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数値シミュレーション分野のスペシャリティー確立を目指して

2017年2月7日 サイエンスソリューション部 米田 雅一

はじめに

総合研究所というところでは専門分野は自立的に確立することになる。社員一人一人のスペシャリティーと高い専門性を確立していくためにはどうしたらよいか?そのなかでは、業界知識や動向に関する「情報の差別化」と業界における「人との繋がり」が大切な要素の一つである。個々の社員がそれぞれ多様な専門性を獲得している事例として、私が数値シミュレーション分野でどのようにスペシャリティーを蓄積してきたか、これまでの経験を振り返ってみたい。

「情報の差別化」を考える

世の中では情報が溢れかえっている。自分が注目している専門領域の動向、要素技術は新聞などのメディアや書籍、論文で学ぶことができ、現代はインターネットの発達によってキーワードを検索するだけで簡単に情報を獲得することができる。こうした情報を獲得し、自らの専門知識と技術を蓄積させていくことは大切であるが、これらは誰でも認識して獲得できる情報であり、将来、自分自身のスペシャリティーを確立する上での付加価値となる情報とはなり難い。言い換えれば、競争力としての差別化が難しい。一方、周囲が簡単に獲得できない情報は、経験やノウハウ、独自の分析手法などから生み出されるもの、あるいは「人との繋がり」においてFace to Faceで初めて獲得できるものであると考えられる。

私が所属するサイエンスソリューション部では、計算科学(工学、自然科学、社会科学における各種現象を数式化してコンピュータシミュレーションで予測)に関する技術とノウハウで、机上あるいは実際に見ることが難しい問題に対して、「結果としての情報」ばかりではなく、その問題が発生する影響因子と因果関係を紐解いている。

具体的な例として、自動車の燃費向上で鍵の一つとなる空気抵抗の低減を取り上げてみる。自動車のボディー形状を設計する際、風洞実験(実物の自動車の周りに風を流す実験)で空気の流れをある程度計測することは可能であるが、実験コストが大きい割には細かい部分の流れまでは見えない一方、シミュレーションでは自動車のボディー近くの1mmの範囲まで流れの様子を計算し、ボディー形状を変更した場合にどの領域で空気抵抗が変化するかを分析することができる。メーカーの技術者は自らの経験によって頭の中でシミュレーションするが、彼らの予測を凌駕したときに我々の技術がビジネスにおけるバリューとして成立する。

「人との繋がり」を広げる

人との繋がりを広げる方法は、業務を通じてお客さまとディスカッションを深める、外部のセミナーに参加する、専門領域の有識者へヒアリングを行うなど、さまざまな手段がある。私が「人との繋がり」の大切さを強く意識するきっかけとなったのは海外発表であった。

私の専門領域の一つは燃料電池で、今から10年以上前の2005年、国際学会では最大規模、当時は燃料電池業界の技術者、研究者だけで数百名以上参加する米国電気化学会(ECS:Electro-Chemical Society)で初めて口頭発表した時のことである。初めての英語での発表ということで行きの飛行機の中から緊張の連続で、発表の前日に会場の下見に行ったとき、その広さに驚き、失敗しないように徹夜で繰り返し発表練習を行い、伝えたいポイントを考えて発表のスライドをぎりぎりまで修正して当日の発表に臨んだことは今でも脳裏に焼きついている。

今考えれば、発表の内容が刺さったというよりも熱意が受け入れられたのかもしれないが、発表後のコーヒーブレークで複数の研究者、技術者から情報交換の申し出があり、燃料電池セッションのチェアマンだった米国の大学教授から翌年に招待講演の依頼を受け、その時のうれしさは今でも記憶に残っている。当時に出会った人は自分と同世代のメーカー技術者や研究者が多く、今でも彼らと情報交換が継続し、また公開情報では獲得することが難しい切実な課題、ニーズなどの貴重な情報源となっている。

おわりに

私が蓄積してきた専門性、人との繋がりは個人で閉じていては組織のなかで有効に活用できない。現在はこれらを継承しようと思い、燃料電池性能予測ソフトウェアとしてノウハウを集約し、若手社員を中心にその開発プロジェクトを立ち上げた。現在では、彼らがそれらの成果を国内外の学術会議で発表する機会をつくり、独自の情報と人との繋がりが獲得できるように働きかけている。

最後に、どのような分野においてもスペシャリストとして認知されるために、その業界で「人との繋がり」を広げるように挑戦し、そこから得られる独自の「情報」を貪欲に獲得するようにすべきだと思っている。一方、組織を牽引する立場からは、積極的に挑戦する人に対して、その機会と環境を作り上げて、モチベーションを高めていくことも大切な役割であると思う。

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