ページの先頭です

イランビジネスへの期待と現状

2017年10月10日 環境エネルギー第1部 齊藤 聡

長引く低成長にあえいできた日本企業が探し求めて止まないのが、新たな成長の糧となりうるフロンティア(未開拓地)である。その点から、近年、ミャンマーやアフリカ諸国が注目されてきた。そして数年前から耳目を集めた国がイランである。

2015年7月に、国連常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6か国とイランとの間で、JCPOA(核問題に関する包括的共同作業計画)が合意され、イランにとって、長期間にわたる経済制裁から脱する道が拓かれた。わが国はこれに沿って、国連安保理決議の要請に応える措置を解除した。

よく誤解されることだが、経済制裁を受けつつもイランの所得水準は中進国以上である。鉄鋼や自動車など主要産業はひと通り揃っており、首都テヘランの市内を歩いてみても制裁の傷跡を感じさせるようなものは見当たらない。敢えて言えば、反米のイラストがビルの壁に描かれているくらいである。しかし、近年は、インフラや設備を導入・更新のための資金が不足しており、それらは次第に老朽化し、性能も劣ったものとなってきていた。

経済制裁の中でもっとも大きな影響力があったものは、アメリカの「一次制裁」(アメリカ法人のイラン取引禁止など)および「二次制裁」(非アメリカ法人の諸条件下でのイラン取引禁止など)であった。核合意により後者の二次制裁はほとんど解除され、大きなポテンシャルを持つイラン市場への期待が急に高まることとなった。わが国や欧州の企業もイランビジネスを本格的に再開できることになったわけである。

2016年2月には、イラン経済財務省、日本の経済産業省、日本貿易保険(NEXI)、国際協力銀行(JBIC)の間で、イランにおける1.2兆円規模のファイナンス・ファシリティ(日本企業が関与するプロジェクトを対象としたファイナンス面での協力の仕組み)の設置が基本合意された。これにより、一定の基準をクリアすれば、「輸出金融」を組むことができる。JBICが7割程度、邦銀が残る3割程度を協調融資し、邦銀融資分についてはNEXIが付保する方法が典型的な形だ。こうなれば、資金調達に困っているイラン側にとっては好条件での融資を受けることができ、また日本側にとってはファイナンスや優位技術をセットにすることによって設備輸出の可能性が高くなる。地場銀行や国際開発金融機関(世界銀行など)からの資金調達が容易ではなく、またカントリーリスクがあるため邦銀単独での事業融資も困難なイランにおいては、この「輸出金融」こそが日本企業にとって望ましい形だと見なされた。

しかし、この期待には、急に冷や水がかけられることになった。トランプ政権の発足である。以前からイラン核合意に極めて批判的であり、大統領就任後も対外的に強い態度を取り続けている。となれば、制裁をもとに戻すことになるリスクを現実的に想定しなければならない。2015年にはイラン国内のホテルのロビーでも目立っていたヨーロッパ人の姿が、2016年には目に見えて少なくなった印象がある。その影響があり、ファイナンス・ファシリティの発足も停滞気味である。

とは言え、イランビジネスの可能性が消えたわけではない。韓国や欧州諸国が、政府の後押しのもと着実に融資ルートの設定に向けて動いているとの報道もある。経済制裁が再度行われることも含め、リスクテイクの形に関する合意がなされれば、ファイナンス・ファシリティも稼動に向かって動き出すことがなお期待できる。日本企業からも、しばらくは注視し続けるべきフロンティアだと言うことができるだろう。

ページの先頭へ