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今後はどうなる?排ガス浄化にまつわる最新動向

2017年9月26日 サイエンスソリューション部 佐久間 優

はじめに

現在では製造されている自動車や船舶の多くに排気ガス後処理装置(*1)が設置されており、大気汚染防止に重要な役割を果たしている。一方で、先進国を中心とした温暖化対策や環境保全に関する意識の高まり、海外自動車メーカーの不正ソフトウェア搭載による排出ガス規制逃れなどから、世界的に排ガス規制はますます厳しくなっている。このような背景のもと、実測・試験制度の見直しや、排気ガス後処理装置の性能向上に向けた研究・開発への積極的な投資など、排ガス処理を取り巻く環境は変革の時期にある。

新たな試験制度の導入

自動車排ガスの新たな試験制度として最も注目を集めているのが、路上走行テストによって排気ガスを測定するRDE(Real Driving Emission)試験(*2)である。RDE試験の導入では、台上試験における不正や実走行時と台上試験の測定値の乖離を防止することが期待されており、欧州では2016年から新型車を対象に既にRDE試験の導入が義務付けられている。なお、日本においても2022年にディーゼル車の排ガス検査に路上走行テストを導入する方針となっている(*3)。また、日本においては、台上試験においても試験制度の移行がある。従来日本で行われてきた台上試験の走行パターンであるJC08モードに代わって、2018年10月からは日本でも乗用車の排出ガス/燃費試験の国際基準であり、より実走行に近い走行パターンであるWLTP(WorldHarmonized Light Duty Test Procedure)が導入されることとなっている(*4)。既に一部の国内メーカーではWLTPの試験サイクルであるWLTC(World Harmonized Light Duty Test Cycle)モードに対応した燃費消費率の発表も行われている。

生産増強に向けた積極的な投資

近年、主要サプライヤーにおいて排ガス後処理装置に関連する部品・部材の生産増強への積極的な投資が行われている(*5)。その背景としては、先進国での環境規制や新興国への環境規制の広がりに加えて、新興国における乗用車の一層の普及も見込まれることから、今後一層排ガス後処理装置の需要が増えるとの判断があると考えられる。

性能向上、コスト削減に向けた研究開発の取り組み

排ガス規制が今後もより一層強化されることが見込まれる中、自動車メーカーやサプライヤーは、排ガス後処理装置の性能向上やコスト削減に向けて継続的に研究開発に取り組んでいる。装置の設置方法の効率化や触媒を担持する基材の開発、貴金属やレアアースを使用しない高活性な触媒の開発など、様々な視点から研究開発が進められている(*6)。

また、自動車業界においては、AICE(*7)のもと排気後処理技術の高度化研究が産学連携で進められており、工学分野(内燃機関、排気)と化学分野(触媒、反応)が情報共有を強化するなど、協調した取り組みが進められている。

シミュレーションの活用

直接観測することが困難な現象の再現や現象の細部を理解する上で、シミュレーションは非常に有用である。排気ガス後処理装置でも既に研究開発や設計において様々なシミュレーションが活用されており、今後もその重要性は増していくと予想される。一方で、排気ガス後処理装置のシミュレーションでは排気管サイズから触媒空孔サイズに至るマルチスケールを取り扱う必要があることと同時に、流れ、反応・物質移動、伝熱などが複雑に絡み合う複数の現象を同時に考慮しなければならず、全ての効果を取り入れたシミュレーションを行うことは非常に困難であることも事実である。

当社でもこれまでに蓄積したソフトウェア開発やマルチフィジックスシミュレーション(*8)の知識・ノウハウをもとに、排ガス浄化用のシミュレーションモデルの開発を行っている。複雑な現象に対してモデルオーダーリダクション(*9)の考え方を取り入れることや実測画像を活用することなどを想定した新たな取り組みを進めており、シミュレーションを通じて排ガス処理技術の向上に寄与したいと考えている。

  1. *1排気ガスに含まれる有害な成分(窒素酸化物や炭化水素など)を浄化し、無害な成分に変える装置
  2. *2MONOist「欧州で実施中の排ガス路上走行テスト、日本版は2017年春にも最終案」(2017年2月28日)
  3. *3日本経済新聞「ディーゼル車排ガス路上試験 国交省、22年から」(2017年4月20日)
  4. *4毎日新聞「JC08に代わる新しい燃費測定方法のWLTCモードって何?」(2017年6月19日)
  5. *5日本経済新聞「日本ガイシ、排ガス浄化用部品をポーランドで増」(2017年3月30日)
    日本工業新聞「キャタラー、車用排ガス触媒 南ア生産能力倍増VW受注増に対応」(2017年4月27日)
  6. *6MONOist「貴金属を20%削減した排ガス触媒、トヨタが新型車に展開」(2017年2月23日)
  7. *7The Research association of Automotive Internal Combustion Engines:自動車用内燃機関技術研究組合
  8. *8複数の同時発生する物理現象を含む数値シミュレーション
  9. *9モデルを低次元化することによって計算時間を高速化する技術
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