通信業界から自動車業界へ5Gを活用した提案の攻勢がかかりそうな様相である。


ノキアによる5Gを利用した隊列走行の車間間隔に関するデモ
図1

  • *MWC 2016展示より

実現に向け、選択肢は数多い

5Gは開発途上であるが、自動運転の実現方法に新たな選択肢が出てきた自動車業界は、今後どのような決断をするだろうか。通信一つとっても、どのような周波数、帯域幅で自動運転を実現していくのか興味深いところだ。実際、デンソーとNTTドコモは自動運転技術の実現に向け、5GやLTEを利用した車両制御システムの研究開発を協力して進めることを明らかにしており、実現に向けて前進し始めている(*3)

2020年に向けて、日本は技術力の粋を結集し、自動運転技術を実用化すると思うが、一つ懸念があるとすれば、日本の事情、環境でのみ成立する技術になるのかどうかという点だ。これは重要なポイントになってくるのではないだろうか。言い換えると、世界で売れるパッケージ(商品)なのかどうか、ということである。国によって環境が異なるため、そっくりそのままで売れるということはないと思うが、日本特有の事情に大きく依存した日本方式の自動運転では、パッケージの性能や技術力は高くても、グローバルに展開できず、2020年以降に世界で売るための対応が必要となるなど、販売という観点で出遅れる可能性がある。

2020年まで、あと4年。自動運転の実現に向けて、自動車業界は多くの選択を迫られることになるのではないか。どのようなプロセスを経ていくのか、注視していきたい。


  1. *1http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/1004sts.html
  2. *22020年代に向けたワイヤレスブロードバンド戦略(総務省、平成27年6月26日)
  3. *3http://www.denso.co.jp/ja/news/newsreleases/2016/160222-01.html

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