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介護離職を防ぐために

2017年8月15日 社会政策コンサルティング部 羽田 圭子

大介護時代の到来

2017年度末の介護保険の要支援・要介護認定者数は632万人で、介護保険が創設された2000年度末の256万人から約2.5倍に増加した(*1)。少子高齢化が進み、誰もが親や配偶者等の介護に直面する可能性のある時代となっている。介護離職者は年間10万人(*2)にも上り、介護と仕事の両立支援を国としても推進しているところである。

特に、正社員については「パート・アルバイトに比べ労働時間が長い、業務にかかる責任が重く代替性が低い」「自営業と比べ働き方の裁量が小さい」などの理由から、両立はより困難だと考えられている。

当社では、2016年12月、正社員として就業中に在宅介護をしなければならなかった40代50代男女を対象にインターネット調査を実施した。同調査は「就業継続者(同じ職場で正社員を継続)」「介護転職者」「介護離職者」の3類型で各1000人、合計3000人の実態の把握と両立モデルの検討を行ったもので、本稿では調査結果の一部を紹介する(*3)。

重い介護の負担感

調査では、介護転職者92.8%、介護離職者84.8%、就業継続者81.6%と、3類型とも8割以上が「介護に負担を感じている」と回答している。

行っている介護の内容をみると、3類型のいずれも「掃除、買い物、洗濯、料理等の日常的な家事」「見守り」「外出の介助」の実施割合の高さが目立ち、3割を超えている。この回答結果は、介護保険の適用における「家族が同居している世帯の家事援助には制約がある」「長時間の見守りや外出の介助は原則、提供の範囲外」などの条件によるものと思われる。

加えて、介護離職者は「一緒に食事や外出をする」35.3%、「金銭管理、税金や行政手続き等の代行支援」34.8%「受診時の対応」34.5%、「食事・入浴・トイレ介助等の身体介護」31.8%、「服薬の管理や支援」31.1%、「ケアマネジャーやサービス事業者との話し合い・連絡調整」30.6%、の6項目も3割以上となっている。

在宅介護の形態は、同居・別居、主たる介護者か従たる介護者等によって多様であるものの、就業継続者、介護転職者と比べると、介護離職者では、医療・介護サービスの調整や行政手続などのマネジメントと要介護者に対する直接的な支援の両方の実施割合が高いことが分かる。

働き方の調整の必要性

働き方の調整方法については、「残業をしない・少なくする」が最も多く、介護転職者の41.4%、就業継続者の35.3%が行っている。その他、就業継続者は「有給休暇や積立休暇の取得」14.2%が多い。介護転職者は「1日の所定労働時間を短くする短時間勤務」18.7%、「深夜残業をしない・少なくする」17.4%、「1週または1カ月の所定労働日数を短くしている」13.6%等、さまざまな方法で両立している。

介護は対人的支援であり、日常的に介護の時間を確保しなければならないため、日々の労働時間が長時間にならないように工夫していることがうかがえる。

社会として両立支援を推進する必要性

介護と仕事で精神的・身体的な疲労が蓄積すると、いわゆる「介護うつ」になることがある。介護と仕事の両立を自己責任として介護者にまかせきりにしておくと、要介護者、介護者が共倒れになる可能性もある。介護人材だけでなく全般的に労働力が不足している現在、国民全体が「お互いさま」の精神で両立の実態を理解し協力しあうことが求められるのではないだろうか。

企業は、介護離職による人材喪失への対応に迫られている。まずは「人事部が介護保険制度や自社の両立支援制度を40代以降の従業員に日ごろから周知する」「上司は部下の家族の様子を把握して、介護が発生した時は情報を提供し、制度の利用を薦める」などの取り組みが必要となる。そして、介護者が「働き方の調整で周囲に迷惑をかけている」と感じることがないように、上司、同僚が快く協力しあう企業風土づくりが大切である。

公的機関の役割も重要である。介護保険の運営は区市町村が行っており、概ね住まいから30分以内に1カ所、公的な相談窓口として地域包括支援センターを整備している。住民がすぐに相談できるように、窓口を周知しておく必要がある。加えて、平日夜間、土曜日の窓口対応があると働く介護者も利用しやすい。また、介護者の負担感の一因として、医療・介護制度の手続きに手間がかかることが挙げられている。公的制度である医療・介護保険の手続きは厳正に行う必要があるが、対象が要介護高齢者と家族であることをふまえ、なるべく簡素化することが望まれる。

相談とチームケアの重要性

調査によると、介護離職者の47.8%、介護転職者の31.4%が離職・転職の直前に誰にも相談をしていなかった。

仕事を失うことは、介護者のキャリアの断絶、収入や自身の将来の年金の減少、社会からの隔絶等につながる。要介護者と介護者の双方の生活が困難なものとならないよう、勤務先、市町村、ケアマネジャー等に相談をして、仕事を継続する方法がないか慎重に検討すべきだろう。介護や仕事の状況は多様なため、自身の状況に合った情報提供やアドバイスを関係機関や専門家から直接、受けることが重要である。

介護は数年にわたり、様々な状況の変化も起こるので、介護者が「マネジャー」となってチームを作って両立に取り組むとより安心である。家族や近隣の方と良好な関係を築くといったことも大切だ。医療・介護・福祉・労働等の公的な支援を活用し、足りないところは民間サービスで補うようにする。そして、自分の時間も積極的に確保するなど、自分で介護しすぎないことが仕事と介護の両立のポイントとなる。

  1. *1介護保険事業状況報告(厚生労働省)
  2. *2平成24年度就業構造基本調査(総務省、2013年7月)
  3. *3介護と仕事の両立を実現するための効果的な在宅サービスのケアの体制(介護サービスモデル)に関する調査研究(みずほ情報総研、2017年3月)
    (PDF/1,433KB)
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