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つながらない工場

日本の製造業におけるスマート工場実現の課題

2017年3月28日 ソリューション第5部 宮崎 真次

今年、2017年の年明けに東京ビッグサイトで開催された第1回スマート工場EXPOに出向いた。「つながる工場」をスローガンに、国内外120社を超える企業から、スマート工場実現のための先進的なIoT技術やソリューションが展示されていた。さまざまな最新技術が活用された先進的な製造工場を思い描き、筆者も心を踊らせながら見学することができた。

一方で、日本のものづくりの現場は、他国と比較しIoT技術の導入が進んでいるとは言えない状況にある(*1)。筆者は業務上、国内の製造現場に立ち入ることがあるのだが、外界と遮断された「つながらない工場」が多い。これはなぜなのか。本稿では、日本の製造工場でスマート化が進まない理由を考えてみたい。

スマート工場とは

スマート工場の定義や解釈はさまざまだが、本稿では狭義として「IoT技術の活用によって、工場内の生産設備やシステムをインターネットに接続することで、工場内外の設備、システム、人が協調して動作する」工場とする。スマート工場では、製造ラインで稼働する各種産業ロボットや生産設備から得られる生産情報をインターネット上のクラウド経由もしくはダイレクトに工場内外のさまざまなシステムに渡すことで、生産性向上に役立てる仕組みが導入される。これらの仕組みにより、遠隔地からの生産状況のリアルタイム把握、生産計画の最適化、取引企業との受発注システム連携、さらには人工知能技術などで生産情報を分析加工しフィードバックすることが可能となるのである。

国内の環境はどうだろうか。各種システム間や企業間データ連携が必須となるため、つながる対象物の設備・システムではインターフェースの取り決めが不可欠だが、独Industrie4.0評議会や米IICなど業界団体による標準化や、業界組織に頼らないデファクトスタンダード化が進みつつある。つなぐための基盤技術である、生産設備データ収集、エッジコンピューティング、クラウド技術、人工知能などのデータ活用技術、およびそれらを支える高速ネットワークインフラと情報セキュリティ技術も整備されている。社会的な風向きも、政府において「平成28年度 経済産業政策の重点」事項(*2)としてスマート工場を挙げており、実現に関して前向きである。

これだけの環境が整っていながら、なぜリアルな製造現場では外界との接続が加速せず「つながらない工場」のままなのか。

製造現場が外界から遮断されている理由

理由はいくつか考えられるが、筆者が製造現場の責任者や設備サプライヤーへのヒアリングで得た結論として特に2点を挙げたい。

一つは情報流出を回避するためである。日本には、製造業の製造技術が“様々な形”で発展途上国に渡り国際競争力が低下してしまったという歴史がある。情報流出に対しては石橋を叩いても渡らないほど神経質にならざるをえないのである。確かにVPNや暗号化技術を始めとする今日のセキュリティ技術を活用することで実用レベルの安全性は担保されるが、セキュリティに100%はない。また、長らく閉鎖環境で独自の進化を遂げた工場内の各種システムを流れる情報は、何が秘密情報で何が公開可能情報かの分類がなされていない。どこまで情報開示しても問題ないか容易に判断がつかない状況のため、多少不便であっても、とにかく外部と接続せずすべて秘密情報として扱おう、というわけである。

理由の二つ目は、日本の製造業におけるIoTの捉え方が他国のそれと違う点が挙げられる(*3)。米国やドイツを始めとする他の先進国では、IoT技術を新たな収益源やビジネスモデルの創出に貢献するものと考えている経営者が多い。この恩恵は他社にもあるので、競合他社が新たなビジネスモデルを創出したり、今まで競合ではなかったIT企業がある日突然製造業の競合になりうるという危機感もあり、IoT技術の導入を急いでいる。若干飛躍するが、IT企業がクルマを作る時代、といえば分かりやすいだろう。大量生産と安価な人件費により台頭してきた新興国のものづくりに対抗するには、多品種少量生産による付加価値の高い製品の製造が有効な手立てだが、それを実現するにはスマート工場は欠かせない。他の先進国では、スマート工場は、生き残りをかけた戦略の一つと位置付けられている。

一方、日本企業の多くは小さな改善の積み重ねの延長線上にIoT技術を置いている。戦後からQC活動を始めとする地道な努力の積み重ねによって究極まで生産性を高め、先進国の仲間入りを果たしたという自負もあるだろう。そのためか、そんなに慌てなくてもよい、導入を見送っても差し支えない、といった捉え方をしている企業も多いことが、スマート化が進まない理由の一つになっていると考えられる。

外部接続のすすめ

前述の通り、国内の製造業は、このままでは大量生産型の新興国との価格競争にさらされ、他方では、新たなビジネスモデルを仕掛けてくる他の先進国の後塵を拝する懸念がある。IoT、スマート工場といった単語を、目まぐるしく現れては消えるバズワードの一つとたかをくくらず、本腰を入れる時期にきているのではないか。

そのためにはオープン・クローズ戦略のような中期的視野で見直すことも必要だが、まずは外部接続の恩恵を肌で感じることも有効ではないか。たとえば生産ラインの設備の遠隔保守などは比較的着手しやすいだろう。秘密情報を持たない限られた設備機械に対して外部接続を行い、設備機械のメンテナンスを遠隔地から行うのである。設備機械の障害は即生産ラインの停止につながるが、遠隔地から設備機械をメンテナンス可能にしておけば、生産ラインの円滑な運用が可能となる。外界との接続はとにかくダメというスタンスから、まずは一歩踏み出すことに期待したい。

  1. *1IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究(総務省、2016年3月)
    http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/link/link03_h28.html
    http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h28_01_houkoku.pdf(PDF/11,700KB)
  2. *2平成28年度 経済産業政策の重点(経済産業省、2015年8月)
    http://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2016/
    http://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2016/pdf/01_3.pdf(PDF/1,181KB)
  3. *2グローバルCEO調査2015(アクセンチュア株式会社、2015年)
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