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社会インフラと深層学習

2017年8月8日 サイエンスソリューション部 高椋 恵

はじめに

社会インフラは、人々が活動するうえで必要となる基盤であり、河川、道路、鉄道、港湾、空港、上下水道や電気・ガス等が挙げられる。我々はそれらを新しく整備することもあれば、老朽化による再整備をすることもあるだろう。近年、社会インフラ分野においても「深層学習(ディープラーニング)」というキーワードを耳にすることが増えてきた。本稿では、社会インフラの視点から、深層学習というツールの活用方法について考えてみたい。

我が国の社会インフラ

我が国を取り巻く状況は、生産年齢人口の減少による人手不足や財政等の課題があり、社会インフラを新しく整備する、あるいは老朽化による再整備を行うということが難しくなっている。一方で、日本は自然災害が多く、地震、洪水や大雨による土砂災害等に対する備えは生命や財産を守るという観点から特に重要である。したがって、「どのような整備を進めるべきか」についても、常に考え続けなければならない。

深層学習

深層学習は、2012年にコンピュータが猫の画像を認識したことで広く知られるようになり、2016年には、囲碁トップレベルの棋士に、Google傘下のDeepMindが開発したAlphaGo(*1)が勝利するという出来事があった。AI(人工知能)の研究の中で用いられていた従来の機械学習では、まず人間がデータ分析を行い、特徴量(*2)を設計したうえで学習させることをする。したがって、認識や予測の精度を上げるためには、この特徴量をいかに上手く設計するかが鍵となる。

一方、深層学習では、人間が行っていた特徴量の設計をコンピュータ自身が行うことが可能となる。これは、深層学習のアルゴリズムが開発され、学習のために大量のデータを準備できるようになり、大量のデータを処理するために必要なコンピュータの処理能力が飛躍的に上がったことで実現可能になった。最近では深層学習に関する多くの書籍も出版されており、TensorFlow(*3)をはじめ、深層学習のためのライブラリも多数開発され、個人で利用することも容易になった。

社会インフラ整備のための公共事業での利用

前項で触れたが、社会インフラ整備の課題の克服のため、次のような深層学習の活用方法を考えてみる。

  1. (1)生産性向上を目的とした活用
  2. (2)安全・安心のための災害予測への活用

(1)の活用の1つとして、技術者が視認して実施するような構造物の劣化診断が挙げられる。たとえば、技術者が視認するためには足場を組まなければならないような橋脚や高所の箇所であっても、無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)にカメラを搭載して画像を撮影することで、劣化診断が可能になりつつある(*4)。全てを深層学習の結果で判断することはできないであろうが、大量のデータを深層学習により1次スクリーニングしたうえで、その後、人が判断するというやり方でも十分な生産性向上が見込まれるだろう。深層学習の導入により、人手やコストを低減することが可能になりつつある。

(2)の活用例として、洪水予測を考えてみる。現在では、河川情報や気象データに基づく洪水予測を行い、住民に警報・注意報や避難勧告などの情報を提供する仕組みがある。これらの予測にも深層学習を活用した高度化の研究が進められている。河川の洪水予測は、数値計算手法の1つである流体解析を用いた予測が実施されているが、降雨量や上流側の河川水位等の時系列データを入力して学習および予測させる、実データに基づく深層学習の研究も行われている(*5)。物理モデルを用いた予測は計算に時間がかかることも多く、1分1秒を争うような状況であれば、実際の物理現象はどうあれ、精度良く予測し、可能な限り早く住民に情報を提供すべきである。その点では深層学習を用いた予測精度の向上は適切であろう。

一方で、社会インフラの整備では、災害を予測し、情報提供するだけではなく、再び災害があれば、被災しないよう、もしくは被害の程度を抑える減災のための施策を考え、実行することも重要な役割である。たとえば、洪水対策として、河川区域内の土地の形状変更を行ったり、堤防の位置や高さの見直しを検討することなどが考えられるが、深層学習の場合、整備後の河川の水の流れや、増水時・氾濫時のデータを取得して学習させない限り予測はできないため、どのような対策が適切かは知ることができない。したがって、川の流れや水位、その時堤防がどうなっているか等の観測データと、物理モデルを用いた数値シミュレーションを組み合わせて現象を把握し、適切な整備のための計画を立てる必要があるだろう。

おわりに

深層学習というツールは、社会インフラの整備という観点からも期待が高く、今後も発展していくだろう。一方で、深層学習および社会インフラについての知見や技術、課題等を深く理解したうえで適切な使い方をしなれば意味のないものになるだろう。深層学習のさらなる発展により、未知のものを既知のデータから予測できるようになればと期待するが、現時点ではまだ、人が考え、判断すべき問題は多くあると考える。今後も社会インフラ分野の課題を踏まえながら、深層学習が対応できることと人間が対応しなければならないことを整理し、適切に役割を分担することで、より効率的な社会インフラの整備が進むことが望まれる。

  1. *1AlphaGO
  2. *2学習データにどのような特徴があるかを数値化したもの。
  3. *3TensorFlow
  4. *4橋梁のUAVによる点検の研究開発事例(東北大学:2017年 受賞・成果等)
  5. *5深層学習を用いた洪水予測の論文事例
    一言正之,櫻庭雅明,清雄一:深層学習を用いた河川水位予測手法の開発,土木学会論文集B1(水工学),72(4),I_187-I_192, 2016
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