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ものづくりニッポンの再考・再興

2017年8月29日 プリンシパル 瀬戸口泰史(環境エネルギー第2部)

古来からの技術を踏襲した職人の製品が海外で重用されるシーンの紹介など、TVでは「やっぱりすごいぞ」的に日本自身を褒める番組が増えている。見ていてちょっと心が和むのだが、本当の「ものづくりニッポン」はどうなのだろうか。一断面だが、高度成長期から1980~90年代頃世界を席巻した「電子立国」「半導体立国」は思い出の彼方である。韓国などの新興国にメモリ、液晶などの市場を奪われたということではある。それはそれとして、新たなアーキテクチャが日本から登場しないことが気になってならない。

ソフトバンクが買収したARM社は英国のベンチャーで、その製品であるRISCプロセッサは世界で最も普及している。多くの読者のスマホもそれで動いているはずである。英国が電子技術で先進的なポジションを持っている、わが国でそう認識されることはこれまであまりなかったのではないか?英国では教育用にARM社のプロセッサを搭載した名刺サイズのコンピュータボードが単価3,000円程度で開発され(Raspberry Pi)、多くの小学校児童に配付(無償供与)された。裸の基板だが、汎用OSであるUNIXが使え、ケーブル一本で家庭のテレビをディスプレイとして使うことができる。当然ネットにも繋がる。もらった子供の全員が使いこなせるとも思えないが、その何割かは愛着をもってMy Computerをいじり倒すに違いない。わが国の小学校のコンピュータ教育はソフトウェアのユーザとしての立場が主で、Windows上でワープロの使い方を学ぶことなどに重きが置かれているのとは対照的である。

同じく教育用(対象は大学生だったらしいが)で、よりシンプルなマイコンボードArduinoはイタリアで開発された(プロセッサは米国製)。Wi-Fiで簡単にマイコンをネットに繋げるIoTデバイスであるESP-xxは中国・上海のメーカだ。巷では電子工作ブームらしい。しかし、アキバで列を作って買い求められているのはこれら英、伊、中の製品だ。

そんな中、東京で開催されたMaker Fairに足を運んだ。主催者によれば「ユニークな発想と誰でも使えるようになった新しいテクノロジーの力で、皆があっと驚くようなものや、これまでになかった便利なもの、ユニークなものを作り出す「Maker」が集い、展示とデモンストレーションを行う」イベントだ。今年もNY、北京、モスクワ、ハノーバーなど世界中で開催される。

企業の出展もあるが、何と言っても個人、サークルの出展が面白い。パソコンの前を離れるとアームが伸びてきてキーボードの“Ctrl”と“s”を自動的に押してくれる(セーブしてくれる)装置、混じり合った「きのこの山」と「たけのこの里」を画像認識とマジックハンドで自動選別する装置、設定時刻になると味噌汁が香り本物の包丁がまな板をトントンとたたく母親の朝食作りを再現する目覚時計、といった「おふざけモノ」にも手の込んだ技術が組み込まれている。レコードプレーヤーを発展させた自動クレープ焼き器は近々製品化されるらしい。Raspberry Pi(前出)と画像認識を用いたキュウリの選別装置は零細農家の生産性を高めてくれるし、お掃除ロボットRoomba風のカル鴨ロボットは水田の無農薬化まであと少しのコストダウンの段階だ。アマチュアが集まって、1kg強という制約下で開発している人工衛星は2年後に国際宇宙ステーションISSから放たれ、地球を回り画像を届けてくれる(はず)という。

それぞれ、発想と知識、機械加工、電子技術に想像以上に高いレベルのものが投入されている。参加者がそれぞれ掲げたゴールには教科書などあるべくもない。したがってその実現には多くの工夫と失敗が積み重ねられているはずである。

技術とは簡単なものではない、ということを言いたいがためにダラダラと駄文にお付き合いさせてしまった。要は、「簡単にできる○○の製作」とか「君にもできる△△」などとして出来合の材料を与えるアプローチに多くを期待してはいけないのだ、と記したかったのである。もちろん、最初の機会として平易に何かを示すことは重要で、科学教室などは大いに意味のある入り口ではあろう。

ただ、多くのことを学ばねば、また腕を磨かねば技術は身につかないし、楽しくもない、ということを教育者も社会ももっと自信を持って口にして良いのではないだろうか。入り口で至れり尽くせりのサービスを用意する一方で、興味を持った子供を次のレベルにまで高める(深める)環境が日本には少な過ぎるように思う。極々一握りの者が独学で技を磨いているのだ。そういう意味では、地域が裾野となり、部活動やクラブチームを経てプロへとも繋がる構造をもつ野球やサッカーなどを見習うべきなのであろう。しかし、それを見習うのは誰なのか、残念ながらその受け手が思い当たらない。

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