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見えないもの、見にくいもの、見分けのつかないものを「見る」技術

ハイパースペクトルイメージング

2017年5月16日 情報通信研究部 森 悠史

はじめに

ハイパースペクトルイメージングとは、数十から数百の多数の波長において高い分解能(波長の違いを識別する能力)で対象物の反射光を撮影し、可視化する技術の総称である。撮影機器はハイパースペクトルカメラと呼ばれ、現在、近紫外線、可視光線、近赤外線、中赤外線などの波長領域に対応した製品が、さまざまな目的で利用されている。

本稿では、ハイパースペクトルイメージングの応用事例を紹介するとともに、カメラの小型化やAIの高度化などによって、将来の実現が期待される新しいサービスについても述べる。

ハイパースペクトルイメージングの原理と特徴

カメラで撮影された(あるいは人間が見た)対象物の色とは、対象物に当てられた光のうち、その対象物に吸収されず反射された光の色である。たとえば、トマトが赤く見えるのは、トマトに多く含まれるリコピンという成分が青い光や緑の光を吸収するため、吸収されなかった赤い光が撮像素子(あるいは網膜)に捉えられるからである。

ハイパースペクトルイメージングも原理は同じである。ただし、ハイパースペクトルカメラで対象物を撮影すると、反射光の強度を波長ごとに測定することができる。このとき、ある波長における反射光の強度が落ち込んでいれば、その波長に相当する光を吸収する物質が対象物に含まれていると判断できる。つまり、ハイパースペクトルイメージングにより、対象物の含有成分を特定したり、その量を測定したりすることが可能になるのである。見えないもの、見にくいもの、見分けのつかないものを「見る」技術といえるだろう。

さまざまな応用事例

こうしたハイパースペクトルイメージングの特徴を活かした応用事例をいくつか紹介する。

長い歴史を持つのはリモートセンシング分野での利用である。1980年代に航空機搭載のハイパースペクトルカメラが実用化され、2000年代には人工衛星への搭載も可能になった。たとえば、アメリカ航空宇宙局ジェット推進研究所が開発したAVIRIS(Airborne Visible / Infrared Imaging Spectrometer:航空機搭載可視/赤外イメージング分光計)は地球表面や大気の状態を観測することができ、現在でも、樹種を特定した植生調査や土地・大気・水質の汚染状況の監視などさまざまな目的で使用されている(*1)。

また、ハイパースペクトルイメージングは、肉眼では見分けにくい物質の特定や分類にも有効な技術である。たとえば、色や形が酷似しているが、成分が全く異なる薬の錠剤などを見分けることができるため、調剤ミスや誤飲の防止に役立つと考えられている。また、食品加工における異物検出にも強みを発揮している。ジャムの製造工程において、葉が異物として果実に混ざると、葉が果実の色に染まってしまい、目視で見分けるのが困難になるが、ハイパースペクトルイメージングによって葉に含まれるクロロフィルを検出すると、これら異物を特定できることが分かっている(*2)。消費者の注目度が高い、「食の安全」においても、重要な技術である。

さらに、生鮮食料品の「旨味」を非接触で測る手段としても期待されている。食肉中に含まれる旨味成分であるオレイン酸等の特定のアミノ酸の分布を測定することで、食肉の旨味を定量的に評価することができる(*3)。今後、ネット通販による生鮮食料品の流通量が増えてくると、旨味や鮮度の定量的な評価が求められ、非接触で測定できるハイパースペクトルイメージングに対するニーズが高まると予想される。

「まだ見ぬ」世界

従来は大掛かりだったハイパースペクトルカメラも小型化が進み、最近では手のひらサイズのものも登場している。将来的に、スマートフォンに搭載されるようになりAIによる解析技術が高度化されれば、顔を撮影するだけで、脈拍や血糖値、皮膚の水分量などが測定され、そのデータをもとに健康状態や気分を把握することは技術的に十分可能だろう。さらには、特定物質の含有量から疾患の予兆を知り、早期に診療することで、発症や重篤化を回避することもできるようになるかもしれない。

  1. *1https://aviris.jpl.nasa.gov/
  2. *2https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/kanko_sou47.pdf
  3. *3http://www.sei.co.jp/technology/tr/bn182/pdf/sei10757.pdf
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