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子供の貧困を考える(1)

“子供の貧困”をどう測定するか

2017年10月31日 社会政策コンサルティング部 福田 志織

誰が貧困で、誰が貧困ではないのか

日本の子供の貧困率は「16.3%」(2012年 *1)、つまり6人に1人の子供が貧困状態にある、というニュースがマスコミを賑わせてから、早5年が経過した。その後、2014年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行され、「子供の貧困対策に関する大綱」が閣議決定されるなど、政策的に子供の貧困対策の推進が打ち出された。また、一部の自治体によって子供の貧困に関する調査が行われ、民間レベルでは「こども食堂」が拡がるなど、全国でさまざまな取り組みが始まっている。

ところで2012年当時、この「6人に1人の子供が貧困」というニュースを、驚きを持って受け止めた読者も多かったのではないだろうか。中には「近所の子供を見ても、さすがに6人に1人も貧困状態の子供がいるようには思えない」「アフリカの飢餓状態の子供であればともかく、その日の衣食住が満たされている日本の子供は貧困とは呼べないのでは」という疑問を持つ方もいたかもしれない。

そのような疑問は、ある意味的を射ている。「貧困状態」とはどのような状態を指すことなのか。誰が貧困で、誰が貧困でない、という区切りはどうつけるのか。実態を正確に把握しなければ有効な対策(施策)を打つことはできないが、貧困の「実態」をどう測るかは、そう簡単な問題ではない。

金銭的指標と非金銭的指標

たとえば、冒頭で紹介した16.3%という数字は、「相対的貧困率」と呼ばれる指標である。「相対的貧困」の定義は、「等価可処分所得(*2)が全人口の中央値の半分未満」であるとされる。平たく言えば、社会の構成員全員を一人あたり所得の高い順に並べ、ちょうど半分の順位(100人いれば50番目)の年間所得が240万円であった場合、そのさらに半分である120万円が「相対的貧困ライン」となり、このラインを下回る人が相対的貧困の状態であると定義される(*3)(通常子供に所得はないが、等価可処分所得はその子供が属する世帯全体の所得をもとに一人あたり所得を計算する)。

所得の多寡で貧困状態か否かを判断する相対的貧困は、比較的わかりやすい指標である。しかし、このような指標では、たとえば食事や医療の現物給付や、預金・持ち家等の資産、負債は考慮に入れられない。同じ年間120万円の所得でも、何らかの形で食事や医療が無償提供され、十分な預金を持ち、ローンを完済した持ち家に住む世帯と、120万円の所得の中から家賃を支払い、食費や医療費を支払い、さらに負債も抱える世帯では、その生活水準は大きく異なるだろう。しかし、所得の多寡のみで貧困状態を計算すると、このような差は見えなくなってしまう。この課題を解決する指標として、たとえば「1日3食食べることができる」「修学旅行に行ける」といった、生活に必要なモノやサービスが、経済的な理由で欠如しているかどうかを測定し、その結果を以てその人の生活水準を測る指標(物質的剥奪指標)もある。

さらに、国内外の数多くの調査研究において、貧困が子供の健康、学力、対人関係等に悪影響を及ぼすことが指摘されている。貧困状態にある子供の治療されていない虫歯の数は、そうでない子供より多く、学力は相対的に低く、高校中退率は高い傾向にある(*4)。貧困によって被る不利益を最小限にし、貧困の世代間連鎖を止めるためには、金銭的な給付だけではなく貧困状態によってもたらされうるさまざまな問題への対処も必要である。

つまり、子供の貧困問題に実効性のある手を打つためには、所得の多寡といった金銭的指標はもちろんのこと、生活に必要なモノの保有状況や健康・学力の状況といったさまざまなアプローチから「貧困」を把握し、実態に合った対策を講じなければならない。さらに、その対策の効果を測るために、この実態把握は経年的に行われなければならない。

子供の貧困対策に関する国民的合意形成のために

子供の貧困の実態を正確に把握し、実態に応じた実効性のある対策を行うこと、また、その対策に国や自治体予算を投じることについて国民的合意を得ること。そのためには貧困を測定し、どの程度貧困かを端的に表す指標が不可欠である。貧困の定義や貧困状態を表す指標について、万人が納得する唯一解は存在しないが、できる限り多くの人が合意できる「客観的な」貧困指標を作成すべく、研究者らによって長年検討が重ねられている。本「子供の貧困シリーズコラム」では、全4回にわたり、子供の貧困状態を把握するための指標について紹介し、それらの指標を用いた政策決定の意義などについて考えていきたい。

  1. *1平成24年国民生活基礎調査(厚生労働省)より。なお、平成27年調査では13.9%と2.4ポイント低下した。
  2. *2世帯の可処分所得(いわゆる手取り収入)を世帯人数の平方根で割って算出するもので、世帯構成員一人あたりの可処分所得を表している。
  3. *3これに対し、絶対的貧困という概念もある。絶対貧困とは「必要最低限の生活水準を維持するための食糧・生活必需品を購入できる所得・消費水準に達していない」状態と説明される。
  4. *4内閣府「平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究」報告書(委託先:みずほ情報総研)

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