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パートタイム労働者の教育訓練からの示唆

柔軟な働き方とOJT

2017年7月4日 社会政策コンサルティング部 石原 英理子

グローバル化や情報化の進展、技術革新等、企業を取り巻く環境が変化し続けるなかで、企業が競争力を高めるために重視しているのが「人材育成」である。労働政策研究・研修機構の調査(2013年)(*1)によると「自社の競争力をさらに高めるために強化すべきもの」として「人材の能力・資質を高める育成体系」を挙げた企業は過半数を占め、人材育成が企業経営上の重大な課題となっていることがわかる。

一方、2017年3月28日、政府は労働生産性の改善に向けて「正規、非正規の不合理な処遇差の解消」「長時間労働の是正」「ライフステージに応じた柔軟な働き方の導入」等を推進する考え方を盛り込んだ「働き方改革実行計画」をとりまとめた。本稿では特に、テレワークや副業・兼業等の「柔軟な働き方の導入」下における教育訓練(対象は正社員・正社員以外を問わない)のあり方について、厚生労働省の委託事業として、パートタイム労働者の活躍推進に関する調査(*2)に携わった経験を振り返りながら考えてみたい。

人材育成策としての教育訓練には、上司や先輩の指導のもとに職場で働きながら行う「OJT」、仕事から離れて行う「Off-JT」、従業員が本を読んだり通信教育を受けたりなどして自分で勉強する「自己啓発」の3つの方法がある。なかでもOJTは、仕事に直接役立つ実践的な知識・技術を習得可能であることや、個人の能力や特性に合わせて教育できる合理性を持つことから特に重視されているものであり、能力開発基本調査(厚生労働省、2017年)(*3)によると、「(正社員・正社員以外を問わず)重視する教育訓練」において「OJTを重視する」「OJTを重視するに近い」と回答した事業所は7割以上を占める。

しかしながらOJTを実施するには、ある程度業務に習熟した先輩等の指導者と、その指導者が教育に割り当てる時間が必要になり、それらが直接的に教育訓練上の課題となる。同調査によれば、(正社員・正社員以外を問わず)能力開発や人材育成に関して何らかの「問題がある」とする事業所は72.9%を占め、その問題点の内訳として、「指導する人材が不足している」(53.4%)が最も多く、次いで「人材育成を行う時間がない」(49.7%)となっている。

これまで指導者も育成対象者も正社員の場合、基本的に勤務時間はフルタイムで、働く場所も異なることはなかったので、OJTに際しても両者の勤務時間や働く場所の差異には特段留意する必要はなかったと考えられる。しかし、今後は「柔軟な働き方の導入」により、これが変化する可能性がある。すなわち、テレワークが推進され、指導者となる従業員の働く場所が多様になったり、副業・兼業が推進され、自社での勤務時間が多様化したりして、上述した「指導者不足」の問題がより強くなる懸念がある。

このような状況に鑑み、指導者の多様な働き方に留意したOJTを改めて考える必要がある。そこで、現状におけるパートタイム労働者を対象とした教育訓練を振り返ってみたい。パートタイム労働者は、正社員と比較して勤務時間が短く、シフト制といった働き方の者も多い。つまり、パートタイム労働者の育成に際しては、指導者(*4)と育成対象者自身とが必ずしも同時間帯に勤務できなかったりする。このようなケースでの教育訓練上の課題は、「柔軟な働き方」下における教育訓練上の課題と近似性を持つ。以下では、パートタイム労働者を対象としたOJTで工夫が推奨されており、かつ「柔軟な働き方の導入」下のOJTにおいても活かされるであろう点と、その有効性を高めるために重要な方策を述べる。

指導者、育成対象者の両者がパートタイム労働者であるときのように、一人の指導者が一人の育成対象者の教育を担当しづらい場合には、「育成対象者同士で能力を高めあえる仕組み」を設けたり、「複数人の指導者を設定」、もしくは「指導者が適切に教育を実施しているか確認する担当者を設定」したりする工夫が肝要だと考える。しかしながら、従業員同士の学びあい任せの部分が増えて、指導者が教育を軽視したり、複数の指導者・担当者がいることによって、指導者・担当者間で育成対象者が身につけるべきスキルに関する認識の相違があり教育内容に差異が生じたりする可能性がある。

この事態を回避するためには、「従業員の持つべきスキルの明文化・項目化」と「指導マニュアルの整備、指導者に対する研修」が重要である。当社が厚生労働省から委託を受けて実施したパートタイム労働者に対する教育訓練に注力する企業へのヒアリング調査では、正社員やパートタイム労働者といった雇用区分を問わず、必要なスキルを明文化・項目化し、かつ各自のスキル習得状況を一覧表にして従業員同士がお互いの保有するスキルを確認できる仕組みを設けている企業がみられた(*5)。これによって、従業員が自身に求められるスキルを獲得するために主体的に業務に取り組む意識を喚起するだけではなく、従業員同士が互いの不足を補完するために協力したり切磋琢磨しながら学びあったりする職場風土の醸成につなげていた。

なお、同社の場合は、従業員の学びあいを重視するだけではなく、各育成対象者につき一人の指導者をつけていた。また、各自が必要なスキルを習得できたかどうかは、指導者だけではなく別の担当者(*6)によって定期的に確認するようにしていた。同社では上記のような方法で、育成対象者が必要なスキルを着実に身につけられるように工夫していたが、複数の指導者・担当者をつける場合には、「指導マニュアルの整備、指導者に対する研修」を行うことも推奨される。このことで、指導者や担当者は教育するべき内容のばらつきを抑えることができるからである。

「柔軟な働き方の導入」に伴って、企業は従業員の多様な働き方を一層考慮した教育訓練の方策を考えていく必要がある。その際に、上述した現状のパートタイム労働者を対象とした教育訓練上の工夫は、今後とも留意するべき取り組みの一つではないだろうか。

  1. *1独立行政法人労働政策研究・研修機構『構造変化の中での企業経営と人材のあり方に関する調査』、2013年
  2. *2厚生労働省(みずほ情報総研委託)『平成28年度パートタイム労働者活躍推進事業』
  3. *3厚生労働省『能力開発基本調査』、2017年
  4. *4パートタイム労働者育成時の指導者には、正社員が就く場合もパートタイム労働者が就く場合もある。
  5. *5厚生労働省(みずほ情報総研委託)『平成28年度パートタイム労働者活躍推進事業』
  6. *6別の担当者とは、同社における「指導者が適切に教育を実施しているか確認する担当者」のことを指す。

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