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いろいろ使える「行動インサイト」のお話

おとなの自由研究

2017年8月22日 事業戦略部 菊地 徳芳

小学生の夏休みもいよいよ終盤戦。自由研究のテーマがなかなか見つからない子ども達や、子どもと一緒に悩んだり、子どもが取り組む姿をもどかしそうに眺めている大人達など、毎年恒例の光景となっている。悩みながらも、一生懸命に取り組む子ども達の姿は、微笑ましくもあり、頼もしくもある。そうした子ども達のがんばりに、私たち大人も負けてはいられない。仕事や家庭、地域社会といった日々の暮らしに目を向ければ、大小さまざまな社会課題があるのだから、それらをテーマに、「おとなの自由研究」にチャレンジしてみてはどうだろうか。

まずは、「テーマ」。例えば、「歩きスマホ」にはじまり、「毎日の満員電車」「長時間労働や働き方改革」「続かないダイエットや健康づくり、スポーツ」「路上喫煙や放置自転車」「節電やごみの分別」「子ども連れや高齢者等への気づかいや手助け」など、大人になった今であれば、日常生活でふと目にしたり耳にしたりする身近な話題だけでも、自由研究のテーマには事欠かない。これらのテーマは、何も目新しいものばかりではないし、一見すると、かなり幅広い内容だ。しかし、1つ共通点がある。それは、結局最後は本人や周りの人々の「行動を変える」ことができるかどうか、それが解決策に求められる要件なのだ。

そこで、ここ数年、私も積極的に調査・研究し実践している「行動インサイト」(Behavioral Insights)というアプローチを紹介したい。これは、行動経済学を中心に社会心理学や行動科学等も含めた幅広い概念の総称であり、その特徴は、「社会・経済的行動における心理的バイアス(心のクセ)」をうまく利用し、その人の行動を望ましい方向に変容させるところにある。それゆえ、人生経験豊富な大人が取り組む「おとなの自由研究」には、もってこいなのだ。身近な社会課題の中からテーマを定めたら、「実際に、誰がどのように行動するようになれば、その社会課題は解決していくのか?」を考えてみよう。この「具体的な行動にフォーカス」するスタンスこそが、最初のポイントとなる。次に、「社会・経済的行動における心理的バイアス(心のクセ)をどのように活用すれば、その人にその望ましい行動を起こさせることができるのか?」を考え、細部への注意も払いながら解決策に落とし込んでいく。その際には、イギリス内閣府の「Behavioural Insights Team(通称:ナッジ・ユニット)」が整理した「MINDSPACE」という、次の9つのポイントが参考になる。

  1. Messengers(メッセンジャー)
    行動は「誰が情報の伝達者であるか」に影響を受ける。
  2. Incentives(インセンティブ)
    行動は「心理的近道」によって方向づけられる。この心理的近道には、損失回避(利益を得るよりも損失の回避を選ぶ)、参照点依存(絶対水準ではなく変化量で価値を測る)、確率加重関数(低い確率を過大評価したり高い確率を過小評価する)、心の会計(同じ金銭でも入手方法や使途によって重要度や扱いを変える)、双曲割引(遠い先のことは辛抱強くなれてもそれが間近になるとせっかちになる)等がある。
  3. Norms(規範)
    「周りの人が既に行っていること」を行いがちである。
  4. Defaults(デフォルト)
    日々の多くの意思決定や選択は、予め示された「初期値」に流されている。
  5. Salience(顕著性)
    注意は「目新しいものや自らに関係あるもの」に向けられる。
  6. Priming(プライミング)
    行動は、しばしば「潜在意識下の合図(言葉、見た目、におい)」によってもたらされる。
  7. Affect(情動)
    「感情」の連なりは行動を強力に形づくる。
  8. Commitments(コミットメント)
    「公にした約束と矛盾しない」ように努め、行動で報いようとする。
  9. Ego(エゴ)
    「自分自身の気分を良く」しようと行動する。

すでに海外では、「行動インサイト」の成功例が多く生まれている。例えば、「周りのみんなもやっているよ」というメッセージで訴えかけることで、他の方法よりも節電率や納税率が向上したり、社食のランチメニューを「昼ではなく朝のうちに選ぶ」方式にしたことで、健康的なメニューの選択率が向上したりしているのだ。「MINDSPACE」を参考にすれば、あなたにも、「そうか、その手があったか!」と世間がハッとするような解決策を創り出せるかも知れない。

さて、誰かにある行動を促したい時、「行動インサイト」は、私たちに貴重なヒントやアイディア、発想力を与えてくれる。それは、今回のような身近な社会課題解決の場合もあれば、職場における事業や商品・サービス、政策等の新規開発や改善の場合もあるだろう。実際に、「フォーチュン500」の企業のうち約2割がこうした視点を経営に活かす責任者を置いているほか、行政では、イギリスの「ナッジ・ユニット」を皮切りに、アメリカやオーストラリアでも政府内に専門機関が相次いで設立され、フランスやデンマーク等では政策への応用が始まっている。こうした動きを受けて、私も「行動インサイト」を上手に使うためのメソッドについて、独自に開発してきたところである。

今回のコラムをきっかけに、「行動インサイト」の面白さにピンときたならば、さっそく、あなたの職場におけるビジネスや政策等にも活用してみてはいかがだろうか。

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