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ICTによる地域観光の活性化に向けて

2017年6月13日 経営・ITコンサルティング部 黒川 祥悟

我が国の観光産業は、地方創生の面で重要な役割を果たす21世紀の成長産業として、大いに期待されている。特に、外国人旅行者によるインバウンド需要は年々拡大傾向にあり、注目が集まっている。2016年の訪日外国人旅行者数が約2404万人に到達した(*1)ことが話題になったが、政府はさらに、2020年までに訪日外国人旅行者数を4000万人まで増加させる目標を掲げている(*2)。

この目標を達成するためには、東京、京都、大阪などの都市圏だけでなく、旅行者に地方まで足を伸ばしてもらう必要がある。そのためには、地域観光の活性化が不可欠であり、政府は、全国各地で地域観光の司令塔としての役割を果たす日本版DMO(Destination Marketing/Management Organization)(*3)を設立する政策を打ち出している。

DMOは地域の宿泊施設や飲食店、商工業・農林漁業事業者、交通事業者、地域住民、行政等を巻き込みながら、包括的に地域観光のマネジメントを行う欧米発の組織であり、我が国においても2020年までに全国で100法人を立ち上げる目標が掲げられている。

こうしたDMOの役割の中でも、特に大きな期待が寄せられているのは、ICTを活用した観光情報の効果的な発信や、客観的なデータ分析に基づいた地域観光戦略の立案である。昨今、ICTの効果的な活用がさまざまなサービスの競争力の源泉となっているが、地域観光の活性化においても、ICTは非常に有用なツールとなっている。こうした現状を踏まえて、本稿では、地域観光におけるICT活用の先進事例を紹介したい。

SNSやビッグデータの活用

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」(*4)によると、訪日外国人旅行者が旅行前に参照した情報源は、高い順に、個人のブログ(32.6%)、SNS(22.2%)となり、従来メディアであるガイドブック(15.3%)やテレビ番組(9.6%)を凌ぐ。観光情報を発信する際には、個人ブログやSNSのような旅行者個人による情報発信の力をうまく利用することがポイントである。静岡県静岡市では、SNSへの投稿を条件に、外国人旅行者に無線ルーターを無料で貸し出す日本初のサービスを提供している。旅行者の通信環境の確保と、観光地のプロモーションを両立する施策であり、高い注目を集めたこの取り組みの成功を受けて、現在、同様のサービスが三重県など他地域でも展開されている。

また、観光に関するビッグデータ分析サービスが登場している。経済産業省と内閣府が構築したRESAS(リーサス:地域経済分析システム)(*5)は、官民が保有する地域経済に関するさまざまなデータを地域ごとに可視化して表示することができるシステムで、外国人旅行者の滞在状況や消費行動などの把握や他地域との比較を行うことができる。RESASは、地域観光の戦略策定への活用が期待される先進的なサービスであり、今後の可能性が注目されている。

人工知能の活用

米国では、近年発展著しい人工知能を活用した観光×ICTサービスが登場している。米国のベンチャー企業WayBlazer社は、IBMの人工知能「ワトソン」を利用し、対話型で旅行情報を発信するコンシェルジュサービスを提供している。旅行者が、スマートフォンに「おいしいレストランはどこ?」「ゴルフのできるホテルは?」などと尋ねると、人工知能を通して最適な情報が提供される。従来の旅行情報は、年齢・性別等の限られた属性に応じて画一的に提供されていたが、同サービスでは、旅行者の位置情報や購買履歴等の情報だけでなく、ホテルの設備、価格、空室状況など旅行先の企業の提供情報や、SNSに投稿されたレビューなど、あらゆるデータを分析したうえで最適な回答が表示される。人工知能を活用することで、旅行者個人に対して最新の状況に応じた柔軟な情報提供が行えるようになるのである。このサービスは、同社が米国オースティン市のDMOへサービスを提供した際に、観光×ICTの先進事例として大いに注目を集めた。

なお、精度の高い回答を得るためには、データの量を増やすとともに、多様なデータを組み合わせる点がポイントである。我が国でも、2016年12月の官民データ活用推進基本法の成立や2017年5月の改正個人情報保護法の施行など、データを活用するための環境整備が進められている。こうした動きのもとで、プライバシーを保護しつつ、多様なデータを連携し、新たな付加価値を生み出すサービスの登場が期待される。

ICTを活用した地域観光の活性化に向けて

本稿で紹介したような、魅力的な地域づくりに貢献するICTサービスの活用は、まだ始まったばかりであり、さらなる展開の余地がある。

特に、ICTサービスの導入を進めるうえでは、自治体やDMOのICTリテラシー向上のほか、観光×ICTサービスの成功事例を共有する取り組みが必要であると考えられる。欧米諸国では、世界各地のDMOの業界団体であるDMAIが、各国のDMOに向けてICT活用法や成功事例についての教育を行っており、観光×ICT活用のノウハウが共有されている。我が国においても、政府や業界による観光×ICTに関する情報提供や、DMO同士のネットワーク化によるノウハウの共有等の取り組みが必要である。このような取り組みにより、観光産業においてもICTサービスの活用が促進され、ひいては地域観光の活性化に貢献することを期待したい。

  1. *1報道発表資料:日本政府観光局(2017年1月17日)
  2. *2明日の日本を支える観光ビジョン(概要)(2016年3月30日)
  3. *3日本版DMO
  4. *4観光庁「訪日外国人の消費動向 平成29年1-3月期報告書」
  5. *5RESAS-地域経済分析システム
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