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日本ファーストな温暖化対策

2017年4月18日 環境エネルギー第2部 吉田 雅哉

ノブレス・オブリージュ(仏:noblesse oblige)という言葉がある。直訳すれば「高貴さは(義務を)強制する」を意味し、社会的な強者が弱者に対して施しをする自尊の精神を指す。インターネットによって格差社会のあらゆることが曝されるようになると、弱者は、篤志ある社会に対しても石を投げる。立場の弱いものへの思いやりは、人であれば大人の、国であれば先進国の余裕であったはずだが、経済社会の行き詰まりから寛容さは失われつつある。これを“あなたのために私は死ねない”の原則と呼ぼう。

2016年、英国のEU離脱、「アメリカファースト」を掲げる米国トランプ政権の誕生など“あなたのために私は死ねない”が、世界を支配した。一方、地球温暖化の国際交渉では、11月にパリ協定が発効し、途上国を含む全ての国々が長期的な温室効果ガス排出削減のテーブルに着いた。これまで途上国は、「共通だが差異のある責任」の原則のもと、先進国が招いた温室効果ガスの排出制約のために自らの経済成長機会が阻害されることに強く抵抗してきたが、パリ協定では、資金や技術援助、プレッジ&レビュー(*)の柔軟配慮などを条件に参画することになった。2020年に向けた詳細設計交渉では、2℃目標の達成に向けて、どの国がいつどれだけ削減するのか、各国の削減水準の引き上げが議論されていく。資金動員量の確約など、途上国における明らかなメリットが失われれば、“あなたのために私は死ねない”を突きつけてくるだろう。柔軟なプレッジ&レビューの実効性を高めるためには、長期的取り組みの衡平性をはかるモノサシ(国際温暖化対策指標)が不可欠だ。

我が国の国内対策をみると、パリ協定に提出する長期低排出発展戦略策定に向け、経済産業省と環境省によるそれぞれの議論が始まっている。新興国において爆発的に増大するエネルギー需要に比べれば、我が国のそれは相対的に小さく、また減少していく。国内カーボンプライシング水準の綱引きはさておき、世界の排出削減のための一層の協働ができないか。

現在、我が国経済は、長期的衰退の危機にある。人口減少下、GDP縮減はやむなくとも、OECD35カ国中20位まで下げた1人当りGDPの低下は深刻だ。世界が持続的に発展していくためには、あくなき消費により需要を掘り起こし続けなければならないのだが、地球環境の制約の中では、加えてこれをグリーンなものにしていく必要がある。我が国の生き残りの道は、新興国や途上国における低炭素社会の実現をオールジャパンの長期的投資として成功させていくことだろう。捻出すべき長期資金は、思いやり予算ではなく、日本ファーストなグリーン需要の源泉だ。

  • *各々の国の事情に応じた効率向上、削減量などの目標を掲げ(プレッジ=誓約)、その進捗状況を認証(レビュー=履行確認)していくもの。京都議定書において、削減目標遵守が義務であったのに対し、パリ協定のプレッジ&レビューにおける目標遵守自体は義務ではない。
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